幕内優勝43回を誇る横綱であっても、一度も経験したことがないことが起こりうる。3月8日から始まる大相撲春場所(エディオンアリーナ大阪)は、新型コロナウイルスの感染防止のため無観客で行われる。白鵬(宮城野)も「初めてですから想像もできないし、イメージも湧いてこない」というのが正直なところだが、それでもファンの気持ちを明るくするのも力士の務め。場所前のインタビューで、その思いを語った。
無観客相撲は、戦時中だった1945年(昭和20年)の夏場所以来、75年ぶりのこと。そんなことがあったというのも、相撲史を調べないとわからないような話だ。無論、白鵬も「以前のいろんな問題があった時でも、それなりのお客さんが入っていました。どうなるか本当にわからない」というのが、素直な思いだ。本場所だけでなく、巡業に行っても多くのファンが集まる大相撲。それが全くいないという状況を想像するのは、大横綱ですら難しい。
ファンの声援を受けることをモチベーションにして43回の優勝、通算1147勝した白鵬だけに、モチベーションの維持についても、悩むところがある。仕切りを重ねることで、徐々に高まる館内の雰囲気。勝負が決した時の歓声。それがない中で考えたのは、自分の目には見えないファンの姿だ。「また皆さんに元気を与えられるような相撲を取れればと思いますけどね。自分の頭の中でテレビを見ている方がたくさんいるんだって、そこから応援しているんだっていう思いで気合い入れてやっていく」と、自分を鼓舞した。
館内から声のかからない土俵入りから取組まで。行司の声と力士のぶつかる音だけが響く無観客相撲。勝利という勝利を知る白鵬が、新たなものに挑戦する。