“いちご”“不安”がテーマの気鋭作家2人に聞く「アートの力」 ビジネス界も注目する「アート思考」とは
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 今月7日と8日、東京ビッグサイトで開催された世界最大規模のアートイベント「デザインフェスタ」。年齢や国籍、プロアマ問わず、オリジナルであれば誰でも参加できるアートの祭典だ。自分なりの表現の場を求め、多くのアーティストが大集合した。

【映像】「デザインフェスタ」の様子

 理解はさておき、表現のカタチは千差万別。その数は約3500ブースにのぼる。来場者からは「刺激を受けている。そこから新しいアイディアが浮かんだり元気をもらったりするので、いいなと思いながら見ている」「常識の枠の外側を見せてくれる感じ」という声が聞かれた。アートと触れ合うことで、人それぞれに感じるものがあるようだ。

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 一方で意外と多かったのが、「絵自体は正直わからないが引き込まれる」「何かはわからない。気づいたら足が止まってるみたいな」といった声。言葉ではうまく表せないが、何かインスピレーションを感じる。人の作品を見ると、なぜか心癒されたり無性にやる気が出てきたり、アートには見えない力があるのか。

 そんな中、人一倍強い思いを抱く人たちを発見した。ブースを覗いてみると、そこはいちごだらけの空間。「いちごが好きで、自分が作ったいちごを他の人にも見てもらいたいし、カワイイよねっていうのをたくさんの人と共有したい」と話すのは、いちごをアートで表現し、その魅力を伝えたいといういちごつみさん。ちなみに、彼女のボーイフレンドは現役のいちご農家だ。

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 まさに人生すべてがいちごづくし。そんな彼女が目指すものとは何なのか。「溢れる思いを言葉だけでは伝え足りなくて、形にして、いちごで世の中を幸せにしたい」。“いちごで世界をハッピーに”が、彼女の信じるアートの力だ。

 そしてもう1人、アーティストの星野児胡さんも一風変わった表現をしている。ブースには不気味な絵が並ぶが、一体何をイメージして描いているのか。星野さんは「僕は一貫して『不安』をテーマに絵を描いている。不安はみんな持っているものだから、『不安を共有して安心したい』が制作のテーマ」と説明する。不安を共有することが安心に繋がるのか。星野さんは「つながる。同じ不安を抱えている人が一緒にいると安心する、そういう感じ」と語った。

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 不安を描くことで、逆に世の中の不安を取り除きたいという星野さん。彼もまた、作品の持つ不思議な力を信じる1人だ。「僕の絵は10人が10人好きっていう絵ではなくて、半分くらいが『うわっ』って思う絵だと思う。それでも目当てに来てくれる人がいるし、欲しいと言って買ってくれて金銭が動いたりして、アートってすごいなと思う」。

 見た目も表現も全く違う2人だが、どちらもそのエネルギーに魅せられ、追求を続けている。

 時に人の心を大きく引き付ける「アートの力」。実は今、その力をライフスタイルに取り入れる動きが広がっていたり、アートの発想を仕事でも生かそうとビジネス業界も注目している。もはや人の心だけではなく、社会全体に大きな影響を与える存在になったのか。とはいえ、その魅力どころか見方さえ分からないという声も多数ある。アートの魅力とその価値は何なのか。

■アートの力・価値=お金? 「ちょっと下げたら逆に売れなくなって」

 13日の『ABEMA Prime』は、星野さんといちごつみさんをスタジオに招き、さらに詳しく話を聞いた。

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 そもそも2人は何をきっかけにアート活動を始めたのか。星野さんは「きっかけは震災。自分がすごく不安な気持ちになって、それを絵に落とし込んだら不安な気持ちが結構薄れた。その絵を見た人も同じように、シンパシーを感じて不安がなくなっていったという感想を聞いたので、続けていったらいいのではないかと思い活動している。アートの力は結局何かが動くこと。金銭的なものでも人的なものでもいいし、そういうものが動くのはすごくパワーがあると思っている」と説明。描くことは自身のセラピー要素もあるそうで、「結構不安を蓄積してから描くようにしている」という。

 一方、いちごつみさんは「私は『いちごが好き』というのが最初にあった。出身が福岡で、『あまおう』が有名だったりといちごに触れる機会が多くて。2015年はいちごの年だから何か発信をしようと思って、いろんな人に作品を見てもらえるようにいちごつみという名前で作家活動を始めたのがきっかけ」と説明。アート活動については、「私は言葉や堅苦しいことがあまり得意ではなくて、雰囲気やジェスチャーで表すことが多い。年を問わず、言葉が通じない人でも見ることでわかるというか、説明できなくてもこうなんだというものがあるので、アートの力はそれぞれの受け止め方で伝わるのがすごいなと思う」との考えを述べた。

