無数にある映画のタイトルを選ぶ時、アカデミー賞受賞作品だから見てみようという人も多いだろう。そんな映画作品にとって最大の名誉「アカデミー賞」が、大きな変化を迎えようとしている。
「この基準は、映画を見る観客の多様性をより適切に反映するため、スクリーンの中、外で、公平な表現を促進するように設計されています」
アカデミー賞を主催している映画芸術科学アカデミーは9日、「2024年から作品賞の受賞にいくつかの条件を満たさなければならないことにする」と発表した。条件はAからDの4つで、そのうち2つを満たせばいいとされているが、話題となっているのはA。「主要な役にアジア人や黒人などの俳優の起用」「作品のテーマが性的マイノリティーや障害者を表すもの」といった内容だ。
また、Bでは製作スタッフについて記載されている。この中には、「少なくとも30%が女性や人種的少数派、LGBTQ、障害者であるとする」などの内容が含まれている。
CやDでは、人材育成やマーケティング、宣伝などに携わる人材にも人種的少数派やLGBTQなどを起用することを定めている。
こうした項目について、映画評論家の有村昆氏は「非常にハリウッドは進んでいる」と話す。
「この流れは結構近いうちに来るなと僕は思っていた。大きな影響は、旧体制の人たちからするとあると思うが、今のハリウッドの映画界の流れからするとごく自然な流れで、そこまで『なんで!?』という大きな反発はないような気がする。ディズニー『リトル・マーメイド』の実写化で人魚姫『アリエル』の役を黒人がやるとか、『スター・ウォーズ』にチャイニーズが出るとか、ポリコレ文化はもう確実にどの映画にも当たり前になってきているが、明確化させたのはちょっとびっくりした」
キャスティングや製作スタッフの項目で「少なくとも30%」と数字を明確したことについては、トランプ大統領への牽制にも取れるという。
「ハリウッド自体、トランプ氏が大嫌い。白人優位主義政策を進めるアメリカファースト、白人ファーストに対するものすごい反発で、今から4年前くらいに“白すぎるオスカー像”というのがあったが、(アカデミー会員の)比率を変えている。今まで6000人の会員がいて、8割が白人の60代以上の男性だったが、今は9000人に増やして、その多くが黒人や女性、アジア系にしている。なので、『多民族国家だよ、アメリカは』と印象付ける、進んだ決定だなと。しかも、大統領選の時期にぶつけてくるというのが、結構踏み込んだ政治色のあるアカデミー賞で、(次回が)楽しみ」
一方、メディア企業を運営するニュース解説YouTuberの石田健氏は、「今回の話は、非常に広範な分野においての基準だということ。主演にマイノリティーを起用しなくてはいけないという話ではなく、製作スタッフやマーケティング部門、インターンシップなどの4条件の2つに該当すればいいので、むしろルールに該当しない作品を探す方が難しいのではないか」と話す。
そんな中、ルールを明示したことについては、「多様性」と「構造的差別」のふたつの要因をあげた。
「ひとつ、『多様性』と聞くとなんとなく“主演が黒人やアジア人ならばいいだろう”と理解してしまうかもしれないが、そうではない。映画のイメージはマーケティングや制作陣の責任者などにも大きく左右される。現状では、俳優のように表に出ている人が白人ばかりだと多くの人が違和感を抱くが、製作や配給のプロセスには気づきにくいので、そういったところに手を入れることが大事だという意義のあるアプローチだと思う。
もうひとつが、構造的差別という問題。アカデミー賞は、興行収入による人気映画ランキングではなく、誰か1人の人間が選ぶような、人によって権威付けされるもの。この選ぶ側が白人男性ばかりに偏っていて、結果的に白人の男性ばかりが賞を受賞してしまうという構造に手を入れようというアプローチになっている。インターンのように人材育成のところにも手を入れているあたり、映画業界全体にこの問題を考えるきっかけにしてほしいという背景がみえる」
また、ルールは作品の面白さや作り方には影響を与えないとし、「“白人は実力によってマイノリティーを押しのけて賞を獲得している。マイノリティーの演技力は低い”と思う人は、直感的に少ないと思う。むしろ、社会に何か構造的な問題があって、それを賞や制作のプロセスのあり方によって変えていかないといけない。これまで制度的に評価されなかった才能に適切な評価を与えようというところが、今回の一番重要な考え方になる。決して作品の面白さや作品作り自体に制限を与えるものではないということを念頭に置くべき」との考えを述べた。
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