一流棋士の対局でも、珍しいことが起きるものだ。将棋の超早指し団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」の予選Dリーグ第1試合、チーム永瀬VSチーム広瀬が6月14日に放送され、中堅戦でチーム永瀬・藤井聡太七段(17)と、チーム広瀬のリーダー・広瀬章人八段(33)が三番勝負で対局。その2局目に、広瀬八段が序盤にひたすら自玉を横移動させて手番を渡す「一人千日手」状態となり、解説棋士や聞き手、視聴者たちを困惑の渦へといざなった。
右、左、右、左…。少し将棋をかじった人であれば、この手に何の意味があるのだろうと首をかしげるような指し手を、タイトル経験もある広瀬八段が繰り返した。「千日手」は、対局者が手を変えると不利になると判断したことで、同一局面が4回繰り返されると指し直しになることを指す言葉。片方の棋士だけが同じことを繰り返しても指し直しにならないが、相手に手番を渡し続けるこの行為には「一人千日手」という名前がついている。
藤井七段の先手番で始まった対局は、角換わりから始まった後、ほどなくして駒組みが完成した。ここからいざ勝負、となるところだが、この対局においてはなかなか戦いが始まらない。広瀬八段が、玉を横に1つずらせば、藤井七段も駒組みを少しだけ触って、また相手に手番を渡す。そんなことが何度も繰り返された。
この様子に解説の村山慈明七段(36)が「珍しい指し方ですね。何往復したんですかね」と指摘すれば、聞き手の里見咲紀女流初段(24)も「後手(広瀬八段)の形が変わってないですね。10ターンぐらい移動している気がします」と、少し笑いもこみ上げた。本来、この棋戦は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算という超早指し戦であることもあり、序盤からどんどんと手が進み、秒単位の叩き合いが繰り広げられるところだが、この一局においては、相手の出方をじっと待ち続けて「後の先」を取ろうという戦いに。結果、両者の持ち時間がどんどんと増えていく珍現象まで起きた。
対局の結果は、先に斬り込んだ藤井七段に対して、うまくカウンターを取った広瀬八段が勝利したが、視聴者は勝敗以上に、この「一人千日手」に注目。対局中から「何回やってるのw」「ずっと同じ動きしてる」「王様反復横跳び」と、大量のコメントが沸き起こっていた。
◆第3回AbemaTVトーナメント
持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行い、1回の対戦は三番勝負。3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝賞金1000万円。
◆出場チーム&リーダー
豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位、佐藤康光九段、三浦弘行九段、久保利明九段、佐藤天彦九段、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、Abemaドリームチーム(羽生善治九段)
(ABEMA/将棋チャンネル)