将棋の対局といえば、パチンという駒音、頭を悩ませる棋士の息遣いやうなり声、記録係による秒読みの声が、繰り返し響き渡り、それ以外の物音がする方が珍しい。ところがその張り詰めた空気をぶち破るかのように、1匹の黒いヤツの出現によって大騒ぎとなった。若手棋士・石井健太郎六段(28)が思わず「笑いが止まらなくなった」という“事件”とはいかなるものか。
石井六段が、過去の思い出を語ったのは、所司一門である渡辺明名人(棋王、王将、36)と近藤誠也七段(24)と、番組企画で集まった時のことだ。失敗談を披露するシーンで、近藤七段が足を骨折しながらも根性で小学生大会決勝に臨んだというエピソードの後、石井六段が紹介したのは記録係を務めた時の話だった。
「僕、記録を取っていた時にゴキブリが出たことがあるんですよ」
聞いていた近藤七段も即座に「それ、めっちゃ嫌ですね」と反応するのも無理はない。畳の敷かれた和室に、カサカサと歩き回られたら、対局者も将棋どころではないだろう。突然の訪問者に、どう対処したのか。
「立会いの先生がたまたまいる日で(対局室に)入ってきたんですよ。そうしたらチラシを持ち出して、パンってやりだしたんですけど、全然当たらないので逃げちゃったんです」
盤上なら相手玉を何度となく詰ましてきた棋士であっても、生命力抜群の虫を相手にするのは不慣れだったか、幾度となく詰みを逃してしまったようだ。
「それを見ていたら笑いが止まらなくなっちゃって。そうしたら隣の先生が『君、笑い過ぎだよ』って。とりあえず大惨事なんですよ、逃げ回っているから。1匹だけだったんですけどね」
いわゆる“ツボ”に入ってしまった状態か。おそらく一撃が外されるごとに、笑いがこみ上げてしまったのだろう。これを聞いていた渡辺名人は「それ、恥ずかしいね。先輩の棋士がやっつけようと思っているのに、当たらないのをクスクス笑っていたわけでしょ」と指摘したが、笑いは抑えようとするほどに止まらないものだ。
最終的に、その黒いヤツがどうなったのかは明らかになっていないが、どこの対局室でも起こり得ることでもある。ちなみに渡辺名人は、自他ともに認める虫嫌い。タイトルをかけた大勝負の際に、出てこないことを祈りたいものだ。
(ABEMA/将棋チャンネルより)