未来の“タカラジェンヌ”を養成する宝塚音楽学校で、生徒間で長年受け継がれてきた“不文律”を廃止したと朝日新聞が報じた。
宝塚音楽学校は2年制で、1学年に40人が在籍。上級生は「本科生」、下級生は「予科生」と呼ばれている。廃止されたのは、指導の名目で上級生が予科生の後輩に課していた“伝統的な作法”。具体的には、「先輩が利用する阪急電車へのあいさつ」「先輩への返事は『はい』か『いいえ』などの言葉の限定」「ルール違反した予科生が先輩に謝る時には、ほかの予科生も違反を自主申告して一緒に謝るという“連続謝り”」などだ。
この不文律について、『ABEMAヒルズ』では元タカラジェンヌで男役だった彩羽真矢(あやはね・まや)さんに話を聞いた。阪急電車へのあいさつは彩羽さんも日課だったという。
「間違いなくありました。ただ、決まりが結構変わっていて、昔は遠くでチラッと見える阪急電車に対しても必ずお辞儀をしていたと聞いていたんですけど、私たちの時代は駅のホームに限り挨拶をしていました」
また、先輩の前では表情も決まっているという。それを「予科顔」と呼ぶそうだ。
「先輩の前で感情を表さないという意味で行われてきたことだと思うんですけど、舞台に上がると役にならなきゃいけない。役者は私情を舞台に持ち込まないというのが基本的なことなので、私の時代は特に口角を下げるとか眉間にしわを寄せるとかはしないで、とにかくポーカーフェイス。笑っても、口角を上げても下げてもよくなくて、無表情。これです」
こうした決まりは厳しかったというが、すべて納得して受け入れていたという。
「若かったらからというのもあるかもしれないですけど、宝塚音楽学校は厳しいところだと知った上で、先輩方に教えられることは全部ちゃんと受け止めて行っていたので。“何でこんなことをしないといけないんだろう”とは思わずに、教えられたことをきっちりやってきたイメージです」
また朝日新聞によると、朝の校内掃除が日課という宝塚音楽学校では、各予科生に掃除場所が割り当てられ、前の年の担当者が1対1で掃除の方法から生活態度まで指導し、上級生へノートを提出する習慣があったが、それらを廃止して校内掃除はグループで担当する方法に変更したという。
学校側は、先輩が乗っているかもしれない阪急電車への挨拶や予科顔について、舞台人の育成に不要と判断し廃止に踏み切った。しかし、生徒からは伝統を肯定する声もあり、話し合いの結果、生徒側も理解したという。彩羽さんも、これらの伝統については生徒同士で話し合ってきたそうだ。
「私たちの時代は先輩たちが学校まで来られて、“決まりを変えていこう”という時間も設けられて、教わってきたことを変更して下級生たちに教えてきたので、その時々によって改善や見直しは行われてきました。時代が変われば考え方も環境も変わってくるものなので、それに合わせて一気に廃止したんじゃないかな」
一方で、このニュースを受けての卒業生の反応は様々だとした。
「いろいろな方がブログやSNSで発信しているのを見て、皆それぞれだなと。確かにハラスメントだと受け止められてしまう部分もなかったわけではないと思うので、そういうところはなくしたほうがいいと思います。阪急電車へのあいさつだったりは、どちらかというと私は誇らしく思ってやっていたことだったので、そこだけ見ればなくなるのは寂しいなと思ったりします」
BuzzFeed Japan記者の神庭亮介氏は、宝塚音楽学校の伝統でもある不文律の廃止について次のように話す。
「時代の変化に合わせて変わっていくのはいいことだと思う。すべての伝統を合理的・非合理的という基準だけで論じることはできない。非合理的であっても当事者がそれを“大切だ”“守っていくべきだ”と思うのであれば、受け継いでいけばいい。一方で、“価値がない”“いらない”というものは勇気を持ってやめていけばいいと思っている。そうすることで、真の伝統が明確になっていくのではないか」
また、このニュースに「抑圧の移譲」という言葉がよぎったとした上で、不文律の廃止に踏み切った判断を前向きに評価した。
「政治学者の丸山眞男は、第2次世界大戦中の旧日本軍の権力構造を『抑圧の移譲』という概念で読み解いた。上官から受けた抑圧を下へ、下へと発散していく図式。そうした構図は今の日本社会にも偏在していて、宝塚の例もそのひとつなのかなと。先輩から受けた圧を、自分が先輩になった時に後輩に対してやってしまう。そんな抑圧の移譲が宝塚にあったとして、今回の不文律廃止で脱却できたのなら良かった。時代に即した決断を支持したい」
(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)
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