『エヴァンゲリオン』シリーズ作としては、過去の最高の興行収入・観客動員数を記録し続けている『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。テレビシリーズ放送開始から25年半経った今もなお、その人気は衰えることなく、テレビシリーズ放送当時の社会現象を知るファンから、日本におけるアニメの立ち位置が大きく変わった現在から新たに触れたファンまで、様々な思いを持って劇場に足を運んでいる。テレビシリーズ・その劇場版では惣流・アスカ・ラングレー、『新劇場版』シリーズからは式波・アスカ・ラングレーを演じてきた宮村優子は、3月28日に行われた舞台挨拶で、キャスト陣に久々の再会を果たし、積み重なった思いを言葉で交わした。その際の思い、また収録の際にはファンの作品への熱い思いも大きな力になったことについて聞いた。
公開から20日間経過した3月28日。東京・新宿バルト9に、主人公・碇シンジ役の緒方恵美をはじめ、計14人ものキャストがそろった舞台挨拶があった。全国の劇場でも中継され、集大成となる作品に対しての思いは、多くのファンの胸に響いたことだろう。宮村も、壮観な顔触れの大集合に、胸を踊らせた。
宮村優子(以下、宮村) こんなに会えたのは久々というか初めてぐらいじゃないですかね。全然会えてなかったので。私、海外に住んでいたから映画の打ち入りにも行けていなくて。舞台挨拶の会場にはバスで移動したんですけど、みんなそれぞれ言いたいことがあって、すごくいろいろ盛り上がったんです。今回の収録は、自分のパートしか録ってないんです。自分の出ていないシーンは、全く手つかずのまま映画館で観たので。普通、アフレコでそんなことありえないんですけどね。他の作品だと全パート、一緒にやっているから、どういう演技をされているとか、どういう思いでやっているとかを見ながらなんですが。バスは隣が三石琴乃さん、山口由里子さん、前が長沢美樹ちゃんで。ミサトとリツコのシーンで「めっちゃ感動した!」「私もですー!」みたいな話で盛り上がっていましたね。
制作スケジュール、また新型コロナウイルスの影響もあり、キャストがそれぞれ自分の部分だけ収録する「別録り」に。完成後も、なかなか関係者一同が集まる機会を作ることができず、この日がようやく“再会”の場となった。同じ1つの作品に携わりながら、思いを共有することができなかったキャスト陣からすれば、ここで気持ちを伝え合うことでようやく“完結”したのかもしれない。
宮村 『エヴァ』って結構バラバラに録っているんですよね。『:破』のころには、完全にバラバラでした。その前のテレビシリーズはみなさんで録っていたんですけど。私は坂本真綾ちゃん(真希波・マリ・イラストリアス役)と一緒のことが結構多かったですが、シンジくん、レイちゃん、ミサトさんとかとは、ずっと会えていなかったので、本当に会えてうれしかったですね。
別で録るということは、相手の反応が見えないということ。結果を、完成した作品で初めて知ることになる。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』において、シンジとアスカの2人にも、重要なシーンはたくさんあったが、これも別だった。
宮村 1つ、すごくシンジと絡むシーンで、どうしても「シンジがいた方がいいだろうな」と思ったところもあったんですが、一緒にはできなかったんです。それで収録は私の方が先だったんですよね。シンジのセリフを聞いて私ではなくて、私が先だったから、すごくプレッシャーでした。私の声も会えない思いも「緒方さんに届け!シンジに届け!」みたいな気持ちでやってみました。うまく届いたか?どうですかねー(笑)。届いていたらいいなと思うんですけど、アスカが何言ってもシンジには届かないんですよね(笑)。わかっているんですけど、結局シンジはレイちゃんとかじゃないと届かないんですけどね。でも、今回のアスカはすごく優しいんです。シンジくんに対して気遣いをしてあげるところに「優しい!!こんないい子!」と思えるぐらい。そのシーンには、ファンの方々にも気づいてくれていたようです。ファンの方はアスカへの愛が深いから、それだけでもアスカは幸せだなと思いましたね。
これもファンと同じく、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の台本を渡されるまで、宮村の中には『:Q』までの情報しかなかった。完結編で描かれる結末、背景などを知ってから『:破』『:Q』を演じたわけではない。ここで大きな救いとなったのが、ファンの作品に対する熱い思いだった。
宮村 『:Q』であれば、その中でどうなるかの説明はありましたけど、その先にどうなるかの説明は一切なかったですね。それで言えば、なんで「式波」になったのかということだって「そういう戦艦がある」くらいしか聞いていないですし(笑)。なので、今回アスカに起きることも、全て台本で知りました。ただ、『:Q』の段階で私が気づいていなかったことを、みなさんが熱く語り合っているのを見て「そうだったのかー!」というものがありました。だから私はみなさんと一緒の気持ちで観ていたと思うし、楽しんでもいたと思いますよ。
『新劇場版』シリーズの完結編が公開された今もなお、内容について多くの議論が続いている『エヴァンゲリオン』シリーズ。舞台挨拶でも、各キャストからは必ずしも全ては理解できておらず、何度も観ることでより理解が深まっていくものだというコメントが相次いだ。ここから先、繰り返し観賞することで、さらに楽しみも深まっていく。宮村は、キャストの役目を終え、これからはさらにファンの気持ちに寄り添い、『エヴァ』と生きていく。
◆『エヴァンゲリオン」シリーズ作品
1995年にテレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』がスタート。汎用ヒト型決戦兵器・人造人間「エヴァンゲリオン」と、そのパイロットとなる14歳の少年少女、謎の敵生命体「使徒」との闘いを中心に描かれると、その斬新な設定やストーリーから全26話放送後にも社会現象になるほど注目された。1997年には、テレビシリーズとは異なる結末を描いた『劇場版』が公開に。それから10年後、設定・ストーリーをベースに再構築した『新劇場版』シリーズの公開がスタート。2007年に第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、2009年に第2作『:破』、2012年に第3作『:Q』、そして2021年に最新作にして完結編の第4作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
絶賛公開中
総監督:庵野秀明
(C)カラー