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 アートの力や価値をどう評価するのだろうか。上手い・下手ではなく、結果的にお金という声もある中で、1円の作品と1000万円の作品では人の見方も変わってしまうのではないか。

 星野さんは「初めて個展をやった時、作品(の値段)をすごくふっかけて出したが売れた。それ以降、ちょっと下げたら逆に売れなくなって、価値は付けた方がいいと思った」と実体験を明かす。

 いちごつみさんは「わからない人は金額で見ると思う。安いから『そんなものだよ』『自分でも作れる』みたいな感じで言う人は多いし、高いと『これはあなたしか作れない』という捉え方をしてもらえることも多いので、客観して見てそのくらいの価値なんだという目線で見てもらえるような気はする」と話した。

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 多摩美術大学を出ている株式会社ウツワ代表のハヤカワ五味氏は「一次流通か二次流通かでちょっと違って、最初に作者から買うのは正直言い値だと思う。二次流通以降になってくると、誰がどう評価したいかというような文化界のマウントの取り合いで、『これを評価している俺が好き』みたいなところもある。実際に私も買った絵のリセールで数十万と利益が出たこともあるので、言い値と次に誰が評価するかという話になってくる」との見方を示した。

■ビジネスに通ずる「アート思考」とは

 ビジネスの目線からアートの力を見るとどうなるのか。いま話題の書籍『13歳からのアート思考』の著者で、美術教師・アーティストでもある末永幸歩氏に話を聞いた。

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 「アート思考」とは、「端的に言うと、アーティストのように思考すること」と末永氏。具体的には、「普通アートというと完成された作品。私はアートを植物に例えて話しているが、植物でいうと花の部分だけに目がいくと思う。でもアーティストによって作品は二の次で、メッセージもイメージもない状態で作品を作り始めていることが多いのではないか。その時にやっていく思考法は、まず自分の“興味の種”があって、いちごつみさんのようにいちごだったり、星野さんのように不安に目を向けたりする。そこから探究の芽、根っこを伸ばしていくが、この根っこは1本ではない。計画的ではなく、まさに手を動かしながら四方八方に根が伸びて考えていくと、その結果、咲いた花はアーティスト自身もイメージしていなかったようなものになる。どんなメッセージがあるか、価値があるかわからないけれど、こうして生まれた花は綿毛になって飛んでいき、色んな人に解釈されて新しい意味や価値が付いていく。こういうものではないかと思う。地下の部分、種から根の部分で使うアーティストたちの思考法をアート思考と言っている」と解説する。

 どういった点がビジネスに通ずるのか。末永氏は「現代社会はかつてのようにこれといった正解があるわけではない。しかも正解やルールもどんどん変化していく中で、正解を追い求めていくことに限界を感じている人が多いのではないか。この時に、アーティストのように自分を軸にしていればブレない。アート思考は真新しいものではないが、こういう考え方が時代背景的に見直されているのではないか」とした。

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 さらに具体的な作品をもとに解説をしてもらった。マルセル・デュシャンの「泉」という作品は、アートに最も影響を与えた20世紀の作品の第1位に選ばれた名作で、世界一有名な現代アートとも呼ばれている。

 この作品からはどんなアート思考が学べるのか。末永氏は「20世紀の重要な作品と評価されているが、正体は上下を逆さにした男性用の小便器。これがアートらしい価値のある珍しい造形の物かというとそうでもなく、至って普通の便器だ。デュシャンはこれをただ逆さまにして置いてサインして、アートだと。美術は美しい術と書くように、美しいのではないか、心地いいものだ、高尚なものだ、すばらしいものであるといった、暗黙の了解みたいなものがあった。別にそんなことは決まっておらず、誰も疑いの目を向けなかったところに、デュシャンは素朴な疑問の目を向けてこの作品を作った。この作品が“アート=美しい”という大きな前提を打ち破った」と説明。さらに、「至って普通の便器なので、よく鑑賞して何か感じるものがあるかというと、ほとんどないと思う。つまり、アートは目で見て楽しむものだ、視覚を楽しませるものだという前提すらも打ち破って、アートを考えるもの、思考するものに移していった」とした。

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 なお、番組の特別企画として、星野さんといちごつみさんが生放送中にライブペインティグに挑戦した。「不安」と「いちご」がコラボレーションした共同作品について、星野さんは「いちごつみさんから『いちごが腐ってしまう』という話があったので、それをイメージした」、いちごつみさんは「私側が王道ないちごで、不安に包まれたところに光を注いだ感じ」と説明。

 これに末永氏は「すごく面白いなと。不安にも希望にも感じるような作品なので、星野さんといちごつみさんのメッセージから離れて、みんなで勝手に解釈しあっても面白いのではないかと思った」と語った。

ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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