“再延期・中止”という最悪のシナリオも? 五輪延期コストの押し付け合いは「将来の開催都市の不安材料に」
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 安倍総理大臣は24日夜、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長と電話会談して東京オリンピック・パラリンピックの開催延期を要請し、来年夏までに開催することで合意した。ただ、現時点では来年夏までに新型コロナウイルスの感染拡大が終息する見通しは立っておらず、会場の調整や費用の問題など、課題は山積している。

 24日夜のAbemaTV『AbemaPrime』では、こうした問題について議論した。

■スポーツジャーナリストの二宮清純氏「延期に伴うコストの負担に懸念」

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 スポーツジャーナリストの二宮清純氏は「IOCが“WHOの勧告に従う”と言った段階で、これは延期に舵を切ったなと思った。当然、組織委員会も水面下で検討していただろう。ただ、それを表に出してしまえば混乱するし、訴訟リスクも出てくる。だからギリギリまで待ったということだろう。私たちが聞いても“それは言えない”というだけだった。また、IOCがJOCを挟んで東京都と締結している開催都市契約というものがある。これは“現代の日米修好通商条約”と呼ばれるくらいの不平等条約だ。すべての決定権はIOCにあり、都や組織委員会には義務しかない。マラソン会場が東京から札幌に変更されたのも、そういう事情があった。今回、選手や各国の競技団体から反発を食らったことでIOCも延期か中止を考えなければならなくなったが、スポンサーからすでに契約金ももらっているし、損失を考えるとなかなか言い出しづらかった。そこに強行するわけにはいかない日本側から提案が出てきて助け船になった。良いか悪いかは別にして、両者の“阿吽の呼吸”で決まったのだろう」と説明。

 また、会談を前にIOCに多額の放送権料を支払う米NBCが「IOCの決断を全面的に支持する」と表明したことも情勢の変化を後押ししたとの見方もある。二宮氏も「ここが一番ネックになっていた。アメリカでは秋になるとメジャースポーツが開幕したり、佳境に入っていたりするということもあるし、NBCの親会社であるコムキャストは中止保険に入っているが、全額が補償されるわけではない。一方、陸上や水泳などがないまま中途半端に開催すればスポンサー料が入らない。だからNBCとしてもぎりぎりの範囲で妥協したということだろう」とした。

 そして“遅くとも2021年夏まで”という点について二宮氏は「組織委員会、開催都市の東京都、主催国の日本政府が最も恐れていたのは中止だったので、年内の延期、1年の延期、2年の延期のいずれかに収まればいいだろうという空気は早い内からあった。だから1年の延期というのも予想の範囲内で、橋本五輪相や小池都知事にも安堵の表情が見られた。問題はその頃に流行が収まっているかどうかということだ。記者会見で“再延期はありませんか?”という質問が出ていたが、あくまでもコロナ次第だ。場合によっては“再延期”、それもなく“中止”という可能性も出てくる。もう一つはお金の問題だ。組織委員会が自動的に1年延長するとなると、人件費も固定費も余計にかかる。東京都が国が税金で補填しなければならなくなることも考えられる。その調整は大変なものだろう」。

■編集者・ライターの速水健朗氏「将来の開催都市の不安材料に」

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 二宮氏が指摘するコスト面について、関西大学の宮本勝浩名誉教授は大会1年延期の追加諸経費は約325億円、内訳は施設維持管理費が約225億円、広報・人件費等諸経費が約100億円と試算している。また、各国競技団体の追加費用は約3900億円。延期による経済損失は約2183億円。2年延期になるとさらに出費が増える。1年延期だけでも全て足すと約6400億以上という計算だ。

 編集者・ライターの速水健朗氏は「オリンピック開催のためのコストはどんどん高くなっていって、手を挙げる国や都市が減っている。今回の延期のコストまで東京都、日本だけが背負うことになると、これからの開催地はそのリスクも計算しなければならない。こうした場合の負担についても考えていかないと、将来、オリンピックの開催自体が危うくなるのではないか」と懸念。

“再延期・中止”という最悪のシナリオも? 五輪延期コストの押し付け合いは「将来の開催都市の不安材料に」
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 クリエイティブクリエイターの三浦崇宏氏は「小池知事が“世界中で団結して東京2020を実現させることがコロナに対する完全勝利の象徴だ”と言っていた。人類が共通の目的を持つことは良いことだと思う。そこで各都市で負担しあうとか、国際規模でのクラウドファンディングといったことがあっても良いのではないか」と話した。

■東京大学大学院特任研究員の坂元晴香氏「来年夏に収束しているかは不透明」

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 では、医療の面からはどうなのか。厚生労働省やWHOで医療政策に携わった坂元晴香・東京大学大学院特任研究員は「世界的にかなりのスピードで感染者数が増えてきていて、収束の兆しが一向に見えていないのが現状だ。日本国内についても、ヨーロッパ等と比べれば亡くなった方は少ないものの、大都市を中心に感染者数は増加傾向にあるので、気を緩められる段階にはない。そう考えると、この夏の開催は現実的ではなかった」と話す。

 そんな中、開催地・東京の感染者数は24夜の時点で172人となり全国最多となっており、小池都知事は東京を“ロックダウン”する可能性にも言及している。坂元氏は「東京、大阪、兵庫、愛知、札幌といった大都市圏で感染者の数が増えているし、クラスター以外の感染経路を追えない方も増えていることについて、医療関係者は懸念を持って受け止めていると思う。また、ここ数日の特徴として海外から帰ってきた方からの感染が増えている。これらが少し前の状況を反映していると考えると、今から10日後、2週間後くらいにはさらに増えている可能性がある。その意味では、東京のロックダウンの可能性もなくはない。アメリカやフランス、イタリアも一気に悪化した。個人的には3連休後に若干の“自粛疲れ”というか、“もういいかな”みたいな空気が出ている気がするので、少し気を引き締めることが必要だと思う」と警鐘を鳴らした。

 その上で“終息”については「世界レベルではパンデミックの宣言をしたWHOがどれぐらいの国で広がっているか、感染のスピードがどうかなど、数値的なものを含めて判断をすることになると思う。そのためには集団免疫が獲得されればいいが、それがいつなのかという判断は難しい。専門家会議の先生の中には数年という見方を示されている方もいる。また、基本的に集団免疫の自然獲得を目指すとなると、それなりの方が亡くなるということも許容していかなくてはいけない。そこで世界が目指しているのが共同でのワクチン開発と、流行していないところでの封じ込めの努力だ。現状では東アジアに始まり、ヨーロッパ、アメリカ、そしてアフリカでも少しずつ流行してきており、これからどのような勢いで続いていくのか分からない。その意味で、来年夏に本当に終息しているという保証はないし、ワクチンや治療薬の開発の目途を考えても、“1年後の夏までに開催”というのはどうだろうか。ただ、リオオリンピックの時にジカウイルスが流行していたように、感染症が全く流行していない時期というのもない。その点は、これから専門家の先生方が考えていくことになると思う」との見解を示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:東京オリンピック延期決定、来年夏に本当に終息している?開催地の巨額負担は今後の立候補の足かせに?

最悪のシナリオは再延期・中止?五輪延期でコストの押し付け合いも...
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