先日話題になった、この一文から始まる匿名のブログ記事。投稿したのは漫画家を名乗る人物で、他人の二次創作活動を認めることを強制されていると主張した。
そもそも漫画の世界では、既存の作品をもとにした二次創作がファンの間で活発に行われ、そうした作品が扱われるコミックマーケットの経済効果は180億円にのぼるといわれている。
一方で、アニメや漫画をもとにした二次創作で問題視されているのが、著作権の侵害。しかし、新たなクリエイターを生む土壌としての役割を担っているという声もある。
そうした中、出版社が著作物に関するガイドラインを明示するなど、業界内でのルール作りも進められているが、二次創作を黙認するケースが多くあり、曖昧な線引きが続いているのが現状だ。
著作物である作品を守らなければならない。しかし、ファンによる表現や創作活動も大切――。冒頭の記事で訴えた漫画家は、そうした空気感が嫌だというのだ。
「作品って私のもので、キャラクターもストーリーも、本当に、精魂を込めて、精神と魂を削って描いて放出しているものなんですよね。それを好き勝手されると、嫌な気持ちになることがどうしてもある」
強い思いで作品作りに取り組む一方で、ファンに支えられている漫画家の立場は弱い。二次創作をやめてとファンに言えないクリエイターの心情が綴られていた。
「だから、これは呪いだ。人を呪いたくて、ここに文章を書いている。『好きなものを好きなように解釈して、独自の表現をして、それをみんなと共有する』という行為が、今のSNSだとすごく尊いもののように扱われている。その自由を守るためなら二次創作が許されるという風潮を少しでもぶっ壊したいと思って、こういう意見を表明した」
一方の二次創作をしている側はどのような思いを抱いているのか。二次創作作品の販売活動をしている人に話を聞いた。
「作者(投稿者)のおっしゃるとおりで、全面同意ですね。作者さんの思いとか作られてきた努力とか、そういう積み重ねの上前をはねて自分の承認欲求を満たしたり、本を出してお金を得たりしている。“他人のふんどし”で相撲をとっている状態。そういうつもりでやっています」
また、二次創作に関するルールがほしいと訴える。
「私としては(ルールづくりを)やってほしい。あまりにも無法地帯すぎますから。ガイドラインがない場合、外野が『著作権違反だ』などとなんでも盾にとって私たちを責めることができる。原作側からガイドラインが出されると、『あくまでその範囲内で守ってやってますよ』ということが言い返せるので」
『ABEMAヒルズ』では、またさらに漫画家に話を聞いた。『ラブひな』などが代表作で日本漫画家協会常務理事の赤松健氏は、二次創作に「賛成」の立場を示す。
「私はコミケ出身でもあるので二次創作は肯定派。昔、私の作品がアニメ化した時にいっぱい男性向け二次創作同人誌が出たが、そのサークルスペースに行きクオカードを渡しつつお礼を言って直接買っていたぐらい。(相手は)『すみません』と恐縮していたが、私はすごく嬉しい。ただ、特にメジャー少年誌系で嫌がっている作家は何人かおられる。私がみたところ、最近は歓迎する作家の方が多いようだ」
では、実際に販売してお金を稼いでいることについてはどう思うのか。
「大手のサークルだと数千万円というお金になってくるので、それはさすがに見過ごせないという声があがるのは無理もない」
手作りの模型「ガレージキット」の展示販売イベント「ワンダーフェスティバル」では、既存キャラクターなどの版権モノに関して、当日限定で販売が許可されるものもあるという。これは、実行委員会が事前に参加者から申請を受け付け、版権元と調整する仕組みになっている。
「漫画がアニメ化すると、フィギュアなどを作りたいという人たちが多数申し出てくる。そのサンプル写真を作者が見て、『これはいい模型だな』と思ったらOKを出す。これは公式な許諾なのでワンフェスで販売ができ、その権利料もちゃんと作者に入る。作者が忙しい時は、編集部に任せておけばチェックして許可を出してくれたりする。なぜこれがコミケではできないのかとおっしゃっているメジャー誌の先生がいた」
コミックマーケットで実現できない理由について、公式が「これはOK、これはNG」と判定することによる萎縮や盛り下がり、さらに二次創作ならではの表現や発想まで失われ、いずれは漫画業界全体のパワーが落ちてしまうのではないかと懸念する赤松氏。そのうえで、作者が自分の作品について、一定の条件の下でファンが二次創作同人誌を即売会でのみ配布して良いとする「同人マーク」を以前提案していた。これは元々はTPPによる著作権侵害の非親告罪化から二次創作を守るためのアイディアだった。
「この同人マークの逆で、同人NGマークがあったら拒否の意思表示ができるのではないかというアイディアがネット上で散見された。しかしそれをやると『先生はそういうの嫌なんだ』と悲しむファンがいるかもしれない。すると『同人マーク』をメインのガイドラインとして使用し、それが出ていない作家については察してもらう形があり得るかもしれない」
赤松氏の見解についてフリーアナウンサーの柴田阿弥は、「私も二次創作の本を読んだことがあって、いわゆるBL作品とか解釈が分かれる物語の間を埋めるような作品が好きだった。一方で、漫画家は嫌なんじゃないのかなという一抹の不安もあったので、こういった同人マークがあると読み手も安心して読めると思う」と話した。
(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)
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