見ている方もへとへと、といった長手数・長時間の対局を終えた後、とにかく元気だったのは戦っていた対局者2人だった。7月19日に行われた将棋の叡王戦七番勝負。第3局、第4局は、タイトル戦としては他に例がない持ち時間1時間というスピード勝負を1日2局指すというものだったが、第3局は3時間49分の末に持将棋・引き分け。第4局も熱戦となり、4時間29分かかった。2局合わせて439手、8時間18分。中継を見ていた視聴者も疲労困憊する中、戦った永瀬拓矢叡王(王座、27)と豊島将之竜王・名人(30)は、第4局の終了直後から、実に楽しそうに感想戦を始めたのだった。
永瀬叡王が「えー、そうなんですかー。なるほどー。そんな手があるんですか」と笑顔も浮かべながら語ると、豊島竜王・名人は「そうなんですね。それは指せないですね」と、穏やかな口調。その様子は、200手超の対局を2局もこなした後には、まるで見えない。午後2時からの第3局、途中休憩を挟んで、午後7時30分からの第4局。全てが終わったのは、日付が変わる寸前の午後11時59分だった。それでも2人は、話すごとにテンションが上がっているようにも見えた。視聴者も「ほっといたら朝までやりますよ、これ」「楽しそうで何より」「なんでこんなウッキウキなんや」と、2人のタフさ、いや将棋好きレベルに驚くばかりだ。
立会人を務めていたのは永世名人の有資格者でもある森内俊之九段(49)。順位戦では自らフリークラス転出を選んだものの、その強さは今なお健在だ。2人から局面について質問を受けると、検討室で語られていたことや、自身の見解についてコメント。すると、また2人が盛り上がる。その繰り返しだ。「だんだん楽しそうになっている」「朝まで生将棋」「森内ガソリン投下」「深夜のテンション」と、実力者3人による深夜の将棋トークの模様は、大げさに言えば対局時よりも視聴者の注目を集めたほどだ。
感想戦は翌20日の午前0時35分に終了。永瀬叡王にインタビューが控えていたからか、それとも放送対局だったからか。2人だけの空間だったら、ファンが言うように夜が明けるまで続いていてもおかしくない、そんなやりとりが続いていた。実際、インタビューで永瀬叡王は疲労について「山場は越えたので、今は大丈夫。今はハイなので疲れは全く感じてないんですが、明日が恐ろしい気はします」と笑った後、「もう一局?指せるんでしょうけど、かなり負担な気がします。でも今の状態ならできるかもしれません」と、なんともう一局できると語った。
朝から晩までかかる長時間対局も多い将棋の世界。夜になるほど頭が冴えるという棋士も少なくない。お互いタイトルを2つずつ持ち、将棋界をリードする力の持ち主で、年齢も近い。将棋に対する価値観で通じるところもあったのだろうか。一日で何局、何百手指そうと、将棋の話で盛り上がれば目も頭も冴える。誰よりも「将棋大好き」な人々の集まりで、プロの将棋界はできているという象徴的なシーンとなった。
(ABEMA/将棋チャンネルより)