新聞社による配信も増加するネットの「こたつ記事」をめぐる論争 ライター、メディア、プラットフォームの責任は?
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 取材を一切することなく、こたつに入ったままでも作成できることから、「こたつ記事」と呼ばれるニュース記事。近年、特にテレビ番組やSNS上での著名人の発言を引用して作成した記事が増加、全国紙やスポーツ紙などもウェブ版の記事として盛んに配信するようになっている。

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 その一方、元になった発言の内容に誤りがあったことが判明、記事を訂正・削除するケースも相次いでいる。23日の『ABEMA Prime』では、この「こたつ記事」問題を議論した。

■「テレビ番組として、取り上げられるのはありがたいが…」

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 「こたつ記事」が増える背景について、講談社の元週刊誌編集者で、スマートニュース メディア研究所所長、スローニュース代表を務める瀬尾傑氏は「ネットのメディアの多くは、記事ページに掲載された広告からの収益でビジネスを成り立たせている。これはテレビの視聴率と同じく、PV(ページビュー)に応じて儲かる仕組みになっているので、読まれれば読まれるほどいいということになる。ところが、この1PVあたりの収益が非常に低いため、本気で取材をしようとすると、途端に採算が合わなくなる。そこでテレビ番組やSNSからの情報をそのまま引き写した、コストがかからない記事を増やしているということだ」と説明する。

 こうした記事の対象になるのは『ABEMA』の番組も例外ではない。当サイト『ABEMA TIMES』では、自社サービスとして制作スタッフの監修のもと記事を作成している。また、先月19日に「フェイクポルノ問題」を扱った際には、EXITが「自分たちらしき人物が愛し合っている漫画がある」と発言したことを東京スポーツが引用、「EXITが"フェイクポルノ"の被害に遭っていた!」とするウェブ記事を配信するなどしている。

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 テレビ朝日アナウンサーの平石直之アナは「おかしな切り取られ方をされるのは困るが、番組としてメディアに取り上げられること自体はありがたいと思っている」、お笑い芸人のパックンは「小さなライブ会場での、お金を払って聞いている人たちに向けた発言と、公共の電波に乗った発言とでは、引用の基準は違って当然だ。後者を記事にするのは問題ないと思う」と話す。

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 しかし、度々こたつ記事の対象になってきた作家の乙武洋匡氏は「例えば僕も出ている『ワイドナショー』の場合、松本人志さんの発言がネットで度々炎上するし、『オールナイトニッポン』での岡村隆史さんの発言がネットで炎上した。いずれも背景に、こたつ記事によって本来の視聴者やリスナーではなかった人のところにまで発言が引っ張り出されたことがあると思う。こういうことが重なることで“マイルドな言葉にしておこう”と思う著名人が増え、発言に個性が失われていってしまうとしたら、それは社会にとってマイナスではないか」と指摘。

 さらにスポーツライターをしていた経験から、「今の時代、どこで仕事しようが構わないわけで、こたつに入りながらだって取材できることもある。その意味では、こたつに失礼だ。むしろ“オウム返し”で書かれた記事なので、“オウム記事”と呼んではどうか。また、ライター経験者として言わせてもらえれば、書いている人が記事に名前を出していない、そのことがまさにこの問題を象徴していると思う」と厳しく批判した。

■プロのライターは「こたつ記事」に何を思う?

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 では、実際にこたつ記事を執筆しているライターはどう考えているのだろうか。空き時間に芸能関係のこたつ記事の仕事を請け負っているというフリーライターの広尾氏は、「はっきり言って“バイト感覚”だ。買い切りだし、仮にバズったとしても嬉しくはないので、熱量を込めて書くことはない」と話す。

 「主婦の方など、経験のないアマチュアが内職としてやっていることが多く、文章力や引用の仕方などで記事の質に差が出る。そのためか、とにかく“大反響”や“大炎上”といったフレーズをタイトルに使うといい、といった指示が来ることもある」。

