電話相談員は自費で参加のボランティア、運営資金の大半は寄付…自殺報道で報道機関が紹介する「いのちの窓口」の実態を知っている?
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 「電話番号を伝えるだけ…で何かをやった気になるのは虫が良すぎるのではないか?」

 自殺したとみられる著名人について報道機関が伝える際、併せて相談窓口「いのちの電話」の電話番号を周知するケースが増えている。竹内結子さんの急逝を伝えるニュースでも同様の取り組みが広がる中、報道機関に苦言を呈するのが、テレビ番組のディレクターとして自殺問題を取材してきた放送作家の大嶋智博氏だ。

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 「こういう相談窓口があるということを知っていただくことは大切だ。ただ、電話をかけてきた方々と向き合う“ゲートキーパー”たちがどのような状況にあるのかが、あまり知られていないと思う。実は相談してみようと思っても繋がらなかったり、受付時間が限られていたりすることも多い。それは人手もお金も足りないとい実情があるからだ。そこを知らせずに、“こういう窓口がある”ということだけを繰り返し放送し、書くのは無責任ではないかと考えている」。

 そもそも、私たちはこうした窓口の実情をどれくらい知っているだろうか。

■「高齢ボランティアのコロナ感染リスクに考慮し、台数を減らさざるを得なかった」

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 報道機関が紹介している「いのちの電話」は1971年に東京で始まった取り組みで、現在は全国に約50の拠点がある。去年の受信件数(全国)は62万367件に対し、相談員は約6100人。これは全員がボランティア(平均年齢は60歳)な上、研修に9カ月~2年の期間が必要だ。この研修の参加費(2~8万円程度、自治体によっては補助金支給)も自費だという。

 「高齢のボランティアも多く、感染リスクを避けるためにコロナ禍では台数を減らさざるを得なかったし、そういう方々が若い世代からの相談を受け止めきれるのかという問題も出てくる」(大嶋氏)。

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 受付時間はそれぞれ異なっているが、緊急事態宣言で13の拠点が相談を休止、今も時間短縮している拠点がある。「東京いのちの電話」でも、24時間から日・月・火は午前8時~午後10時、「千葉いのちの電話」では午前7時半~午後9時半と受付時間を短縮、また、相談員の新規研修も各地で中止になっているという。

 「東京いのちの電話」の場合、1件の電話の平均時間は29.6分だ、また、大阪府にある「関西いのちの電話」では、月に2000件の電話を受け付けているが、1件の相談が2時間近くに及ぶこともあるという。しかもコロナ禍でかかってくる電話は10倍以上に増えており、24時間休まずに電話を取り続けても、「取り切れない状態」だという。

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 「東京や大阪では、それなりの体制を敷くことができているが、県によっては電話の台数よりも人の方が少ないというところもある。また、悩みの理由や背景は100人いれば100通りだ。いたずら電話かと思って聞いていたら、実は深刻な悩みがあったというケースだってある。“30分経ちました”と電話を切っていては、根本的な解決などできないし、それら全ての電話にきちんと向き合うためには、やはり訓練された方でなければならない。僕も取材後に研修を受けて参加してみようと思ったが、自分には無理だと思った」。

 さらに「いのちの電話」の運営資金の大半は寄付で賄われている。「東京いのちの電話」の場合、約3000万円の年間運営費のほとんどは寄付や募金の分配金なのが実情だ。

■ハヤカワ五味氏「メディアはコストの負担を」、カンニング竹山「放送しない選択肢も」

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 ウツワ代表のハヤカワ五味氏は「メディアがある種の“免罪符的”な使い方をした結果、予算がないところに相談が殺到しているのであれば、メディアはコストを負担するとか、お金が流れるような仕組みを作らなければならないのではないか」と指摘。

 ジャーナリストの堀潤氏は「100人いれば、100通りの背景があるわけで、最大公約数で“こうしましょう”という提言はできないと思う。だからこそ、“なぜ、この人が?”と掘っていく報道が本当に正しいのかという思いがある。そうだとしたら、せっかくの“マスメディア”なので、一方的に伝えるのではなく、呼びかけや対話、解決のための相談会の役割を番組に担わせることもできると思う。自殺報道によって後追いの連鎖が起きてしまう“ウェルテル効果”がある一方、踏みとどまった方の話を伝えることによって、踏みとどまる連鎖を生む“パパゲーノ効果”もある」と訴えた。

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 これに対しカンニング竹山は「全ての番組が堀さんの言うような対応ができるわけではない。尺の問題もある。そうだとしたら、著名人の自殺のニュースは扱わない、ということも一つの選択肢としてあると思う。ただ、そうすると今度はフェイクニュースも含めて騒ぎ出す人が出てきて、嫌な思いをする人も出てくる可能性がある。その匙加減がものすごく難しい」とコメントした。

 一方、慶應大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「歴史的に見て、僕は宗教の役割がとても大事だと思う。本当に命を守ることを考えたら、相談窓口の電話番号よりも、お寺や教会を紹介した方が効果があるかもしれない。しかしマスメディアが紹介する以上、最もクレームの来ない、公共のものを選ばなければならないのだと思う」と指摘。

 さらに「言い方は悪いが、最後に窓口を紹介すればコーナーを締められるし、そこでCMに行くことで、画面の中の世界は切り替えられてしまう。そうではない番組作り、インタラクティブな番組作りは可能だと思うが、まだメディア人の多くがそういう対話に慣れていないのだと思う。逃げずに話し合った結果、着地できなくてもいい。途中で“話し合うのを止めない?”という番組も増えなければならないと思う」と訴えた。

■インターネットを使った相談窓口も次々登場

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 各氏の意見を受け、大嶋氏は「非常に難しい問題だが、例えばラジオの世界ではDJが番組放送終了後も電話を聞き続けて自殺を思いとどまらせたという実例があるし、アメリカなどにはそのような番組もある。日本でも報道の仕方を変えるとか、メディアが棲み分けをするといった工夫ができると思う。また、コロナ禍でもネットのテクノロジーを使い、様々な手段がポジティブに編み出されていった。そういうこともできるのではないか」と話していた。

 実際、18歳以下を対象としたチャットと電話相談「チャイルドライン」、10代~20代の女性を対象としたLINE相談「BONDプロジェクト」、LINE、SNS、チャット相談の「こころのほっとチャット」、20代の若者が立ち上げた『あなたのいばしょ』など、様々な取り組みも始まっている。

 報道機関に、「責任を果たしている」という理由付けのための紹介にとどまらない試行錯誤が問われている。

メディアの"自殺報道"の伝える情報に課題も?
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