一番驚いたのは、実況席にいた本人だったろう。プロ将棋界唯一の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」の大会に先立ち行われたドラフト会議の模様が3月27日に放送された。“現役最強”とも呼ばれる渡辺明名人(棋王、王将、36)は、1巡目に前回と同じく同門の近藤誠也七段(24)を単独指名。2大会連続で所司一門のチームが生まれるかと思われたが、2巡目には会議を実況していた戸辺誠七段(34)を指名。会議後には「1回出てみたいと言っていたから」と、売り込みがあったことも明かした。
最強にしてエンターテイナーの渡辺名人だからこそ、一工夫入れたかった。「1人目はやっぱりポイントゲッターが欲しいので近藤くんでした。競合覚悟だったんですけどね。2巡目でいろいろ迷っていたんですけど、他のチームを見たら結構(前回と)変えてきたんで、同じにしちゃうのもアレかなと」と、会議の模様をスポーツ中継ばりに伝えていた戸部七段の名前を紙に書いた。
集まった報道陣を笑わせたのは、この後だ。「(戸部七段が)1回は出てみたいと言っていたんですよ。本人には指名するともしないとも言っていなかった。1巡目に近藤君が取れていなかったら、指名していないですね」とぶっちゃけた。とはいえ、お願いされただけでチームに招き入れるわけではない。「チームで動画を録ったりするし、近藤君とも仲がいい。そういうところも含めて、実益兼ねたメンバーになっています」と、鋭い振り飛車だけでなく、チームワークを高めるムードメーカーとしての役割も求めた。
前回は決勝まで進んだものの、優勝候補だった永瀬拓矢王座(28)、藤井聡太王位・棋聖(18)、増田康宏六段(23)のチームに敗れ、準優勝に終わった。今回は絶対的に優勝候補が不在。どのチームにもチャンスがある。熱い対局から、爆笑のパフォーマンスまで、この大会を存分に楽しみ尽くす渡辺名人が、今年も思いっきり暴れまくる。
◆第4回ABEMAトーナメント 前回までは「AbemaTVトーナメント」として開催。第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦になった。チームはドラフト会議により決定。リーダー棋士が2人ずつ順番に指名、重複した場合はくじ引きで決定する。第3回は12チームが参加し永瀬拓矢王座、藤井聡太王位・棋聖、増田康宏六段のチームが優勝、賞金1000万円を獲得した。第4回は全15チームが参加。14チームは前年同様にドラフトで決定。15チーム目はドラフトから漏れた棋士によるトーナメントを開催、上位3人がチームを結成する。対局のルールは持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チーム同士の対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負に変更された。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。