将棋の世界において、勝ち負けの先に「いい棋譜を残す」「名局を作り上げる」という棋士の精神、生きる道といったようなものがある。それを称えるために、年度表彰である「将棋大賞」にも名局賞という表彰項目もある。もちろん勝負の世界である以上、勝つに越したことはないが、いい将棋を指すということは棋士にとってのアイデンティティーでもある。その中で、他の棋士から「芸術作品」とまで呼ばれる対局が生まれることは、そう簡単ではない。藤井聡太七段(17)の史上最年少タイトル挑戦で大いに盛り上がった6月4日のヒューリック杯棋聖戦・決勝トーナメントの決勝。永瀬拓矢二冠(27)との激闘に、中継していたABEMAの解説を務めていた飯島栄治七段(40)は「本当に素晴らしい。一つの作品ですね、芸術作品」と語った。記録達成なるか、という興味で集まった将棋ファンも多いだろうが、そこで繰り広げられた戦いは至高のものだった。