解説棋士も「芸術作品」と語った大熱戦 藤井聡太七段・永瀬拓矢二冠が作り出した「善悪を超越した」名局
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 将棋世界において、勝ち負けの先に「いい棋譜を残す」「名局を作り上げる」という棋士の精神、生きる道といったようなものがある。それを称えるために、年度表彰である「将棋大賞」にも名局賞という表彰項目もある。もちろん勝負の世界である以上、勝つに越したことはないが、いい将棋を指すということは棋士にとってのアイデンティティーでもある。その中で、他の棋士から「芸術作品」とまで呼ばれる対局が生まれることは、そう簡単ではない。藤井聡太七段(17)の史上最年少タイトル挑戦で大いに盛り上がった6月4日のヒューリック杯棋聖戦・決勝トーナメントの決勝。永瀬拓矢二冠(27)との激闘に、中継していたABEMAの解説を務めていた飯島栄治七段(40)は「本当に素晴らしい。一つの作品ですね、芸術作品」と語った。記録達成なるか、という興味で集まった将棋ファンも多いだろうが、そこで繰り広げられた戦いは至高のものだった。

 藤井七段と永瀬二冠は、非公式ながら現在の棋力を示すと言われるレーティングで藤井七段が1位、永瀬二冠が3位という状況。デビュー以来の29連勝に始まり、数々の最年少記録を樹立してきた“天才”棋士と、そのストイックな姿勢と高勝率から異名が“軍曹”、二冠になってからは“中尉”になった棋士。練習将棋でも研鑽を積んできた2人の対局だけに、確かに名局が生まれる下地は十分にあったが、それを差し引いてもこの日の対局は、時間をじっくりとかけて次の一手をひねり出し、最終盤になっても形勢がなかなかどちらにも触れないという、高濃度の戦いだった。

▶映像:藤井七段と永瀬二冠の「芸術作品」と言われる名局

 お互いの4時間ずつの持ち時間が尽きようというころ、形勢はいまだに五分。この様子に飯島七段は「何が何だかというレベル。これはすごいですよ。善悪を超越しています、この将棋は。お互い力を振り絞っている」とこぼした。次の手が善手なのか、悪手なのか。普段であれば、そこに一喜一憂するところだが、もはや両者が見ているものはその先にあるといったイメージだ。ここで「一つの作品ですね。芸術作品」という言葉につながった。

 持ち時間各4時間ともなれば、対局開始から終了まで、休憩も含めて9~10時間ほどになるのは珍しくもない。棋士は、この時間になってくると疲労などの感覚が「麻痺してくる」という。スポーツに例えればランナーズハイ。「盤上を見て、頭を回転させて、いい将棋を作るという、純粋な棋士の時間」が、長時間戦った最後に待っている。「こういう将棋を見て、一人でも多く将棋のすごさを感じて、ファンになってもられえばという気持ちです」と、ファンにメッセージも送った。

 藤井七段と永瀬二冠の対局は、今回が公式戦初対局ではあったが、すぐに次の対局が行われる可能性もある。もっとも近いところでは、王位戦の挑戦者決定リーグで藤井七段は白組、永瀬二冠は紅組のトップ。最終戦を勝利すれば、またも挑戦者決定戦でぶつかることになる。その時に見られる対局は、4日の熱戦を上回るのか。新たな「芸術作品」誕生の瞬間は、見逃したくない。

▶中継:藤井七段と永瀬二冠の「芸術作品」と言われる名局

藤井聡太七段、最年少タイトル挑戦決定
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▶映像:第3回AbemaTVトーナメント チーム康光 対 チーム木村 6/6(土)19:00~

ベテラン勢大集合の最終試合!予選Cリーグ第三試合<チーム康光 VS チーム木村>
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