プロ将棋界初の団体戦となった「第3回AbemTVトーナメント」のドラフト会議の模様が4月4日に放送され、全12チーム、計36人の顔ぶれが決まった。トップ棋士12人がリーダーとなりドラフト会議では2人を指名し、3人1組のチームが完成。個人戦だった第1回、第2回と連覇していた藤井聡太七段(17)は2チーム競合の末、研究仲間でもある永瀬拓矢二冠(27)のチームに決まった。将棋界初のドラフト会議は、棋士らしさが存分に出た読み合いが繰り広げられた。
かつては「軍曹」、今は「中尉」と呼ばれるストイック棋士・永瀬二冠の顔から、普段では見られないような笑みがこぼれた。Abemaドリームチームの総監督を務めるサイバーエージェント代表取締役社長・藤田晋氏と、1巡目で競合。1/2の確率を制し、大エースとなる藤井七段をくじで引き当てた。会議前の予想では、多ければ半分以上のリーダーが1巡目指名もあると見られていた大本命の天才棋士。豪運の持ち主でもあるIT社長との運比べに、見事勝利した。
永瀬二冠の右腕はさらにうなった。2巡目、今度は三浦弘行九段(46)と若手の実力者・増田康宏六段(22)の指名がかぶった。2連続での抽選になったが、またしても当たりくじは永瀬二冠のもとに。会議後は思わず「自分はくじ運がいいんだなと初めて思いました」とはにかんだ。くじを外した三浦九段からも「個人的には永瀬さんところがずるいなと。楽するつもりだったんですけど、永瀬さんのところは、永瀬さん自身が強いのに、自分が勝てなくても勝てそうなメンバー」と冗談交じりにボヤくほど、今回の棋戦の大本命チームが完成した。視聴者からも「強すぎる」「優勝不可避」「優勝候補じゃん」との声が飛び交った。
このほか、久保利明九段(44)は菅井竜也八段(27)、今泉健司四段(46)とアマチュアから支持を受けそうな「チーム振り飛車」を結成。また、日本将棋連盟の会長職に就く佐藤康光九段(50)は森内俊之九段(49)、谷川浩司九段(57)という実績文句なし、泣く子も黙る「レジェンドチーム」を作り上げた。さらに羽生善治九段(49)がリーダーを務めるAbemaドリームチームは、藤田社長と麻雀の縁も深い鈴木大介九段(45)、AbemaTVの将棋チャンネルにも多数登場している三枚堂達也七段(26)というバラエティに富んだ3人組となった。
その他8チームもそれぞれ特徴的な組み合わせ。持ち時間5分・1手指すごとに5秒加算という超早指し戦という特殊な状況の中で、この顔ぶれであれば、もはや何が起きても不思議ではない。
【12チームの指名棋士・組み合わせ・コメント】
豊島将之竜王・名人
1巡目 佐々木勇気七段
2巡目 斎藤明日斗四段
佐々木さんは非常に伸びやかな、駒が躍動していくような将棋。見ていて気持ちがいいので、高く評価しています。斎藤さんは未知数なところがありますけど、まだ21歳なので。あと(竜王戦で)指宿に行った時に、彼らが自費で来てくれたので、それで選んだというところがあります。
渡辺明三冠
1巡目 近藤誠也七段
2巡目 石井健太郎五段
(所司一門の)同門で固めました。近藤くんはこの大会で実績がありますし、石井五段も若手有望株。同門でなおかつ優勝を狙えるメンバー。僕が兄弟子なんで、面倒見る立場ではあるんですが、あんまり一緒に何かをする機会がないので、交流も深めたいと思います。
永瀬拓矢二冠
1巡目 藤井聡太七段(重複)○
2巡目 増田康宏六段(重複)○
自分から見てもかなり若いお二人なんですけど、実力も確かですし、自分はくじ運がいいんだなと、初めて思いました。本当に自分が考える中でベストな方が選べたと思うので、精一杯結果を出していきたいです。
木村一基王位
1巡目 行方尚史九段
2巡目 野月浩貴八段
お互いに言いたいことを言い合える人を指名しました。仮にうまくいかない時には、控室で殴り合いが始まるのではないかと思っております。お互いを高めあって臨みたいです。
