「お荷物になりたくない」「こんなに震えて指したことない…」山崎隆之八段がプロ初団体戦で見せた超本気と未体験の重圧
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 プロ22年のキャリアを持ち、公式戦でも1000局近い経験がある実力者にして「こんなに震えて指したことがない…」という戦いがあった。山崎隆之八段(39)は、プロ将棋界初の団体戦となった「第3回AbemaTVトーナメント」に、チーム稲葉のメンバーとして出場。自身初戦で斎藤慎太郎八段(27)に2連敗したものの、続く2戦目では近藤誠也七段に2連勝。チームは予選敗退となったが2勝2敗で大会を終えた。個人戦だった第1回でいいところなく予選敗退。雪辱に燃えた第3回でもいきなり連敗し「口だけ野郎でした」と自虐までした山崎八段が見せた超本気の戦いは、非公式戦であることを忘れるほど、鬼気迫るものだった。

▶映像:指も震える重圧と緊張

 山崎八段といえば、将棋ファンであれば独創的な指し回しと、早指し巧者というイメージを持つ人も多いだろう。実際、序盤の駒組みに関しては、解説する棋士たちも首をひねるようなものも見られるが、いざ勝負になってみるとすっかり山崎ワールドになっている。また、早指し戦についてはNHK杯テレビ将棋トーナメントや、将棋日本シリーズ JTプロ公式戦などの棋戦で優勝という結果を残している。ただ、持ち時間5分・1手指すごとに5秒加算という独特の超早指し戦においては、「早指し巧者」のブランドが大きく傷つく展開になっていた。

 記念すべき第1回大会では、優勝候補の一角に挙げられながら、若手の勢いに押される形でまさかの予選敗退。当時について、切れ負け将棋を戦いに行くぐらいの心構えで会場に向かったところ「本当にパニックになってしまった。参加棋士16名中、断トツに弱かった」と後悔した。トップ棋士でも詰み逃し、大ポカが続出するルールにおいて、自らの準備不足を嘆いた。

 チーム戦となった第3回大会。稲葉陽八段(31)にドラフト2巡目で指名され、リベンジの機会をもらった。大会前には日々の練習のほとんどを、このフィッシャールール対策にあて、「前回の3倍強い」と自負するほどだった。ところが初戦の結果は最悪に。若き実力者・斎藤八段の前に、大優勢の局面を逃して逆転を許すなど、痛恨の連敗を喫した後で、「口だけ野郎でした」というのが第一声だった。

 今回、結果を残さなければ、二度と声がかからないだろうと覚悟していた山崎八段が、崖っぷちで再び盤に向かったのは、チームにとっても非常に重要なものだった。参加していた予選Bリーグの最終第3試合。初戦でまさかの6連敗だったチームを奮い立たせようと、リーダー稲葉八段が先鋒戦に出場、見事に連勝し、中堅の山崎八段につなげた。この状況を見て「おれ、お荷物か。お荷物になりたくないな。あー、やばい、やばい…。トップクラスの実力があるリーダーを予選で落としてしまうのは。(そうなったら)完全に戦犯ですね」と、団体戦のプレッシャーが一気に押し寄せた。

「お荷物になりたくない」「こんなに震えて指したことない…」山崎隆之八段がプロ初団体戦で見せた超本気と未体験の重圧
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 自分が負け越せば、その時点でチームは予選敗退決定。個人としても、2戦続けて負け越しとなれば、この大会においては全く見せ場のない棋士として終わったことだろう。対局前には「普段より真面目な気持ち。団体戦の方が精神的に強くないといけないんだなと。この団体戦に出させていただいて感じました」と気合を入れ直すと、途中は大失敗もありながら、必死の粘りも功を奏して2連勝を果たした。「自分に甘かったというか、実力が足りないなら気持ちは120%出さないいけない。それが最低限のことだったんですけど、追い詰められて、やっとそういう気持ちになれたかなと思います。こんなに震えて将棋を指すのは、記憶にないなという感じです」と、全力を出し尽くしての戦いぶりが、ファンの大きな感動も呼んだ。

 結果的には、大将を務めた佐々木大地五段(24)が渡辺明三冠(36)に惜しくも1勝2敗で敗れ、チームは決勝トーナメントに進めなかった。それでも、山崎八段が第1回、そして第3回の初戦の屈辱を、公式戦以上の思いを持って戦ったその超本気の姿は、ここまで出場してきたどの選手よりも強いものがあった。

◆第3回AbemaTVトーナメント

 持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行い、1回の対戦は三番勝負。3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝賞金1000万円。

◆出場チーム&リーダー

 豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位、佐藤康光九段、三浦弘行九段、久保利明九段、佐藤天彦九段、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、Abemaドリームチーム(羽生善治九段)

ABEMA/将棋チャンネル)

▶映像:指も震える重圧と緊張

山崎隆之八段の大逆転
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▶映像:“事故”寸前、大パニック

時間切れ負けの大ピンチ
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「お荷物になりたくない」「こんなに震えて指したことない…」山崎隆之八段がプロ初団体戦で見せた超本気と未体験の重圧

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