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 突然の休校要請から早2カ月。有名私立校や大手学習塾が「オンライン授業」を続々と導入する中、文部科学省が公立校の取り組みについて調査したところ、「対面式のオンライン授業を導入する」と答えた自治体は、わずか5%にとどまることがわかった。緊急事態宣言の延長に伴い懸念される学習機会の格差。6日の『ABEMA Prime』では、この問題について考えた。

・【映像】:オンライン授業で"教育格差"広がるリスクも 生まれた家庭や環境で人生が決まる?

■オンライン教育を実践する公立小学校教員の“悩み”

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 「5%」に含まれる公立校の一つ、東京都小金井市立前原小学校は、総務省の「クラウド実証授業」の対象校だったため、全ての児童がタブレットPCやノートPCを利用できる環境が整えられている。6年生の担任・蓑手章吾教諭は、一斉休業の始まった3月2日以降、「朝の会」(午前8時半)からランチタイムを挟んで「帰りの会」(16時)までの間、Zoomを使って児童とコミュニケーションを図っている。

 ただし、これはあくまでも任意のため、参加しているのは半数以下。内容もカリキュラムに基づいた学習ではなく、「ウクレレで1曲演奏する」「餃子の皮でピザと作る」など、それぞれが興味のあることや遊びの中で考えた“めあて”に沿った取り組みについて話をするのがメイン。同時に自宅にインターネット環境のない児童のために、紙の課題も配布している。「インターネット環境に繋げたくても繋げない家庭については行政が“福祉”として対応していくべきものだと思っている。一方で、環境が整っていたとしても、そもそもパソコンに触らせたくないという考えを持った家庭もあると思う。そういう状況でオンラインの教科学習、授業を進めてしまえば格差に繋がってしまうと考えているからだ」。

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 その一方、できる限りオンライン教育に取り組みたいという思いもあるようだ。「休みの間に大量の課題を出され、それをこなしていくだけでは勉強嫌いになってしまうかもしれないし、保護者の負担も大きい。また、居場所があり、自分のことを認めてくれる友達がいて、というのはモチベーションになっていると感じている。私としても、少しでも顔や仕草を見る機会を設け、子どもたちのSOSに気づくきっかけが欲しい。そういう問題の突破口としてオンラインがあると思うので、その可能性を探っていかないと、子どもたちの学ぶ権利が置いてきぼりになってしまうことにもなると思う」。

■コロナ休校によって可視化された“画一化”の弱点

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 昨年出版した『教育格差』(ちくま新書)が話題になっている松岡亮二・早稲田大学准教授は「休校が始まって以降の報道などを見ていると、“教育格差が生まれる”“教育格差が懸念される”といった表現が非常に多いが、“教育格差”というのは、できる子・できない子が生まれるといった問題ではなく、出身階層(家庭の経済状況)や出身地域など、本人ではどうしようもない初期条件と教育の結果(学歴や職業・収入)が強く相関してしまっているという問題を指している」と話す。

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 「日本は表面的にはものすごく平等に見えるが、実は社会・経済的地位によって住んでいる場所が違うので、公立小学校であっても親が大卒層ばかりの学校もあれば、そうではない学校もある。都道府県別の大学進学率を想像してもらえれば、大学進学が大前提だとして小学校教育に期待をしている地域と、そうでない地域があることがわかると思う。同じ先生でも、東京と岩手では保護者から受ける期待やプレッシャーは全く違うということだ。今までも社会的・経済的に恵まれている家庭は学校外の時間に学習塾や習い事、スカイプで英会話レッスンを受けるなどしていたはずだ。その意味では、この国は戦後一貫して生まれによって大卒になれるかどうかということに大きな教育格差が存在してきたし、もともと教育格差に加え、コロナ休校による教育格差が生じるという話だ。5%の公立校でオンライン授業が実施されていると言っても、その5%はものすごく集中しているはずだし、半分くらいの子どもが家庭にデバイスがないような地域も存在しているはずだ。だから休校期間で開いた格差の議論だけをし、そこに追加投資して開いた学力を取り戻そうとしたところで、それまでにあった格差の問題は解決しない」。

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 その上で松岡氏は「“日本の公立校は画一的だ”と言われることがあるが、それはむしろ全国で標準化された教育によって“最低限の下支え”をしていたとも言える。アメリカのように学区によって教えている内容が異なっているということもない。逆に言えば、学校という場所に閉じ込めて、同じ指導要領と教科書があったために、教育委員会や校長、先生たちは自分たちで判断する機会が少なくて済んだとも言える。そのことが今回の休校によって目に見えやすくなったということだ」と指摘する。

