元徴用工問題と、それに対する報復措置としてのWTOへの提訴問題、さらにGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の継続問題と、出口の見えない状況が長期化している日韓関係。しかしこの8月、いよいよ岐路を迎えるのだという。
■4日が“史上最悪”の状況へのターニングポイントに? 23日にはGSOMIAの失効通告期限も
「日韓関係が見たこともない局面に変わる、その最初の手続きが8月4日に始まる」。そう話すのは、浅羽祐樹・同志社大学教授(韓国政治)だ。
「一昨年10月、いわゆる元徴用工問題について韓国の最高裁が日本企業に賠償命令を出し、資産(株式)を差し押さえた。この命令文が当該の日本企業に届いたという効力が発生するのが8月4日だ。“現金化”と表現されているが、韓国の裁判所が株式の売却命令を出す。しかし日本企業は従わないので、不服申し立てという流れになるだろう。しかも、対象の株式は非上場株なので価格の算定が必要だが、ここでも日本企業は抗弁ができる。場合によっては売却の完了に数年がかかるかもしれないといわれている」。
仮に現金化が決定的となった場合の対応について、日本の外務省関係者は「徴用工問題の対抗措置として大使の帰国やビザの発給条件の厳格化などの可能性が考えられる」としている。
「日本政府は対抗措置を取ると公言しているし、日本国民も安倍政権への支持問わずそれを支持している。拳を振り上げて、振り下ろさなければ批判を浴びることになるので、やはり何らかの対抗措置を取ることになると思う。政治的なやりかたとしては、大使を引き上げることで、“怒っている”というメッセージを送るという方法がある。ただ、それによって韓国側が問題解決に向けて動き出す可能性はあまりない。また、今はコロナ禍なので、邦人保護も必要だ。大使館が大使のリーダーシップの元で動かなければならないときに、引き上げられるのかという問題もある。有力な措置として考えられることはそんなにはないが、やられたことをやり返す“比例の原則”に則れば、韓国にいる日本企業が受けたのと同等の損害を日本にいる韓国企業に与えるというのが、まずは考えられる。税務調査というような、いやらしいやり方もある」。
23日にはGSOMIAの失効通告期限も迫る。
「安全保障と経済の部分がガタガタと崩れていく中、何とか踏みとどまったのがGSOMIAだった。韓国としては、貿易管理体制への指摘に対し、キャッチオールの制度を作ったり、人員を増やしたりと、やることをやった。一方、日本はその後の運用の実態を見ないといけないということで、歩み寄って来てはいる。韓国も、日本の主張を全く飲まなかったわけではない。しかし、それらの協議が進んでいる中でいきなりWTOに提訴してしまった。これで信頼関係が失われたというのが日本の主張だが、韓国が再び安全保障の問題にリンクさせてくる可能性は排除できない」。
浅羽教授によると、韓国側が関係改善に向けて動く可能性は低いようだ。
「韓国の中で日本の重要度はどんどん落ちている。この30年、韓国が経済成長を続ける中、日本は横ばいのままだ。コロナ対策や電子政府といった分野では日本を追い抜いたという自負心もある。だからこそ、日本との関係が悪くなったからといって、その改善のために自ら動く必要があるとは認識していないし、インセンティブもない」。
■文大統領に厳しい世論も、対日政策は変わらない?
そんな中、韓国のネットでは、「文在寅を罷免する」というワードがリアルタイム検索1位になった(7月29日)。文大統領の不動産政策に反対する団体が主導し、ランキング上位に入るよう、一斉に同じワードを検索するよう呼びかけた“オンラインデモ”だ。
5月時点では感染症対策が評価され、支持率が5月の第1週で71%にまで上がり(韓国ギャラップ調べ)、「世界の手本となり世界をリードする国になる」と胸を張った文大統領だが、不動産価格の上昇基調が続き、貧富の差も拡大。これが国民の不満を高めることになっているという。
加えて、盟友だったソウル市長のセクハラ疑惑と自殺もあり、支持率は44%にまで下落。ネットでは「文在寅は韓国の大統領ではない」「文大統領を引きずりおろせ」といった声が上がっているという。
浅羽教授は「“罷免”というのは非常に極端だが、オンライン社会の韓国ではポータルサイトが牛耳っていて、リアルタイム検索で上位に上がっているものを中心に見ている。そして、そこに付いた様々なコメントがつく世論を形成している。ここは進歩派の独壇場だったが、最近では保守もここを取りに行かなければ必死になっている」と話す。
「“ろうそく革命”で朴槿恵大統領を放逐する時のスローガンが、“これが国か”というものだった。しかし、それによってできた新しい国では文大統領が私有物のように権力を独占しているではないか、“国はお前のものか”という批判が巻き怒っている。文大統領は就任式で“過程は公正に。結果は正義に見合うものでないといけない”と述べたが、自らはダブルスタンダードではないのか、ということだ。ソウル市長同様、文大統領もフェミニストだと言っていたのに、被害者の女性には言葉をかけることもなく、加害者とされる市長に花を贈っておしまいにしてしまった。逆に言えば、支持率低下はこのセクハラ問題や不動産政策の失敗などの国内要因であって、対日問題に関心を逸らすということにはならないと思う」。
その上で浅羽教授は「この先5年、10年は進歩派の政権が続くだろうと言われていた。しかし、現政権に対してこれだけの批判が出てくると、受け皿として野党第一党である保守党の求心力が高まることになる。実際、支持率も拮抗してきてはいる。保守党としては、ここで次の大統領選挙につなげることができるか、ということだ。鳥は両方の翼で飛ぶと言われるように、進歩と保守のバランスが取れてないといけないという面もある。また、先程も言ったように日本に対する自負心もあるし、国際的な地位も向上させたい。そういう構造的な部分は保守派の大統領が誕生したからといって変わるものではない」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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