今年7月、8年半にわたる連載で幕を閉じた漫画『ハイキュー!!』(古舘春一・著)。同作は、ふとしたきっかけでバレーボールに魅せられた少年・日向翔陽を主人公に、バレーボールに青春を捧げる高校生たちを描いている。
日向の前に現れた「コート上の王様」の異名を持つ天才プレーヤー・影山飛雄との出会い、迫力ある試合描写や、読みやすいルール説明もあり、登場人物たちの心情にのめり込む読者が続出。漫画の累計発行部数は4000万部を超えており、『週刊少年ジャンプ』連載終了後も反響が相次いでいる。
一方、日本を離れ、ドイツやポーランドリーグで活躍、今年は古巣であるサントリーサンバーズに復帰し、V.LEAGUEの開幕に向けて、そして翌年に延期された東京五輪に向けて準備を進めている柳田将洋選手。彼もまた『ハイキュー!!』に魅了された読者の一人だ。一体、『ハイキュー!!』の魅力はどこにあるのか――。プロ選手の視点から作品の魅力を聞いてみた。
■日本男子バレー・柳田将洋選手「バレーがいろいろなものにつながっていく」
―― 最初に『ハイキュー!!』を知ったきっかけを教えてください。
柳田:僕は連載が始まった当時から『週刊少年ジャンプ』の読者でした。それまでバスケットボールやサッカーの漫画はありましたが「自分がやっているバレーボールを題材にした漫画があまりないな」と思っていたので、始まったときはうれしくて。作品が長く続いてくれたらいいなと思っていました。
―― 確かにバレー漫画は少ないですね。漫画がきっかけでバレーを始めたという話も『ハイキュー!!』が始まるまでは聞かなかった気がします。そもそも、柳田選手がバレーを始めたきっかけは何だったのですか?
柳田:両親がバレーボールをやっていて、7歳のときに始めました。小学生に上がるときにクラブチームに入ったんです。
―― 最初、バレーボールのどんなところに魅力を感じていましたか?
柳田:ネットは高かったのですが、自分が成長していってスパイクが打てるようになったり、対人パスがスムーズにできるようになったり、始めた当時はできるようになるスピードも早くて。できることがどんどん増えていってうれしかったんです。試合で点を決められるようになっていって、うれしかったのを覚えています。
―― 身長は小学生の頃から高かったのですか?
柳田:そこまで高くなかったです。ただ、中学生で30センチくらい伸びて。
―― 学生時代に思い出に残っているエピソードはありますか?
柳田:高校は大会で優勝したり、ユース代表に選ばれたりしたときに「バレーボールをすることで、いろいろなものにつながっていくんだな」って知って。当たり前のようにやっていたバレーボールが、世界と戦うきっかけになったり、テレビに出るきっかけになったりして、すごく不思議な感覚でした。
―― 身長が伸びると急に世界が広がりますよね。中学生の頃はどうでしたか?
柳田:高校時代と比べて中学生の頃はなかなか勝てない時期で「自分がもっと成長しなければ」と感じていました。身長が伸びている途中だったこともあり、安定しないプレーが出ていましたし、エースとしてやらせてもらっている中で結果も出なくて……。当時は、中学生なりにいろいろ考えていたんじゃないかなと思います。
―― 中学時代は、自分の特徴を理解してプレーができていましたか?
