冬のカニ漁にも影響…? 浮き彫りになる技能実習生の“不在”、コロナ禍を劣悪な外国人技能実習制度の見直しの機会に
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 1993年の創設以来、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」という基本理念で運用されてきたはずの「技能実習制度」。また、日本で習得した技術や知識などを母国の経済発展に活かすという名目で来日しているはずの「技能実習生」たち。

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 報酬額は日本人と同等以上であること(技能実習法)、賃金、労働時間その他の労働条件について国籍等による差別的取扱いを禁止(労働基準法)と、その立場は守られているはずが、人権無視ともいえる過酷な労働環境や実態に見合わない報酬体系などから失踪する人が増加。法務省の調べによれば、2018年の失踪者数は9052人(技能実習生の2.1%)に上る。

 こうしたことから、日本の技能実習制度は「搾取的で安価な労働力を供給し、奴隷的状態にまで発展している場合さえある」(ホルヘ・ブスタマンテ氏の国連報告、2010年)、「日本政府は人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていない」(米国務省の人身取引報告書、2020年)と、海外からも厳しい批判の声を浴びてきた。

■恋愛、妊娠、出産の禁止、トイレの管理まで…

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 30年以上にわたって外国人労働者の支援を行ってきた全統一労働組合の鳥井一平・特別執行委員が見せてくれたのは、あるベトナム人の実習生を“先輩労働者”の日本人が暴言とともに蹴り上げている映像。

 また、あるカンボジア人の実習生は日本人の同僚からハンマーで殴られ、プレス機に手を挟まれて火傷を負ったベトナム人実習生は会社からバーベキューで怪我をしたと説明することを強要されたという。

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 鳥井氏によると、こうしたケースはあくまでも“氷山の一角”で、恋愛、妊娠、出産の禁止、パスポートや通帳、印鑑の取り上げ、最低賃金を下回る低賃金、残業代としてお米や生活用品の現物支給、さらにはトイレの使用時間と回数を分刻みで管理されるといった相談を受けてきたと話す。

 実際、受入企業に対する監督指導などの状況(厚生労働省、2018年)を見てみると、指導を受けたケースのうち7割超で労働時間や安全基準などの労働基準関係法令違反があるという。

■借金があるため、逃げ出すこともできず…

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 2年前に来日したベトナム人のゴックさん(仮名・20代)は、働き始めて半年が経った頃に実習先から失踪した。滞在している1Kの部屋では、5人が共同生活を送る。

 来日前の説明では月給15万円はもらえると言われたゴックさん。しかし実習先となった地方の農家では朝4時半から夕方5時まで週6日も働いたにも関わらず、総支給額は約12万4000円。寮の家賃(光熱費含む)2万5000円や社会保険料を差引いた支給額は、わずか8万円。日常的な暴力やパワハラも受けたという。「何かあると、“ベトナム人が悪い”。社長からは“バカ”と言われたこともある」。

 ただ、来日の際に背負った借金があるため、すぐに逃げ出す決心はできなかった。というのも、ベトナムから実習生として来日するには「送り出し機関」といわれる現地の施設で日本語や日本文化を学ぶ必要があり、来日に係る様々な手続きも含め、およそ100万円を支払う必要があったという。それに対し、ベトナム人の平均月収は約3万円ほど。多くの人が借金のため、途中で逃げ出すこともできず働き続けるほかないのが現状だというのだ。

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 リディラバ代表の安部敏樹氏は「いわば派遣業のようなところがあり、たとえば農家が出した20万円のうちの5万円を監理団体がもらうといった仕組みになっている。つまり事業モデル的には受け入れ先のことを見て見ぬふりをして現状維持をしていれば、それだけでお金が入ってくるという仕組みになっている。見方を変えれば、日本人がやってくれないから、外国人の技能実習生の人に農業を担ってもらっているという構造がある。僕たちが食べている野菜なども、この制度があるから生産できているわけで、その意味では制度の加担者だといえる」と指摘する。

 鳥井氏も「本来であれば賃金や労働時間、仕事内容について、実習生が企業や農家と契約して決められるはずが、送り出し機関や監理団体が決めてしまっていて、来日して初めて現場を知るという実態がある。つまり、初めから対等な立場で労働条件を交渉できるという構造にはなっていない。決定に大きな力を持つ監理団体に派遣会社が協同組合を作って参入し、実習制度を使った利権構造を生み出してしまっている。これは実際に雇う事業主にとっても非常に問題がある。“本当は払っているお金の全てをあげたい”と思っている社長さんたちも少なくない」と実情を明かした。

