将棋の対局ができることに、心から感謝するのはプロの棋士でも同じことだ。気品溢れる仕草、ファッション、言動から“貴族”の愛称で呼ばれ、ファンも多い佐藤天彦九段(32)は、新型コロナウイルス感染拡大を受けての自粛期間について「社会の中で様々な方々に支えてもらいながら生き、将棋が指せるのは幸せなことだと思います」と語った。6月28日から開幕する「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」にも出場するが、佐藤九段にとっての公式戦は、多くの人への恩返しの場所だ。
▶中継:2020年度「将棋日本シリーズ」 1回戦第1局 羽生善治九段 対 久保利明九段
名人3期の実績を持つ佐藤九段にして「将棋界におけるオールスター戦のような趣で、出場できることを光栄に思います」と語るJT杯。前年優勝者、タイトルホルダー、賞金ランキング上位者の選ばれし12人が集う場は、現在の将棋界の中心にいる証しでもある。
例年、JT杯は多くのファンに見守られながら行う公開対局も魅力の一つ。「盛り上がっている会場の雰囲気などがわかるので、指す側としても臨場感があり、やり甲斐があります」と、より“ファンあっての”プロであることがわかるという。
公式戦も、交流イベントもできなかった自粛期間は「長い期間でしたので、将棋について考える時間は増えました。自分なりに研究を深めてきたつもりではあります」と、力を蓄えることに精を出した。「最前線で働いている方々に比べれば恵まれた環境だと思いますし、あまりネガティブにならず日常生活を過ごしていた感じです」と、ウイルスと戦っている人々のことも思いながら、自分の持ち場で全力を尽くす。
初戦の相手は、今期から順位戦A級入りも果たしたイケメン棋士・斎藤慎太郎八段(27)。開催中のプロ将棋界初の団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」では自らドラフトで指名したチームメイトでもある。「穏やかな雰囲気の方で親しみやすさを感じます。各戦型で研究が深く、着実な手を積み重ねていく正統派な棋風かと思います。そのあたりを意識しながら指していければと思います」と、棋力・人柄ともに認めた相手との対局は楽しみだ。
互いを認め合う者同士の対局で、名局が誕生するのも将棋の世界ならでは。“貴族”と“王子”の真剣勝負に、きっとファンの心も踊る。
(写真提供:日本将棋連盟)