柳田:中学生のときは、考えてプレーすることがどういうことなのかも分かっていなかったと思います。勝ちたいとか負けたくないとか、そういう気持ちで戦っていました。だから考えてプレーするようになったのは、身長が伸びた高校生くらいから。いろいろな選手と出会って視野が広がり、「自分もこういうプレーをしてみたい」って思うようになって。少しずつ、イメージしながらプレーができるようになっていきました。
■「ずっとバレーボールにハマり続けている」 『ハイキュー!!』の“春高バレー”に重なる過去の自分
―― 柳田さんがバレーにハマった瞬間は? 『ハイキュー!!』でも烏野高校の月島蛍がバレーボールにハマる瞬間が描かれています。
柳田:ずっと好きなので、バレーボールにはずっとハマり続けているのですが、それがより深まったのは、やはり大会で勝った瞬間ですね。特に春高バレー(全国高等学校バレーボール選抜優勝大会/現・全日本バレーボール高等学校選手権大会)は大きな大会で、ひとつ勝つだけで、違う世界に飛び込んでいくような感じでした。高校1年生で春高に出て、2年生でも「また出たい」と思ってがんばっていたので、大会に出ることが夢になり、ワクワクしつつ、いろいろなイメージをしながらバレーができるようになりました。
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―― 自分で目標設定ができるようになったんですね。
柳田:この大会に出るためにがんばろう、そしてそのためには何をしたらいいのか、自分がどうなればいいのかを考え始めたんです。大きな大会を経験すると「こういう世界もあるんだ。だったらそこにもう1回出てみたい」と思うようになって、そこでどんどんバレーボールの良さとか楽しさにハマっていきました。
―― そういう意味で『ハイキュー!!』は、バレーがうまくなるにはどうすればいいのか、ヒントが詰まっている作品だと思います。柳田さんが『ハイキュー!!』を読んだときの印象を教えてください。
柳田:最初に読んだとき「この高校生たちすごく大人っぽいな」って思いました。いろいろな心情を描いているからなのかもしれませんが、実際にこういう高校生たちがいたら、ものすごく良いチームができると思いますよ。「高校のとき、こんなに考えてやっていたかな?」と自分に照らし合わせてみたとき、自分はすごく若かったんだなーという気持ちにもなりました(笑)。
―― 中・高校生が今『ハイキュー!!』を読んだら、すごく成長できる気がします。
柳田:今の僕の感覚でもそう(『ハイキュー!!』を読んだら成長できると)思うことがありますよ。高校生だとまだ「これはどういうことなんだろう?」って疑問が出てくるかもしれませんが、仮に(漫画に出てくる技を)やってみたり、それを活かしてみたりしたら面白いかもしれません。この作品で描かれているような心情でバレーボールをやるということは、バレーボールだけでなく、ひいてはスポーツをやる良さにも共通しているような気がします。
―― 技術的な話もそうですけど、メンタル面でも、すごく良い影響を与えそうな作品ですよね。
柳田:人と人をつなぐのがバレーボールで、つないでくれた人にもいろいろな気持ちがあったり、自分がつないだ先にもまた別の思いを持った選手がいたりするんです。『ハイキュー!!』はそういうところもしっかり描いている漫画だと思います。
―― バレー選手が見ても、リアルに描かれているんですね。
柳田:たとえば、烏野高校と音駒高校だと、もともと練習試合をしているじゃないですか。手の内を知っている同士の戦いも僕は経験していて、だからこそなかなかボールが落ちなかったり、新しいコンビネーションを見せて翻弄したりとか、そういうところは実際にやっていました。
それとすごいと思ったのが、原作者の古舘春一さんはバレーボールの描写だけではなく、その周りの景色をすごく丁寧に描いているんです。春高はコートサイドに記者の方がいて、写真を撮っていたりするのですが、そういうところも細かく描いていたりして、すごくいろいろなことを把握していらっしゃいますね。
―― 古舘春一先生はバレーボール経験者ですし、会場などでもたくさん取材しているんだと思います。
柳田:そういう細かいところまで気にして描いてくださっているところを見るとうれしくなります。あと、『ハイキュー!!』って、試合が終わったあとの描写が意外と多くあるんですよ。普通の漫画だったら主人公のチームがピックアップされるだけですが、ちゃんと負けたチームのことも描いてくださっている。
高校の大会は、1日で何校もトーナメントから消えていくような舞台で、その一瞬に懸けているからこそ、どちらのチームにも特別な思いがあります。それをきっと理解しているんだと思います。みんなが涙を流して悔しがっていたり、いろいろな思いはあるけど、ここで終わらせないで次につなげていたり……。そういう描写がたくさんあることは、すごいことですし、読んでいて納得できますよね。
▶︎インタビュー後編は近日公開!
(C)古舘春一/集英社・「ハイキュー!!」製作委員会・MBS