コロナ禍で自粛を強いられてきたスポーツイベントの数々。再開に向けた動きの中、ついにプロレスリング「NOAH(ノア)」が観客を入れた大会を開催した。NOAHが観客を入れるのは3月以来、実に4カ月ぶりとなる。開催にあたり、選手やスタッフは全員、唾液によるPCR検査を実施。なかなか唾液の出ない選手は梅干しの画像を見ながら行われた。検査の結果、全員が陰性。この結果を受け、通常の4分の1、約500人の観客を入れた大会が開催された。メインイベントはNOAHを代表する4人によるスペシャルタッグマッチ。試合は丸藤・武藤組が勝利。久々の観客動員大会に会場は熱気に包まれた。
しかし、8月1日以降に緩和される予定だった大規模イベントの人数制限が、感染の再拡大によって22日にも見直される可能性が出てきた。入場料収入、さらにはグッズの売上げも激減する中、プロレス界、そしてスポーツの在り方とは。NOAHの新星“スーパーノヴァ”・清宮海斗選手、NOAH副社長も務める“方舟の天才”・丸藤正道選手と共に考える。
テーマはwithコロナ時代におけるプロレスの課題「肉体VS肉体“接触スポーツ”における感染防止対策とは?」「満席は困難!新しい興行スタイルで…経営はどうなる?」だ。
久々の観客を入れた試合について、丸藤選手は「やっぱり待ちに待った感というのがお客さんからもすごい伝わってきたし、もちろんプレーヤー側も本当に。何なら会場入りして控室に入った時からもうみんなの気持ちの高揚感を感じた」と振り返った。
無観客でやるのとは全然違うのだろうか。
丸藤選手は「違う。観客がいない中でやっている時は意外と大丈夫かなと思ったが、やっぱりいたら全然違う」と語った。
ケンドーコバヤシが「選手間の意識として改めてお客さんあってのプロレスラーなんだというのは強く刻まれたのではないか」と聞くと、丸藤選手は「本当に全選手がそれを感じたと思うし、お客さんがいるだけで耐えられないものも耐えられたり、立てない時に立てたりとか。そういうものはお客さんがいるからこそだなというのをよく感じた」と答えた。
今大会に向けたの感染防止策として「(1)選手・取材陣へのPCR検査」「(2)観客数の制限」「(3)関係者・観客への検温、消毒、マスク、マット・ロープの消毒」を実施している。
感染防止対策について、丸藤選手は「(プロレスは)超濃厚接触だ。基本的には試合が決まっている日の3日前から朝晩の検温を行ったりしている。試合の当日ももちろんだし、普段の消毒、マスクだ。やって当たり前のことを当たり前にするということがまず大前提。それをしないとできることができなくなってしまうので、普段から全選手が心がけてやっていた。これ以上できることがないくらいのことをしっかりやる」と説明した。
観客を入れた試合について、清宮選手は「痛みに耐えられるというのはある。無観客の時の打撃というのは本当に虚しいくらい痛くて。痛みが吹き飛ぶぐらいお客さんが拍手とかしてくれると、もう全然頑張れるという感じだ」と語った。
大規模イベント制限緩和見直しへ。8月1日、大規模イベントの上限5000人という観客制限の緩和を予定していたが、22日の分科会で改めて検討することになった。
丸藤選手は「徐々に座席数を増やしていきたいという考えがあった。こうなるとまた色んな部分を見直さないといけないというのがある。多少のチケットの値上げはさせて頂いたが、お客さんたちもお金を出すのは大変なことだと思う。4倍のチケット代を誰が払えるんだという感じだ。上げたチケット代は1000円くらいだった。1000円上げたチケット代の、少し高めの席を多めにするとか。昔だったら7000円、6000円、5000円というチケット代が、後楽園ホールでは今は8000円と6000円でやっている。8000円の席の数を少し多くさせて頂いたりとか。それこそ皆さん、お仕事が大変な中でチケットを買って見に来てくださるので、そういった部分も考慮したいのはもちろんだが、僕たちも興行をやるにあたって入場料が興行収入の大きい割合を占めている。ぜひともご理解頂きたい」と語った。
NOAHが考える新しい興行の形には「関東中心に採算の合う会場の開拓」「チケット代の平均単価を上げる」「インターネットサイン会の充実」「他団体との交流は行わない」といったものがある。