■逃亡し、偽造の在留カードを入手し働く実習生も

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 こうした事情から、真面目に実習をするよりも稼げる「不法就労」を選ぶ外国人もいるという。実はゴックさんもその一人だ。そのために「技能実習」ではなく、「定住者」「就労制限なし」と書かれた偽造の在留カードを入手し、働いている。こうした偽造カードを製造・販売するだけでなく、働き先や住む場所まで斡旋するブローカーも暗躍しているといい、SNS上でそのための情報を入手することも可能なのだ。「警察とかが怖い。怪我があっても病院にも行けない」。日中もカーテンを閉め切り、外出する際には常に帽子を被る。

 そんなゴックさんたちにも、新型コロナウイルスの影響が及んでいる。仕事は休業状態、収入はゼロになった。相談相手もいないゴックさんたちは、近く入国管理局に出頭しようと考えている。

 「技能実習生の場合、期間内であれば帰れるので、ほとんどの人が自首、出頭して帰国するということになる。そうなる前に、外国人技能実習機構や、労働基準監督署に相談することもできることはできる。しかし実際には強制帰国などのペナルティを恐れて行くことができない。やはり3年間働き続けて借金を返して初めて家族にお金を持って帰ることができるという考えがあるからだ」(鳥井氏)。

■日本の難民・移民政策とセットで改革を

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「日本はこの10年、先進国で唯一賃金が下がり続けている国になってしまった。GDPでいえば中国に次いで3位だが、時間当たりの労働生産性は21位だ。結局、1人が稼げるお金が少ないから、たくさんの人数を投じ、低賃金で何とか持ちこたえているという構造がある。それを変えないまま、今度は外国から低賃金で人を無理やり入れているということだ。すでに中国では沿岸部の上海や福建に行けば日本の技能実習生よりも遥かに高い給料がもらえるし、東南アジアの都市の給料が上がってくれば、わざわざ日本に来て奴隷のような労働をしなくても良くなる。このままでは単に日本のイメージを悪くし、最後は誰も来なくなるという未来が待っている。こういう議論をすると、必ず“移民は嫌だ”という人が出てくる。しかし、“でも野菜は安く食いたい”という虫のいい話は通らない」と指摘。

 安部氏は「日本企業が海外進出する際に、現地の人たちに日本語研修をしないといけない。そのために日本に呼ぼうという話が発展してできた制度だ。ところが日本の中小企業が国内の人手不足を賄うために使われるようになってしまった。働き手が足りずに困っている地方の零細企業と、移民に否定的な人たちは、いずれも自民党の支持者だ。そのどちらの支持も取り付けようとした結果がこれだ。移民として、働き手として受け入れればいいはずが、それができないのもそのせいだ。その意味では、政治的な矛盾から来ている問題でもある」と指摘する。

 「2018年頃までは難民申請して半年くらい経てば働くことができた。つまり技能実習から逃げ出し、難民申請をするというルートもあったということだ。しかし、それを認めると難民の数にカウントされてしまうので、運用が厳しくなった。僕はシンプルに“移民・難民基本法”のようなものを作って、どういう人を受け入れ、どういう人は家族ごと来てもいいといったことを定義しつつ、文化面でも配慮しつつ、労働力として受け入れていくということまでしなければならないと思う」。

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 鳥井氏は「端的に言えば、1分1秒でも早くこの技能実習制度を止めるということだ。ある社長さんは“技能実習生に技能を教える者がいなくなった”と言っていた。その場しのぎでやってきたことによって、担い手そのものがいなくなっているということだ。これは非常に深刻なことだ。実は春、収穫、出荷する技能実習生がいなくなってしまったことで野菜の価格が高騰してしまった。つまりメイドインジャパンとか地産地消と言われていたものは、外国人労働者、技能実習生に支えられていたという実態が明らかになったということだ。11月にはカニ漁が始まるが、北陸の船主たちはインドネシアから実習生が来てくれるかどうかを心配している。新型コロナウイルスの感染拡大というのは、その意味ではこの制度を見直し機会につながるのではないか」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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