「BanG Dream!」(以下、バンドリ!)の楽曲をプロデュースする音楽クリエイター集団「Elements Garden(エレメンツ ガーデン)」を率いるのが、音楽家の上松範康氏だ。音楽だけではなく会社経営やアニメ原作などマルチな才能を発揮している上松氏だが「バンドリ!」では音楽プロデューサーとしてサウンドのみに集中して活動を行っている。その真意を聞いた。
▶本編:集大成の第3期「BanG Dream! 3rd Season」
―第3期のオープニング「イニシャル」は上松さんご自身が作曲を手がけられたそうですね。
上松 第3期のタイミングで「バンドリ!」にカッコいい曲が必要になるかなと思っていたので、ちょうどいいタイミングでピッタリの曲を用意できたと思います。
―最近、上松さんはアニメ原作や経営の比重が増えていると伺いました
上松 そうですね。「Elements Garden」って、チーム力がとにかく強いんで、あまり僕自身が出張りすぎないのも大事かなと思っているんですよ。今は作家を上手く配置して成功する喜びの方が大きいんです。根っこにはまだ目立ちたがり屋の部分が残っているんですけど、やっぱりブシロードの木谷(高明)さんとか、これだけ色々なスタッフさんに囲まれてやっていると、「バンドリ!」をいかに成功させるか、ファンに喜んでもらえるかが最優先になっています。
―チームの力を生かすために心がけていることはありますか?
上松 「広がり」というコンセプトを重視しています。例えば最初は「Poppin'Party」(以下、ポピパ)だからこう、「Roselia」だったらコーラスはこうという形があったとします。そこから「ポピパがこういうことをやったら」、「RAISE A SUILEN(以下、RAS)がこういうことをやったら」という風に、全てのバンドが今までの積み重ねの中からさらに意外性を発揮できるように、スタッフを布陣しています。
上松 特に第3期で言えば、オープニングがかなりカッコいい方面に走ったのは間違いなく驚かれるポイントだろうなと思います。ただ、「ポピパ」がライブも含めて今までに積み重ねたものの中から「カッコいい」という部分をこの段階で絶対に観てもらいたかったんです。
―曲を送り出すのに「段階」があるということでしょうか?
上松 自分たち「Elements Garden」は、ライブにどんな曲を送り出すか、アニメに合わせていくにはどうすればいいのかをずっと考えてきました。まず先にある到着点を見て、コンテンツのことをより深く理解することを中心とした作り方なんです。最後の答えを見ながら途中の式をみんなで探したり考えたりするという感覚で音楽を作っています。
ただ、エゴでやってはいけない部分でもあるので、ファンの皆さんが「バンドリ!」を積み重ねてくれた結果こうなっている、ということは強く意識しています。
――バンドのアニメというと「けいおん!」などが連想されます。意識している点はあるのでしょうか?
上松 「けいおん!」は10年くらい前ですよね? 実はバンドブームってちょうど10年周期くらいで繰り返しているんです。自分たちには経験もあるので今の流行りも取り入れつつ、昔の人に懐かしいと思ってもらえるような包み込み方ができるのかなと。その点カバー曲をやれているのは大きいですね。
僕は「X JAPAN」のYOSHIKIさんみたいになりたかったんですよ。でもなれてない。この「なりたかった自分になれてない」という感覚が、同世代の全員にある気がするんですよね(笑)。普通に仕事をして生きていく中で「そのぐらいのコード弾けるよ」って飲みながら仲間内で弾いてみたり、聴いた曲を耳コピして「~~弾いてみた」って動画あげたりとか、みんなそういうところに行っているんじゃないかな。
たぶん僕と同じように忘れかけた青春を「今バンド組めって言われたら全然組めるよ」っていうような気持ちを持ちながら生きている人は多いんじゃないかなと思います。
―女子高生のバンドと比べると、大分マニアックな方向に行くと思います(笑)
上松 いや、ウチの若い子にもギタリストは多いですけど、こちらでは「このくらいでいいかな」というところを、「上松さん、ちょっとそこは」「これくらい攻めてみましょう」とマニアックな方向を選択したりしますよ(笑)。「ブシロード」さんにも、ものすごく楽器やバンドに精通している人がいるけど、ちゃんとコントロールしてマニアックにならないようにしているところがすごいなと。
これは別のコンテンツの話なんですけど、今年アビーロード(※)でのレコーディングが出来たんですよ!「ビートルズ」発祥の地で「クイーン」もレコーディングしていたスタジオだったんで、いつか「ポピパ」もここでレコーディングさせてあげたいなというワクワクがちょっと出てきましたね。でもそうすると「なに? アビーロードを語るだと!?」「ビートルズというものはだね?」みたいな人たちが出てくるんじゃないかなと思うので勉強は続けています(笑)。
―古くからのバンドファンの方が「バンドリ!」に触れるというのも面白そうですね。
上松 ベンチャーズ世代あたりのウェッジ感がある、泥臭くて土臭いような音で「バンドリ!」をやったらどうなるんだろうな~。その辺のマニア心をくすぐるのは、もうちょっと経ったらやってもいいかなと思うんですけどね。みんなやりたいはず(笑)。そうしたらおっさん作家達をいっぱい連れてきます(笑)。
―ただ、「バンドリ!」の場合、キャストさんはバンドだけではなく声優としての活動も行っています。
上松 実は歌手と声優は根本的に違うんです。声帯の使い方も違うし、声優の演技にビブラートはかけないじゃないですか。だけど、今活躍されてる声優アーティストの中にも、歌だけだったら、声優だけだったら上手くいかなかったところを、歌と声優を両方頑張ることでメジャー化することができた方もいる。
「バンドリ!」はその派生で、歌って演技が出来て演奏するところまで行ったんです。技術はプロのステージに立っていれば後からついてきます。ずっと最初のレベルのままの人なんて誰もいないくらい、成長は目に見えますからね。最初にポテンシャルを見抜いて挑戦させるのが大事なんじゃないかなと。
―ポテンシャルを見抜くオーディションとはどのようなものだったんでしょうか?
上松 「バンドリ!」のオーディションはまず楽器を弾けるのが前提で、声優はその次という形でした。そこから探していくと声優もやれるという人が結構出てくるんですよ。
―そのやり方で、スッと声優やバンドを出来るものなのでしょうか?
上松 出来ません。体を使わずに声だけで演技するなんてとんでもなく難しい世界です。楽器だって成功できない人がどれだけいるか。出来ないですよ、絶対に。ただそこはアニメ現場の柔軟なところで、今回「バンドリ!」というコンテンツはライブありきでそのためにアニメを作っている、だからこういう人が集まっているという方針がブレていなかったんです。
あとはキャストの皆さんの若さとやる気というポテンシャル、そして若い人を支えるプロの人たちのバランスが良かったから成立しているんだと思います。
―最後に、ファンの方にメッセージをお願いします。
上松 ファンの皆さんはもうとことん「言ってください」。我々の作ったものに対してメッチャ品評してほしい(笑)。我々はそれを全部見ていて、「じゃあそこに響くものは何かな」って考えたりしているので、ガンガン言ってほしいなって感じがしますね(笑)。
あなたが「バンドリ!」を好きでいてくれたら、どんどん「キラキラドキドキ」を見せるし、製作スタッフ達もそのつもりでいます。本当に「バンドリ!」は裏切らないよ!
※イギリスのレコード会社EMIによって1931年11月に開設されたロンドンの録音スタジオ。ビートルズなど多数の名ミュージシャンたちが収録をおこなった伝説のスタジオでもあり、ビートルズの12枚目のアルバムにその名が付けられている。
(C)BanG Dream! Project