47歳にして“爆腕”健在だ。1月23日のKrush後楽園ホール大会に、大ベテラン・大月晴明が出場した。Krushの前身である全日本キックボクシング連盟の時代からトップ選手として活躍してきた大月。Krushでもベルトを巻いたが、ここ数年は他団体で試合を行なってきた。Krush参戦は実に6年ぶりとなる。
若い選手との試合で黒星を喫することも増えてきた。40代後半になってのKrush参戦は現役最後のチャレンジであり、またラストチャンスでもある。ここで生き残らなければ、というシビアな状況だ。
対戦したのはK-1、Krushの最前線で闘ってきた明戸仁志。大月の現時点での実力が査定される、やはりシビアな相手と言っていい。そんなリングに上がった大月は全日本キック時代と同じコスチュームだった。試合後に話を聞くと「そういうとこはまったく気にしてなくて」と笑う。
ファイトスタイルも変わらず個性たっぷりだ。合気道を取り入れた足さばき、広いスタンス。左右にスイッチしながら片方の手だけを突き出す独特の構えも。
そこから繰り出すパンチで、大月は1ラウンドからダウンを奪う。中盤以降は動きが落ち、明戸のパンチを食らう場面も。それでも蹴りを巧みに使いながら右のフックを抜群のタイミングでヒットさせ、3ラウンド2度目のダウンでKOとなった。
確かに歳は取った。まったく衰えていないとは言えないだろう。それでも“爆腕”と呼ばれる豪快なパンチは生きていた。3ラウンドには「打ってこい」と自分のアゴを叩いて挑発するシーンもあった。
「昭和40年代生まれでも、練習してやる気さえあれば若いヤツにも絶対負けない。おっちゃんが頑張れるように、夢を与えていきたい」
リング上でそう語った大月は、試合ぶりについてインタビュースペースで「悪い癖が出てブチギレちゃいましたね」と苦笑。さらに単独インタビューでも“47歳の大月晴明”について率直な言葉を聞かせてくれた。
「リングの上では命を懸けてやりますけど、仕事をしてるし家庭もありますから。若い選手とはちょっと感覚が違うかもしれない。勝っても負けてもスッキリしたかったんですけど、勝ててよかった。やっぱりKrushの雰囲気は好きですね。全日本キックの流れですもんね」
このリングに戻ってきた理由は「リングで手合わせしたい相手がいる」からだ。その試合を実現させるには勝ち続けるしかない。
「最近は目標がなくてダラダラやってたんですけど、最後は好きな選手とやりたいです。階級が違うんでどうかなぁ……でも勝っていけば。そうじゃないと名前を出す資格もないですし。その選手とやって、結果、倒されてもいい」
いくつものチャンピオンベルトを巻き、さまざまな団体のトップと拳を交え、最後に望むのは完全燃焼だ。そのためにも「打撃の極意」を掴みたいとも語った。
「もっとスカッと一撃で倒したい。それも今の半分くらいの力で」
今回の試合でも負傷しており、若い選手のような無理はできない。だが年齢を重ねたからこそ“極意”に近づいているという感覚もある。
「やりたい選手とやって、倒されてもいいとは思ってますけどしょぼい倒れ方をするつもりはないです。やるだけのことはやります。で、見た人に“あぁ、大月っていう選手がいたよなぁ”って覚えててもらえたらいいなって(笑)」
10代で活躍する選手も珍しくないKrushだからこそ、ベテランならではの存在感も際立つ。彼にしかできないキャリアのラストスパートを、しっかり見届けさせてもらおう。
文/橋本宗洋