 「例えば高校1年生を対象にしたOECDのPISAという調査によれば、日本は学業のために使えるPCを持っている家庭が先進国の中で最も少ない。すでに家庭にデバイスがあり、自分で進めることができるような子どもたちの学びを止める必要はないが、そうでない人たちに対しては助成が必要だ。ただ、全員にPCを配布したとしても、静かな自室がある子と、そうでない子がいる。このことはアメリカでも問題になっていて、むしろICT環境を整えたことで“同じ機会を与えたよね”として格差を見えづらくしてしまうこともある。オンライン教育を使ってドリルをやってもらうのか創造性を高めてもらうのかといったことも含め、日本全体を一つと見なすのは危険だ」。

■元教員の乙武氏「“頑張ればいい”だけではダメ」、N高理事の夏野氏「オンライン学習はオンデマンド学習」

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 小学校教員の経験を持ち、後に東京都教育委員も務めた作家の乙武洋匡氏は「小学校の教員をやっていた時に、提出されたノートからタバコの匂いがした子がいた。そうした家庭環境と成績の相関関係が見えてきてしまった。だから“環境は関係ない、頑張ればいい”という意見には猛烈に反対したい。確かに苦しい環境の中で結果を出した人は探せばいくらでも出てくる。しかし、数少ない成功例を取り上げて“頑張れば何とかなるんだから、教育格差を考える必要はない”という話にはならない」とコメント。「全員一律でオンラインにする必要もないし、学校が再開したからといって、全員を教室に通わせる必要もないと思う。個々の状況に応じた環境を柔軟に作れたら、僕もそれがベストだと思う。ただ、子どもの表情、服装の乱れ、給食をいつもより残しているといったことを観察したり、言葉がけを通じて軌道修正したりすることも担任の役目だと思っているので、オンラインに移行してしまうとそのあたりが見えなくなる懸念もある」と話した。

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 ネットを活用し注目を集める通信制高校「N高」理事の夏野剛氏は「オンライン学習の根本は、個々の能力に応じた教育機会を提供する“オンデマンド学習”だが、今の教育システムがそれを提供できるかどうかが問われているということだ」と指摘。「日本の教育システムでは、学習指導要領で中1はこれを、中2はこれを、中3はこれをという具合にやらなければならない内容が学習指導要領できっちり決まっていて、飛び級も認めない。逆に、できない子がいたらぎりぎりまでやって、できたことにして進級させる。つまり落第を認めない。これはオンラインとは合わない仕組みだ。やはり子どもは一人ひとり全く違うわけだし、オンラインが格差を助長するという言い方ではなく、オンラインに向かない子も耐えられるような教育システムを作らなくてはいけないということだと思う」。

■「この国はデータに基づいて現実と向き合い、議論するということができていない」

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 では、オンライン教育をより良い形で導入させていくためには、何が必要なのだろうか。松岡氏は「データ」の必要性を強調する。

 「アメリカでは社会・経済的に恵まれていない子どもたちのために放課後に個別の補習をし、少しでも学力を伸ばしてあげようとしている。日本でも足立区などが実施しているが、普段からデータを取っていることが必要だ。例えばアメリカ南部ではハリケーン・カトリーナによって学校を強制的に閉めたり、子どもたちが引っ越しをしたりしたが、それぞれにIDがあり、学力データを蓄積していたので、学力がどれだけ下がったかといったことが個別に把握でき、行政はそこに追加投資をすれば良かった。日本でも普段からそうしたデータを取っていれば、自治体にアンケート調査をするまでもなく、どこの学校に優先的に端末を配らなければいけないかが分かるし、後に学力にどう影響したかも把握できる」。

 「私はICTを使うのは大賛成だ。テクノロジーは格差を埋めることにも使えると思う。しかし、このままでは学校が再開した後、それぞれの子どもがどんな困難を抱えているか分からないまま、“なんか皆大変だったよね。でも良かったよね”で終わってしまう可能性が高い。この国はデータに基づいて現実と向き合い、議論するということができていないし、そこを変えなければいけないと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

▶映像:オンライン授業で"教育格差"広がるリスクも 生まれた家庭や環境で人生が決まる?

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