精神障害の妹を持つ女性が、恋人と結婚するまでの苦悩や葛藤を描いた映画『ふたり~あなたという光~』(今月公開)。女性にプロポーズしたことを機に妹の障害について告げられ困惑する男性。意を決し母親に相談すると、「ご両親が亡くなった後、誰がその子の面倒を見るの?」と強く反対される場面などが盛り込まれている。
・【映像】『ふたり~あなたという光~』の予告、"きょうだい児"の当事者たちの証言
■「自分からは積極的に踏み込めない」結婚・出産を躊躇する女性も
障害者本人や保護者に対する様々な支援がある一方、この作品の主人公のような障害のある兄弟・姉妹がいる人たちー「きょうだい児」と呼ばれるーは、家庭、そして社会からの疎外感を抱えがちだ。
「弟を養っていくことになるかもしれない、と考えながら生きてきた。だから誰かに頼るとか、甘えるとか、本音を打ち明けるといったことができなくて」(自閉症・知的障害の弟がいる女性)、「結婚となった時に別れてしまうことが何度かあった。兄に関しては自分でもしんどいと思うことがあるので、相手にも背負わせてしまうのかと考えると、一歩を踏み出す覚悟がなかった」(アルコール依存症、精神障害を持つ兄がいる女性)中には「自分からは積極的に踏み込めない」(発達障害の弟がいる女性)と、母になる自信がないと明かす女性もいる。
■志望の学部を諦め医療・福祉の道へ「親が亡くなった後のことを考えると…」
ヤマトさん(仮名、27)には、統合失調症を抱え、グループホームで暮らす3つ年上の姉がいる。大学進学にあたっては、家庭の状況を踏まえ、志望していた工学部を諦め医療・福祉の道へと進んだ。「姉のこともあるし、現実的な資格につながればと。結局、自分のことが後回しになっちゃうというか、素直に、自分らしく生きるということに罪悪感を感じてしまう」。
結婚を考えている相手は「一緒に考えよう」と言ってくれているというが、親亡き後の生活の不安が頭をよぎる。「親の介護が必要になったとしたら、同時に面倒を見ることになる。“Wケア”と呼ばれるこの状態に陥ったら、相手に迷惑がかかるのではないかと。あるいは親が亡くなった後のことを考えると、最終的には僕に責任が来るんじゃないかって。家族だけで抱え込まず、様々な支援や地域の人につながりたいという思いがある」。
■「結婚するなら子どもができないよう手術をしなさい」相手の親が猛反対
「小さい頃に偏見の目を向けられたような記憶はないが、社会に出て人生をどう生きていくか、どういうものを背負っていくかという選択をする時に、きょうだい児であることを実感するようになった」。そう話すのは、堀田弘明さん(31)だ。自閉症の兄がおり、進学先の大学や大学院選びでは地元を選んだほうがいいのではないかというプレッシャーも感じたという。
3年前に婚活サービスで出会った女性と婚約した堀田さん。相手は家庭の事情を受け入れ、兄にも会ってくれたものの、その家族の無理解に苦しんだ。「彼女の母親と3人で食事会をしようとしたが、障害のことを聞いてドタキャンされた。彼女の母親はショックを受けて、子どもに遺伝するんじゃないかと強く懸念していたらしい。それを聞いて、何も言えなかった」。
女性は説得を試みてくれたが、「結婚するなら、子どもができないよう手術をしなさい」といった言葉を投げかけられ疲弊。最後は堀田さんの方から別れを切り出したという。「兄が一生グループホームに入居していられるかどうかはわからない。今は母が要介護状態で、私が介護しながら働いている状態だ。それでも、運命だから仕方ないのかなという開き直りで生きている」。
■「横のつながりがあるということすらも知られていない」
きょうだい児支援のためのウェブサイト「Sibkoto」を運営する藤木和子弁護士は「地元に残って欲しい、あるいは医療・福祉関係や特別支援学校の先生などの職業に就くのがいいのではないかと周囲に期待され、悩んでしまうことは“あるある”だ。結婚相手の親御さんが遺伝を心配して反対したというケースも聞く。堀田さんのようにお別れしてしまった人や2人だけで式を挙げたという人もいる」とコメント。
自身も聴覚障害のある弟がいることから、「弟の耳が聞こえないことが分かると、“聞こえるお姉ちゃん”と言われるようになった。弁護士の父からは、長男である代わりに私が後継者になるよう期待を受けた。反発を受けながらも、期待を裏切れなくて弁護士になった。“弟の分も頑張って”と言われるのはプレッシャーだったが、“頑張らなきゃ”とも思った。でも、おかしいとも思っていた。誰かに“人は自分の分しか頑張れないんだよ”ということを言って欲しかった。そういう疑問から、きょうだいの会の門を叩き、共感してくれる人にも出会えた」と振り返る。
「障害者の方に対する行政の支援には様々なものがあるが、きょうだい児に対する支援というのはまだあまりない。私自身、きょうだい児の先輩に結婚についての悩みなどを相談しまくっていた。しかし、そういう横のつながりがあるということすら知られていない状況がある」。
■カンニング竹山「日本の障害者教育は変わらなければ」
ジャーナリストの堀潤氏は「このようにして、きょうだい児の方が社会に向けて発信するのはとても難しいことだ」とした上で、「きょうだい児の会『SHAMS』の滝島真優代表は、“障害のあるきょうだいのお姉さん、お兄さん”という風に見られることが辛く、“あなたはあなただよ”と初めて言ってもらった時に少し肩の荷が下りた”と言っていた。ヨーロッパでは古いところで50年くらい前、アメリカでは20年くらい前から、きょうだい児の皆さんのためのワークショップが開催されている。日本でも2000年代以降、少しずつそういう動きが出てきたと聞いているが、まだまだごく一部なのだと思う」と話す。
障害などに関する情報を扱うバラエティー番組『バリバラ』(Eテレ)に出演しているカンニング竹山は「何年も前から僕に障害のことを教えてくれる師匠は脳性麻痺だ。障害者支援に携わってきたその師匠を通じて、僕にも障害者の友達ができた。彼らにも人権があるので、堀田さんが結婚を拒否された話を聞いてとてもモヤモヤした」とコメント。
その上で、「日本の障害者教育は、手を差し伸べなければならない、愛は救う、といった間違った部分があったと思う。だからこそ、我々にも距離感があるし、“障害のある妹がいるから結婚させません”なんてバカなことを言う人間も出てくる。そうではなく、小さいうちから障害のある子とない子が一緒に遊んだり、生活をしたりすることが必要だ。そういう中で、障害にも様々なものがあると世の中が知っていく。そして障害者も、できることは自分でやる。いくら障害があったとしても独立して生きる、ということも考えなければならないはずだ。障害者は世話しなければならない、障害者がきょうだいにいたら結婚できない、そんな世の中はおかしい。家族はそう思うかもしれないが、周りがみんなそんな風に思ってはダメだ」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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