「可能性にふたをしないで」 発達障がいの子どもたちへの取り組み、“ミスター川崎”中村憲剛選手が語る思い
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 今年、Jリーグ史上最短での優勝を決めた川崎フロンターレ。実はクラブが去年から続けている、子どもたちのための“ある取り組み”がある。『ABEMAヒルズ』は今回、その取り組みへの思いを、川崎一筋18年、今期限りで引退する中村憲剛選手に聞いた。

【映像】“ミスター川崎”中村憲剛選手が語る思い

 「龍剛、桂奈、里衣那、本当にありがとう。パパは3人がいたからここまで頑張ることができました。3人にこの景色を見せられて、父親として本当に誇りに思います」

 21日に川崎市・等々力陸上競技場で行われた、中村選手の引退セレモニー。“ミスター川崎”の言葉に日本中が心を打たれた。

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 1万3000人のサポーターが見つめたセレモニーから2日後、中村選手が番組に現在の心境を語ってくれた。

 「本当に感謝しかないですよね。そういう気持ちしか湧いてこない。本当に心が震える会でした。『自分1人にこんなにやってくれる』のと今でも思っています」

 残りの試合、最後はどんな姿を見せたいと思っているのか。

 「随分前から引退するのは決めていましたし、決めてからここまで本当に一日一日、目の前のことを全力でやってきたので、試合で点を取ってやろうとか、アシストしている姿を最後に見せてやろうっていう気持ちは正直、前面には出ていなくて、いつも通りチームの勝利のために自分の力を全力で出したいなと。とにかく優勝目指してやるだけだと思います。すみません、面白くなくて(笑)」

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 気になる引退後については。

 「やっぱり育成のところ。子どもたちには自分のここまでやってきたものが生かせる。もちろんトップでも生かせるとは思うんですけど、やっぱり育成をみたいっていうのもあるんですよね」

 子どもたちの育成に意欲を見せた中村選手。中村選手をはじめ、川崎フロンターレが子どもたちへの思いを形にしたある取り組みがある。「誰もがサッカーを楽しめる環境を」を目指し、11月に川崎フロンターレが開いたのは、発達障がいを抱える子どもたちのためのサッカー教室。初めは緊張気味だった子どもたちも自然と笑顔がこぼれる。

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 指導するのは事前に研修を受けたコーチ。子どもたちは徐々にサッカーボールにも慣れ、ミニゲームも楽しんだ。参加者の親は「広いところで何も気にするものがなくできて、本人も楽しかったと思います。サッカーにはすごく興味があったんですけど、皆さんにご迷惑をかけてしまうかなとか、たくさんの人や光とか刺激が多いのでなかなか集中できないこともあって」と話す。

 発達障がいには、光や音、肌触りなどの感覚が非常に敏感な「感覚過敏」の特性をもつ子どももいるため、このサッカー教室ではマスク着用の義務はない。さらに、この日はスタジアム貸し切り。普段入ることができない競技場内部の案内も実施された。選手が試合の前に練習する室内練習場に、選手が実際に使っているロッカールーム、テレビでよく見る会見場も。

 そして、サッカー教室の最後には光や音が配慮されたセンサリールームと呼ばれる部屋で、大分で行われたフロンターレの試合観戦が待っていた。試合前には、選手とのリモート対話や会場にいるサポーターからのサプライズ中継も。横断幕には「かわさきからいっしょにおうえんしてね」というメッセージもあった。サポーターもともに、この活動に取り組んでいるのだ。

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 フロンターレがこうした活動を始めたのは去年。スタジアムでの試合観戦、その翌日にはスターティングメンバー全員が参加し、サッカー教室を楽しんだ。中村憲剛選手は「感覚過敏」についての理解が広がればと、VR体験できる再現映像にも出演している。

 コロナの影響で多くのイベントが中止となる中、川崎市や企業も協力して実現した今年のサッカー教室。子どもたちが画面をタッチして入力しているのは、富士通が提供するアプリ「きもち日記」。発達障がいのある子どもたちでも簡単な指差しで日記にすることができる。

 他にも、子どもたちが興奮した時にも落ち着けるよう、「スヌーズレン」と呼ばれるスペースも設置された。参加した子どもたちの保護者は「発達障がいに対してすごくしっかり調べてくださっていて、やるなら“支援する人たちが中心に”というフロンターレの思いがすごく感じられるので、皆さんの気配りに本当に感動を覚えることが多かったです」「こんな大きなクラブが“こんな子もいるんだ”と発信してくださって、少しでもたくさんの方が知っていただけるということはすごくありがたいなと思います」と話す。

