「視線レーダーは、こちらのCONEにアニメーションをつけて。こちらのCONEに…あっ、失礼しました。視線レーダーはCONEにこちらのスクリプトとアニメーションをつけています」
たどたどしく、なんともかわいらしいプレゼンテーション。しかし、この千葉眞白くんは小学1年生にしてプログラミングを駆使し、きちんと動作するアクションゲームを作り上げたプログラマーだ。
6日に行われた、小学生プログラマー日本一を決める大会「Tech Kids Grand Prix 2020」。次世代のイノベーター発掘を目指して2018年から開催され、第3回の今年は全国各地から去年の1.5倍、約2200件のエントリーがあった。
今年は、小学校での「プログラミング教育」の必修化がスタート。2030年には55万人のIT人材が不足するという経済産業省の試算もあり、次世代を担う技術者の育成は重要な課題になっている。今回のコンテストでも、デジタル改革担当の平井大臣が子どもたちの努力を社会全体でサポートするよう呼びかけた。
「社会課題を解決したり、周りの人を幸せにしたり、便利にしたり、そういうことに頑張っていこうという子どもたちですから、これからもさらに頑張ってほしいし応援したい。日本をデジタルの力で元気に、より良くしていくために私も頑張るし、テックキッズグランプリはとても重要なイベントだと思っている。子どもたちが活躍できれば21世紀の日本は必ず明るく幸せな社会になると思う」
将来、世界で活躍するプログラマーを発掘するべくIT企業を中心とした22の団体がサポート。1位には50万円の賞金が用意されるなど、本格的なコンテストになっている。
コロナ禍の今年は、ゲーム感覚で手洗いの大切さを学べるアプリや、AR技術を活用して“密状態”を避けるための実用的な作品のエントリーも。社会の課題を敏感に察知し、人の役に立つものを形にする子どもたちの発想力と行動力は侮れないものがある。
今回のコンテストで優勝したのは、小学4年生の川口明莉さん。AIによる画像認識を駆使し、SDGs(持続的な開発目標)について考えるきっかけを作るアプリを開発した。例えば、子育てで困っている人がいた場合、その手助けとなるマークをカメラで撮影し、AIが認識するとマークの意味が表示され、SDGsへの理解が深まっていくというものだ。マークは全部で45種類あり、見つけたマークがコレクションされていくという遊び心もある。
「この作品を通して、マークに関わるSDGsの目標を意識する人が増えて、10年後の2030年にはみんな笑顔の持続可能な社会になっているといいですね」(川口明莉さん)
こうした子どもたちが天才プログラマーとして将来の日本のIT業界をけん引していくのだろうか。審査員を務め、自身も小学5年生からプログラミングの世界にのめりこんだテックキッズでもあるCygames・テクニカルディレクターの永谷真澄氏に、業界の未来像を聞いた。
「2つの視点があると思う。1個は、例えば最近はプログラムを書かなくてもITの恩恵を受けられる『ノーコード』というものもどんどん出てきている。その視点で見ると、『プログラム書けますよ』ということは近い将来、そんなに役に立たなくなるかもしれない。逆に、プログラムを書かないとできないことは確実に残る。JAXAのはやぶさ2といったところでも当然、制御だったりモニタリングでコンピューターが活躍している。多分あれはノーコードではできない。プログラムができるから宇宙開発に行くとか、古い美術品のアーカイブでそういう力を使えるとか、プログラムができるから何かできるという可能性はどんどん広がっているのかなと。今の子どもたちに期待しているのはそこ」
プログラムが書けるからプログラマーという単純な選択肢ではなく、もっと広い視野で可能性を広げることが重要だと永谷氏は話す。また、人材不足がささやかれるIT業界の現状については次のように続けた。
「『現場のエンジニアが足りないです』ということに対してプログラムができる人を増やしましょうというのは、あんまりハッピーにならないと思う。さっき言ったようなノーコードだったりAIだったりというITエンジニアが汗水たらしてやっている仕事は、さっさとコンピューターにやらせてしまえばいい。プログラミングができることで、AIでもノーコードでもできないという新たな領域にチャレンジできるような、そういうスペシャリストが増えていってくれたらいいのかなと」
永谷さんの思いやIT業界の未来像を早くも察知してか、グランプリに輝いた川口さんの将来の夢は「プログラマー」ではなかった。
「将来の夢は小児科医なんですが、プログラミングも活用していって、将来の夢を叶えたいです」
こうした子どもたちの活動について、“やる気”を高める秘訣について臨床心理士で明星大学准教授の藤井靖氏に話を聞いた。藤井氏によると、上手なお尻のたたき方や勉強が好きになるおだて方、やる気がわき上がるおどし文句はなく、「1.親の理想と違う時に、立ち止まって考え修正することができるか」「2.“やる気=勉強のやる気”に限定しない」「3.子どものセルフイメージを高める」ことが大事だという。
「去年キッズテックスクールを見に行ったことがあるが、意欲的な姿勢の子どもたちがたくさんいて、いい雰囲気でやっていた。そこで続けている子どもたちは、最初に親が勧めたり決めたりする中で、自分の興味や関心と合っていた子どもたちが多いのだと思う。一方で、プログラミングに限らず、やってみてちょっと違うな、合わないな、子どもの成長・発達の段階からいうと今じゃないかもしれないと思った時に、親がこだわり続けずに方向転換できるかは大事。やらされ続けるとなかなかやる気も伴いにくいし、いずれ’’やりたくない’’という反応につながる可能性が高い。『気が向かないことでも続けることに意義がある』という考え方は、成長を意図するなら実は理にかなっていない。
2つ目について、お母さんお父さんから相談を受ける時、『(子どもの)勉強のやる気が起きないのでなんとかしたい』というニーズは高い。ただ、子どもやる気はいろいろなものに向いていて、大人が向いている方向とは違うということがほとんど。その対象がたとえ遊びや趣味の範疇であっても、誰かに褒められる・評価されるからということではない、自分の内側から出てくる内発的動機はやはり大事にしてあげないと、最終的に勉強のやる気にもつながらなくなる。逆にいえば子どものやる気の種をつぶさなければ、ゆくゆくはやるべきこととか、求められたことに意欲が伴うようになる。
そして何より大事なのは子どものセルフイメージを高めること。言葉を変えると自己肯定感を高めることだが、万能感のある単なる自信とは違って、褒められたという成功体験や自分でできたという経験などに基づいた根拠のある自信が高まることだ。例えば、子育てで保護者の方に言うのは『SNSで“いいね”をつけている暇があったら子どもに“いいね”をつけよう』と。子どもの心にたくさん丸がついてセルフイメージが高まれば、自然といろいろなものにやる気が向いていく。いま大人で、やりたいことにもやるべきことにも意欲が持てる人は、それは元々は過去自分を育ててくれた人によって育まれてきたことを認識して子どもに関わるべきではないか」
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