佐藤康光九段
1巡目 森内俊之九段
2巡目 谷川浩司九段
実績的には断トツのお二人を選ばせていただきました。将棋も素晴らしいですが、人間性もすばらしい。役員としての経験も共有させていただいていて、そういう意味では分かり合えている。断トツに年長になってしまいましたが、本気出せば強いんですよというところをお見せしたいと思います。
三浦弘行九段
1巡目 本田奎五段
2巡目 増田康宏六段(重複)× → 高野智史五段
(本田五段は)つい最近、タイトルも挑戦されましたし、勢いのある若手の有望を引けたのでよかったです。2巡目は、(外れ後の指名も)危なかったんですよ。佐藤天彦さんと(かぶるかもしれない)阿部光瑠さんか、高野さんで迷っていたんですよ。もしかしたらもう1回抽選なるかもと。いいメンバー引けたので頑張りたいです。
久保利明九段
1巡目 菅井竜也八段
2巡目 今泉健司四段
この中で唯一振り飛車(党)なので、振り飛車でチーム組もうと思っていました。1巡目は振り飛車トップの菅井さん。2巡目は、本当は違う人にもしたかったんですけど、猛烈なプッシュを受けまして(笑)。心意気を買いました。アマチュア時代に早指しで鍛えているところはあるので、期待しています。
佐藤天彦九段
2巡目 黒沢怜生五段(重複)× → 阿部光瑠六段
軽やかに2回砕け散ったわけですけど(笑)。あんまり指したこともない人とやってみたくて、最終的にすごくいいメンバーになりました。2人とも早指しが強いと思いますし、穏やかで楽しめるチームになったかなと思います。
広瀬章人八段
1巡目 青嶋未来五段
2巡目 黒沢怜生五段(重複)○
メンバーは構想通りで、抽選も経験できて大満足です。チームのコンセプトは(AbemaTVで)麻雀番組も見ていて、(指名した)2人も麻雀をよくする。麻雀を強い人というくくりで選ばせていただいた。2人とも20代の若手。曲者を揃えて、波乱を起こしたいです。
糸谷哲郎八段
1巡目 高見泰地七段
2巡目 都成竜馬六段
(AbemaTVトーナメントの)経験者の若手を揃えたかった。高見七段は経験者ですし、非常に粘り強く戦う。2巡目はちょっと悩んだんですが、ちょっとプッシュもありまして(笑)。粘り強く泥臭いタイプでもあるかなと。言ったからには活躍してくれるのではと思います。
稲葉陽八段
1巡目 佐々木大地五段(重複)○
2巡目 山崎隆之八段
まさか抽選になるとは思わなかったですけど、くじ運がよくてよかったです。山崎さんは、早指しも得意ですし、こういうイベントがあるとしっかり練習されるタイプ。私は(超早指しの)経験がないので、一緒に練習して高めていければと思います。
藤田晋総監督(リーダーは羽生善治九段)
藤井聡太七段(重複)× → 鈴木大介九段
三枚堂達也七段
AbemaTVトーナメントを見ていると終盤はスポーツみたいに、素早い決断、度胸が必要なので、このルールは鈴木大介先生が、相当強いんじゃないかなと思っていたんですよ。それを見たいという思いで。あと、麻雀の最強位というタイトルを持っていらっしゃる(笑)。切れ味の鋭い若手が欲しいと思っていて、将棋チャンネルにたくさん出てくれている三枚堂先生。取れてよかったです。
◆第3回AbemaTVトーナメント
第1回、第2回は個人戦として開催。羽生善治九段の着想から生まれた持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算されるフィッシャールールは、チェスなどで用いられるもの。1回の対戦は三番勝負。過去2度の大会は、いずれも藤井聡太七段が優勝した。第3回からはドラフトを経て構成される3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝チームには賞金1000万円が贈られる。