グッズなどの収入について、丸藤選手は「そういったこと(会場でのグッズ販売など)ができない状況になってしまっているが、インターネットを使ったグッズの購入方法も新たにできてきた。グッズの販売が下がったという話があったが、インターネットサイン会などを行うことによって、そこら辺も補填できるようになってきたので、これも1つの新しい形になっていくんじゃないか」と語った。
会場の開拓について、丸藤選手は「会場の使用料ももちろんあるし、座席数もあるし、会場さんによって貸してくれる所、貸してくれない所がある。無観客が始まったところで使い始めた会場もあった。そういう所をどんどん見つけていくのは重要だが、どこの団体さんもそういう所をどんどん探していると思うので」と説明した。
これに対してケンドーコバヤシは「僕は7月にやる予定だったライブを2つとも、結果的に配信にした。本当はお客さんを入れてやろうかと言っていたが。地方のお客さんは喜んでくれる。東京に行く手間を考えたら配信のチケットを買って。ただ、関東近県の方に関しては損した気分にちょっとなるのかなと。そこのバランスは難しい」と語った。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「厚生労働省が出している話だとPCR検査をしましょう、マスクをしましょう、手指消毒をしましょう、3密を回避というありきたりの話しか出てこない。実際に医療クラスターの人たちの議論を見ていると、もうちょっと色々複雑だ。会場の環境とかどういうスポーツかによって全然、感染の危険性は違う。例えば、ランニングは当初、マスクをしてしろと言われていたが、その後に感染症の専門家とランニングの協会で色んな話し合いがあって、最終的に外でのランニングはマスクをしないで大丈夫という話になってきている。もっとエンターテイメント業界も感染症の専門家ときちんと議論をし、そういう人にアドバイスをしてもらって、新しいスタイルのライブエンターテイメントを考えた方がいいと思う。音楽フェスをやっている人たちと最近よく会って話をしている。音楽もさすがに地下のライブ会場に100人で密というのはなかなか難しいが、逆に野外の小規模なフェスみたいなのは実施可能なんじゃないかという話には徐々になってきている。外だとそう簡単には密にはならないよねと。僕はプロレスのことはよく分かっていないが、それこそ屋外の会場でやるとか。物販もネットだけの販売だとあまりにも寂しいので、目の前に物があってQRで買えて家に送られてくるとか。色々リアルなライブ感を味わいながらオンラインをハイブリッドする方法はいくらでもあるので、そういうことを模索して新しい時代の新しいライブ感のある、身体感覚を探し求めていくというのが今、大事なのではないかなと思う」との考えを示した。
withコロナ時代のトレーニングについて、清宮選手は「合同練習になると、みんなで円になって声を出しながらスクワットとかをやるが、今の時期はできないということで、みんなマスクしながら道場で間隔をとって、2組になってやるというふうに変えている。気合で何とかしたいところをマスクで塞がれてしまう。練習もできない」と説明した。
今の状況では新人育成も難しそうだ。
丸藤選手は「プロレスは受け身が大事だ。もちろん、1人で受け身をとる練習もあるが、相手があっての受け身の練習もたくさんあるので、そういった部分では非常に新人の育成が遅れてしまうのはあると思う。今、デビューしていない新人もいるが、これからプロレスラーを目指そうという若者たちがちょっと入りにくいのかなと」と語った。
ケンドーコバヤシが「清宮さん、濃厚接触はダメとは言うが、いつも以上にタイガースープレックスの腕のフック、ギッチリお願いします」と呼びかけると、清宮選手は「8月10日、横浜文化体育館大会で試合が行われる。任せてください。武藤敬司に決めます」と気合を見せた。
コロナ禍で新しいプロレスを模索するNOAH。観客の応援が選手に力を与えていることは間違いなさそうだ。
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