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 川崎フロンターレ事業推進部の三浦拓真さんは「今年はこういった年だったので、実際にどう開催しようか、そもそも開催するかどうかって非常に悩ましいところではあったんですけど、クラブとして大切な活動として工夫しながら今日を迎えられて、子どもたち本当に非常に笑顔が多くて、やるという決断をして工夫してやってよかったなと思っています」とコロナ禍での開催に葛藤があったことを明かした。

 しかし、「サッカーというツールを使って多くの人に楽しんでもらいたい」。その思いは、今年Jリーグ史上最速で優勝を決め、子どもたちに夢を与えた選手たちも同じだ。21日、選手がサインをしていたのは、子どもたちがサッカー教室で入力した「きもち日記」。好きな選手の名前を聞くと「けんご(中村選手)」との声が返ってくる。

 中村選手は今回、単独インタビューで活動への思いを語ってくれた。

 「ハンディキャップがあるから観に来れないとか、そういう垣根をなくそうという取り組みを今回させてもらったんですけど、僕自身も本当にそう思っている。みんなに権利はあるわけだから、それを端から『ダメだよね』ではなくて、どうやって観れるように持っていくか。Jリーグや企業の皆さんとみんなで力を合わせた結果、それができたことが大きな一歩だと思ったので、やっぱりやってみるもんだなというのは中にいた人間として感じました。(去年は)ここで一緒にボールを蹴ったんですけど、(子どもは)やっぱり楽しそうでしたし、『本当に来れてよかった』という感想ももらって。保護者の方からもいただいたんですけど、やっぱりやるもんだなって思いました」

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 ハンディキャップを持つ子どもたちへの思いについてこう明かす中村選手。感覚過敏のVR映像にも出演し、知ってもらうことが大事だと話す。

 「(感覚過敏の再現VRを)体験させてもらったんですけど、多分実際になってみないとわからない。僕らがつけただけでもすごく大変だったので、あれが普段起きているというのは本当に大変だなと思いました。それを理解しなきゃいけないし、いろいろな人に伝えたいところもあります。クラブとか企業がコラボレーションして、そういう子たちを招待して観られるようにしてるということを知ってもらうことが大事。知らなかったらみんな動けないし、こういうふうに世に出ることで『そうなんだ』となり、また横のつながりも出てくるから。みんなでやっていきたい、みんなで取り組むべきことだと思います」

 今年はコロナの影響などで一緒にボールを蹴ることは叶わなかったが、サッカーの持つ力を感じているという。

 「もう全然、普通にやれるんですよ。僕は気にしなかったし、子どもたちから『ちょっとこれは』ということがあれば動きますけど、それ以外は普通に対応すればいいだけだから。気を遣われるのは子どもたちも嫌だろうし、もちろんラインはありますけど、普段通り接してくれた方が絶対楽しいと思う。その線引きは、初めて会った時は難しかったですよ。ああいう中でサッカーをやるってどういう感じなのかはわからなかったけど、ボールを蹴りだしたらすぐ仲良くなっちゃいますから。サッカーってすごいですよ。力あると思います」

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 コロナ禍の状況にあっても、中村選手は前向きだ。

 「今までやれてきたことができなくなってきているので、こういう状況下だからこそ工夫して、なんとか別の形で子どもたちの思い出に残るというか、子どもたちが『やっぱサッカーっていいな』と思えるような形にしていければいいかなって。そこは協力したいところはありますし、やっぱり子どもが宝、一番大事ですから。そこは大人が知恵を絞れればいいかなと」

 そして最後に、夢を追う子どもたちにクリスマスメッセージを送ってくれた。

 「『可能性にふたをしない』。みんなそれぞれに可能性はあって、それに自分からふたをするというか、つぶさないでほしい。自分がこうこうだからできないとかではなくて、今は難しいかもしれないけど、将来できるために何をすべきかという風に頭の発想を変えてほしい。自分で可能性を閉じたらもう進まないですよ。周りがいくらたきつけても、自分ができないと思ったらできないから。少なくとも自分は、自分の可能性を信じて日々努力してほしいなと思います」

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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