「僕のことも見ていてくれたのかな」亡き先輩に捧げた魂のゴール
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 フットサル選手、岡村康平のゴールは、言葉で形容できない、何か見えない力が働いたような気がした。

 出場時間は、主力より圧倒的に少ない。何試合もメンバー外になった。ゴール前でプレーする選手でありながら、シーズンは折り返したにもかかわらず13試合で得点ゼロ。文字通り、苦しい日々を過ごしてきた。

 それでも、長くお世話になった先輩の訃報を知った翌日のピッチで不甲斐ないプレーをするわけにはいかない。味方のこぼれ球に反応して、倒れ込みながら放ったアクロバティックなボレーシュートには魂が込められていた。

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 今シーズンようやく生まれた初ゴール。久光重貴さんに捧げる一撃だった。

 久光さんは、7年以上もの間、がんと向き合い、闘病を続けながらピッチに立ってきた選手。入退院を繰り返しながらも、トレーニングで体を戻し、トップレベルで戦うコンディションに仕上げ、毎シーズン、必ずプレーしていた。久光さんが所属した湘南ベルマーレは、彼と共に、戦い続けてきた。そう、あの時も──。

 12月19日、湘南は、リーグ王者・名古屋オーシャンズとホーム・小田原アリーナで戦っていた。

 一時、1-3とリードされながらも、闘志むき出しの戦いで4-3と逆転に成功。終盤には、名古屋の猛攻を浴び続けたものの、全員が体を張ったディフェンスでゴールを守り抜き、劇的な勝利を収めた。

 ちょうどその前後の時間に、久光さんは逝去された。

「久光選手の力にもなるんだろうなって、すごく感慨深いゲームとなりました」

 解説・北原亘さんは、試合の最後にそう伝えた。その後、選手に訃報が伝えられ、翌日には、FリーグとJリーグの湘南ベルマーレの両チームが、公式HPを通して久光重貴さんが亡くなったことを発表した。

 あの試合はまるで、久光さんの闘志がピッチに宿っているようだった。共に戦っていたようにさえ感じる。

 それは、かつて共にプレーした仲間にとっても同じだった。

 数年前まで、湘南の選手として戦っていたフウガドールすみだの岡村康平は、20日、ボルクバレット北九州との試合前に仲間と共にロッカールームで黙祷を行い、ピッチに立った。世間にはまだ、久光さんの訃報が公表されていないタイミングで、ピッチに立つことになった。岡村はいつも、“ヒサさん”に背中を押されてきた選手だった。

 1点ビハインドで迎えた第2ピリオド(後半)23分、岡村らしい、泥臭い初ゴールが生まれた。

 試合後に彼は、「信じていたらボールが来ました!祈ってました」「今日は僕のことも見ていてくれたのかな。今日は本当にありがとうございます!絶対に忘れない!」とSNSで想いを綴った。

 元フットサル日本代表の稲葉洸太郎さんがナビゲーターを務める『アベマFリーグダイジェスト』では、週間トップ5ゴールと、スーパープレーとは別に、「特別ゴール」として、岡村の魂の一撃を紹介した。

 「前日の湘南ベルマーレの勝利もそうですけど、今シーズン苦しんでいる岡村選手を後押しするような、久光選手のメッセージが入っているような感じがしました」

 稲葉さんもそう伝えたように、久光さんの魂が選手たちの背中を押してくれていたのかもしれない。存命中、何度も何度もそうしてくれていたように、久光さんは、最後まで仲間を鼓舞してくれている。

 偉大な先輩へと捧げた魂のゴール。岡村はこの先も久光さんの想いを背負ってプレーするだろう。

文/舞野隼大(SAL編集部)

写真/本田好伸

【映像】亡き先輩に捧げた魂のゴール
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