MMAの老舗であり、佐山聡が創始した修斗は、長い歴史を誇るだけにそこに愛着と誇りを持つ選手も多い。
世界バンタム級王者の岡田遼もその一人。これまで数々のチャンピオンを輩出してきたパラエストラ千葉ネットワークの選手だ。マイクアピールでの決め台詞は「修斗を愛してるから」。
3月20日の後楽園ホール大会、岡田は初防衛戦で大塚隆史と対戦した。大塚は元DEEP王者。つまりは“外敵”“侵略者”だ。「修斗愛」を語る岡田に、大塚は「修斗、修斗うるせえな」。立場も考え方もまったく違うからこそ緊張感のあるマッチメイクだった。岡田にとっては絶対に負けたくないタイプの選手だとも言える。修斗愛のない選手に修斗のベルトを渡すわけにはいかない。
前回、修斗初戦をカーフキックで勝利した大塚に対し、岡田もローキックを蹴っていく。過去の試合映像から、大塚はローキックのディフェンスが甘いと分析したのだ。これが見事にはまった。
構えを左右にスイッチしながらローキック、さらにパンチ。このスイッチも理屈、基準があってのことだというが、その内容については「企業秘密」。岡田のファイトスタイル、その根幹にかかわる部分ということだろう。
レスリングの強さで知られる大塚に対して、テイクダウンディフェンスもほぼ完ぺき。腰を落とし、しっかりと構える姿が印象的だった。5分5ラウンドを闘い抜くペース配分もテーマだったという。
緻密に、丁寧に、隙を見せずに大塚を攻略した岡田。終盤には自分から組みにいき、テイクダウンにも成功した、判定は3-0。50-45とすべてのラウンドで岡田を支持したジャッジもいた。
「修斗を愛している岡田遼とやって一番盛り上がるのは修斗を愛してない強いヤツ。大塚選手は最高の挑戦者でした。他の大会でやったら俺が負けるかもしれない。でも修斗では何回やっても俺が勝つ。なぜなら、誰よりも俺のほうが修斗を愛してるから」
観客にそうアピールした岡田。インタビュースペースでは、プロデビュー10年になる来年で現役から離れる考えも明らかにした。まだジムの鶴屋浩代表と話したわけではないから本決まりではない。それでも頭の中に「区切り」があるのは確かだ。
「あまり体が強いほうじゃないので。1試合のダメージも凄いんですよ。この先の人生もあるので、ある程度のところで区切りをつけなきゃいけない」
さらに岡田は、こう言うと涙も見せた。
「とにかくこのベルトを獲って、防衛することが目標だったので。やり残したことはないんです……」
岡田の今後がどうなるかは分からない。ただ、その言葉と涙そのままの思いがこもった試合を、大塚戦での彼が見せたことは間違いない。
文/橋本宗洋