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 それでも「ライターとして、自分なりに最低限の配慮はしている」と強調する。「こたつ記事にも種類がある。SNSの発言をただ引用するタイプ、他のメディアの記事の引用をしつつ、“調べてみたが何も分からなかった”等とオチをつけるタイプ。自分としては扇動やフェイクにだけは加担したくないので、炎上案件について一方的な意見だけを取り上げて憎悪を煽るようなタイプ、事実と異なることを書くタイプの記事は請け負わないようにしている」。

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 こうした風潮に対し、ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏は「週刊誌の編集長が一日中考えたりすることもあるくらい、記事のタイトルは大事だ。ライターにとっても、こたつ記事に関わることがいい意味で訓練になる部分もあるだろう。実際、中には文章が上手いと感じるものもあるし、いずれは有名な書き手が出てくるのかもしれない。それでも、ライターという仕事に必要なモラルを棄てて良いわけではない」と話し、“WEBライター界”に対して次のように苦言を呈する。

 「僕のように海外まで取材に行って原稿を書くようなライターは、はっきり言って割に合わない職業だ。それでも色んな所に営業をかけたりして、なんとかペイして暮らしているわけだし、そういう仕事の中から本当の“勝負”が生まれてくると思っている。その点で言えば、ライターという仕事は本来ものすごく大変で、片手間でできるようなものではない。だからこそ、こういう話が出てくる度にガッカリするし、自分の体で突っ込んでいかないような人にライターと名乗ってほしくはない」。

■配信するメディア、プラットフォームの責任は?

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 加えて丸山氏は「瀬尾さんの古巣の『週刊現代』を読んでみると、最近は健康、延命、みたいな特集ばかりではないか。天下の講談社ですら、読者のニーズに合わせていくというやり方になっているのだと思う。ただ、確かに気骨のある記者が書いた記事も入っているのが紙の雑誌でもある。数十本の記事がパッケージになっている紙の雑誌の場合、素晴らしい一本が目当てに買うことだってある。だからこそ、その一本に予算を集中投下させるために、10本中9本をこたつ記事にする必要があるのかもしれないし、それが間違っているとも思わない。それでも、どうしても読者に委ねてしまう部分を改善できないだろうか。一記事ごとのPVだけでなく、質で記事やメディアを評価するシステムができないものだろうか」と投げかけた。

 すると瀬尾氏は「取材をしていない記事が全て悪いわけではない。例えばエッセイやコラムは、それで成立している記事だ。問題は、フェイクやヘイト、名誉毀損、あるいは著作権侵害などが含まれている記事だ。その場合、依頼し、掲載したメディアにも責任はあるが、一義的には執筆したライターが責任を問われることになる。そこを軽く見て努力をせず、間違えても謝ればいい、儲かればいい思っている人たちが多いと思う」との見方を示す。

 「やはり信頼性の低い記事では儲からないような仕組みを作ることが必要だし、読者がメディアを選ぶ目を養うことが大事だと思う。リテラシーという言い方をされるが、掲載されている記事と同じくらい、広告も大切だ。下品な広告が多いメディアは信用できないと感じられるよう、読者のレベルが上がっていくことも大事だと思う。そうなれば、いい記事を載せているメディアに出る広告の単価が上がり、いい記事を書いているライターにもちゃんと原稿料が入ってくる理想的な状態になると思う。テレビの視聴率主義の問題と同様、いい記事を作ろうというメディアの責任、覚悟が問われる」。

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 さらに乙武氏は「例えばスマートニュースも、そのような問題のある記事を配信してくるメディアは一定期間載せないなど、もっと踏み込んだ措置を講じてもいいのではないか。トップの方々が高尚なことを訴えている会社だからこそ、悪質な記事の撲滅にも取り組んで欲しい」と、記事の拡散につながっているプラットフォームの責任にも言及した。

 これに対し瀬尾氏は「ニュースアプリなどの中には、そういうものを排除するための仕組みが入っている。スマートニュースにも、そのためのアルゴリズムがある。ただ、一律に排除することには危険も伴う。例えば週刊誌の中には、不倫などの芸能スキャンダル、わいせつなもの、“これどうなの?セクハラじゃないの?”というような記事もある。その一方で、政権をえぐるような、ものすごい調査報道の記事もある。やはり言論の自由、多様性とのせめぎあいの中で選別していくべきものだ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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