菅義偉新総裁が不妊治療への保険適用を打ち出したことから、妊娠、そして女性のキャリアについての問題が改めてクローズアップされている。
日本では代理出産を規制する法制度はないものの、日本産科婦人科学会が母体となる女性の負担や、子どもの売買などに繋がる懸念から、認められていないため、希望する場合は海外へ行くしかないのが現状だ。
どうしても子どもができなかった場合、あるいは自身のキャリアと天秤にかけた時、第三者の女性の身体を借りて妊娠・出産してもらう「代理出産」という選択肢を選ぶのはいけないことなのだろうか。先日、こうしたテーマについて対談したネットの記事が物議を醸したこともあった。
14日の『ABEMA Prime』では海外での代理出産経験者も交え、この難しい問題を考えた。
■「義母から“何それ”と言われたりした」
「身近な人からも“え~?”と嫌なリアクションをされた。義母からも“何それ”と言われたりした。でも、人の意見を聞いていたら、自分の幸せはつかめない」。
アメリカに住む石原理子さんは13年前、代理出産で子どもを授かった。それ以前に妊娠した際、子宮が破裂し流産するという経験した石原氏。「再び裂けたら命が危ないので、代理出産が安全なのではないか」と医師に勧められた。誰に産んでもらうのかという問題も、実妹が引き受けてくれることになりクリア。無事に生まれた娘との親子関係は、問題なく確立されているという。
こうした自身の経験から、石原さんは現在、代理出産のコーディネートを行っている。これまでに日本人を含め、100組ほどの代理出産を手掛けてきた。「癌のために子宮を摘出してしまった方や、不妊治療をしても子宮の問題で授からなかった方、高年齢出産のリスクがある方などが最後の希望としていらっしゃる。また、男性カップルやトランスジェンダーの方、男性の独身の方も来る」。
一方、最近の傾向について石原さんは「状況によって変わるが、一般的には1600万円以上の費用がかかる。それでもバリバリ仕事ができなくなるということで、他の方に産んでもらえるなら、という方が増えている」と話す。
■世界で増える代理出産の需要、トラブルも…
実際、代理出産の需要は世界で増えており、2015年からの10年間で、その市場は約2倍にまで広がるとの予測もあり、様々なトラブルも報告されている。
「“出産したら報酬はいくらだ”と言われた」。2014年、日本人男性がタイで複数の代理母に報酬を払い、20人近くの子どもを産ませていたことが発覚。中には貧しさから報酬のために引き受けた女性もおり、“貧困ビジネス”としての実態が浮き彫りになってきている。また、同年、オーストラリア人夫婦の依頼でタイ人女性が代理出産した男の子がダウン症だったため、引き取りを拒否したという疑惑も浮上している。
石原さんは「私の場合、どのような経緯あって決断したのか、依頼者に代理母の顔を見ながら説明してもらう。代理母には“困っている方を助けたい”という思いがあるが、やはり信頼関係が築けるかどうかは大事だし、依頼者にとっても、お腹の中で自分の子どもを育てくれる方。とりわけ依頼者が産むことのできる身体であるものの、“お金出すので産んでもらえませんか?”というようなケースの場合、この信頼関係を築くのが難しいが、それでも長い妊娠期間に互いの近況報告を続け、一緒に頑張ろうという気持ちでやっていくうちに、代理母も温かい気持ちになれる。また、アメリカでは財政的に安定している人でなければ代理母にはなれない。家庭の状況が良くないというケースも一度もなかった。必ずしも貧困や格差という側面だけではない」と話す。
その上で、「貧困国でビジネスのようになってしまっているのは悲しいこと。屋根のない家に住んでいる代理母がいたという報道もあったが、どの国においても、エージェントはきちんとスクリーニングを行うべきだ」と訴えた。
■“みんなが同意しているから”で認めていいのか
「代理出産を問い直す会」代表の柳原良江・東京電機大学理工学部助教は、「確かにアメリカ国内では契約で代理母の生活に制限をかけることもあり、ある程度はうまくいく。また、アメリカの代理母を調査した研究結果では、“お金だけが目的ではないが、もちろんお金無しではやらない。そして求めるのは、依頼者との親密なつながりだ”というものがある」と話す。
その上で、妊娠中は優しくしてくれる依頼者でも、生まれてしまうと距離を取りはじめるケースや連絡が付かなくなるケースもある。中には、傷付いてしまい、“次こそは”と代理出産を繰り返すケースも報告されている。さらに国内で代理母に依頼できなかったアメリカ人が他国に流れる場合もある。ウクライナでは生まれた子供が障害を持っていたことを理由に引き取られず、小児病院で暮らしているケースもある。アメリカの場合は訴訟の末に示談で解決するが、守秘義務の関係から、こうした問題が表に出てきにくい」と指摘。
また、家族間など、納得・同意の上になされた場合であっても問題はないわけではないとし、「日本の場合でも、諏訪マタニティークリニックでは家族間・無償で行ってきたが、さまざまな家族トラブルが生じてしまったことから、代理出産を中止した。もちろん、他国でも上手くいっている事例もあるから今も成り立っているわけだが、一方で深刻な問題も生じている。“みんなが同意しているから”という理由をもって、手放しで認めるわけにはいかないと思う」と警鐘を鳴らした。
■容認に向かう世論との“ねじれ”も
日本産婦人科学会では2008年、(1)生まれてくる子の福祉を最優先(2)身体的危険性・精神的負担を伴う(3)家族関係が複雑に(4)倫理的に社会全体が許容していると認められないとの問題点を指摘、「代理懐胎(出産)の実施は認められない。望むものに医療を実施したり関与してはならない」との見解を示している。
柳原氏は「2003年に日本産科婦人科学会が見解を出した際には厚生労働省も見解を示し、禁止するための法律を作ろうとした。しかしちょうどその頃、向井亜紀さんの代理出産や長野県の諏訪マタニティークリニックにおける代理出産が報じられたこともあり、“代理出産を認めてもいいのではないか”との世論が出てきたため、法整備の動きが止まった。ただし、その後も2008年に日本産婦人科学会や日本学術会議からの禁止すべきとの見解が出ているので、いわば肯定的な世論との間の“ねじれ”も生じている。一方で、最近では懸念が具体的な問題として現れてきている状況ではある」と話す。
「そもそも生きている人の身体を使うことは行われないのが原則だ。臓器移植も原則的には脳死した人の身体を利用するものだし、生体移植も例外的におこなっていること。妊娠出産機能となると、どうしても生きている身体を他者に使わせてもいいという考えになってしまう。これは、ある人が持っていない身体的能力、例えば“速く走りたいけど自分はそうではない”からといって、速く走れる人の足をもらうわけにはいかない。特に商業的に行うことは問題がある」。
さらに、「そもそもキャリアアップをしたければ妊娠出産を諦めなければならないという社会構造こそ問題視すべきだ。逆に言えば、キャリアのために他者に代理出産してもらえばいいという考えそのものが、健康な男性だけが労働者だという、古い価値観に縛られ、昔ながらの男性社会を再生産することに加担してしまっているのではないか。本当に必要なのは、そのような特徴を持つ女性の身体を引き受けた上で、きちんと仕事をし、暮らしていける社会を作ることではないか」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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