妻を「嫁」と呼ぶと批判される時代…ポリティカル・コレクトネスを少ないハレーションで浸透させていくためには?
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 “政治的公平さ”を意味するポリティカル・コレクトネス(“ポリコレ”)。日本においても人種や民族、ジェンダーなどによる差別・偏見を防ぐため、公正・中立な言葉や表現を使おうという機運が高まっている。

・【映像】ポリコレって何だ?美白や肌色、嫁...変わる日本語と表現 社会を前に進める方法

 JALや東京ディズニーリゾートは案内で使われる“Ladies and Gentlemen”という呼びかけを変更、出産・育児雑誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」も、父親の呼称である「主人」や「旦那」を原則として使わない方針を決めた。

 また、大手コンビニチェーンのファミリーマートは先月、新発売の女性用下着の色を「はだいろ」と表記していたことに対し、「人種や個人で肌の色は異なる」との指摘を社員や加盟店から受け、22万枚以上を自主回収。さらに化粧品大手の花王は先月、「“美”とは人種や年齢、性、肌質といった属性によらず、その人ごとに存在するもので人の数だけあるそれぞれの美を尊重したいと考えている。白い肌といった特定の肌のみが美しいといった印象を与えかねない“美白”という表現では、私たちの想いを表すことは難しいと考えた」として、新発売のスキンケア商品を皮切りに、“美白”という表現を使わないことを決定した。

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 こうした流れについて、「ゆうパック」、女性誌「ハルメク」など、30年以上にわたって企業名や商品名などのネーミング開発に携わってきた高橋誠・創造開発研究所代表は「時代の感覚、あるいは現代のセンスをどう持つか。日本だけではない、グローバルの視点を意識しないといけない重要になってきている」と話す。

 元乃木坂46メンバーでプロ雀士の中田花奈は「“美白”という言葉に惹かれて化粧品を買うことも多かったが、今回のニュースを聞いて、今まで人種の問題をあまり意識する機会がなかったことに気がついた」、お笑い芸人のヒコロヒーは「舞台上で挨拶をするとき、“今日はお足元の悪い中、お越しいただいて…”と言っていたが、言い換えた方がいいという意見に納得して、使わないようになった」と話す。

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 その一方、「言葉狩り」「表現の自由は?」など、過剰な自主規制に対しては懸念の声も少なくない。例えばテレビ番組で、ある俳優が妻とのエピソードを話す際、「嫁」という表現を使ったことに対し、Twitter上では論争が巻き起こった。

 『三省堂国語辞典』の編集委員・飯間浩明氏は「“嫁”は西日本では“妻“という意味で使われる言葉なので、もしかすると俳優の方もそういう習慣が身についていたのかもしれない。ただ、全国放送で他の地方の人が聞いた時に嫌だと思われる可能性があるということは考えた方がよかったのかもしれない」と話す。

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 その上で、「“嫁”という漢字が嫌だから“よめ”と呼ばれるのも嫌だというのは、ちょっと誤解があると思う。“嫁”という字は女偏に家と書くことから、よく“女が家に入るという意味なんだ”と言われるが、中国語では“とつぐ”という意味だし、日本語では“よめ”と読む漢字が他にもたくさんある。漢字に罪はないし、日本語とは分けて考えることも必要だ。“姑”に対する“嫁”というのは差別的でもなんでもないし、息子の配偶者のこと“息子のお嫁さん”と言うのはそんなに問題ないのではないか。また、“家内”という表現についても同様で、“家の中にいる”というイメージがちょっと強いために嫌われているが、元々は“家の中のことを先頭に立って取り仕切る責任者”という意味だった。それでも、“元々はこういう意味だったから今でも使っていい”ということではなく、嫌がる人が一定数いるということはきちんと考えないといけない」と指摘した。

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 また、辞書を作る立場から、「やはり利用者が読んでいて嫌な気持ちになることは避けたいし、“ああそうだな”と思ってくれることを大事にしたい。みんなが言葉を気持ちよく使えるためのお手伝いがしたいと思っているので、“少数だからいいのではないか”というような考え方はしたくない」と話す。

 「例えば“女”という項目について、1960年代の辞書では“人のうちで優しく子供を産み育てる人”と説明されていた。つまり“最も典型的な女性というのは、こういう人だろう”という考え方で書かれていたということだ。現在では生物学的な説明に加え、ダイバーシティの観点から、法律に基づいて性別を変えた人も含むと説明している。もちろん体は女性だけれど、心は男性という人もいっぱいいるので、そういうところはもう少し書いていかなければならない」。

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 これに対し、福山市立大学の藤森かよこ名誉教授は、「妻のことをどう呼ぼうと、個人の自由だと思う。私はそんなところにまで口を出すなと言いたい方だ。俳優さんも“照れ隠し“で言ったのかもしれないし、関西の芸能人がよく使う表現なので、“妻”とか“家内”とか“奥さん”と言うよりも、“嫁”と言った方がウケるかなと考えたのかもしれない。もちろん、義理のお父さんやお母さんに苦労なさっている方など、“嫁”と呼ばれて傷つく人はいるかもしれない。しかし、ほとんどの人は聞き流すはずだ」と持論を展開する。

 「もちろん、欧米も含めポリコレによって社会の多様化が進んできたことは間違いない。上の上の方は白人男性が支配して世の中を回し続けるのかもしれないが、一般市民の間では気持ちよく暮らしていきたいし、傷つけ合うのも嫌だ。日本人の中にもその意識が入ってきているので、人が不快に思うことは避けようということになってきた。例えば1970年代の日本映画を見てみると、店員さんや女性の扱いがものすごく雑、乱暴、無神経だったが、今は確実にいい方向に向かっている。俳優さんも、いずれ“嫁という言い方はまずいかな”と学習するはずだ。その過程でハレーションが起きるのは無理もないことだし、世の中が良くなれば、それもだんだん収まってくると思う」。

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 テレビ朝日アナウンサーの平石直之アナウンサーは「差別的な意図も無く家族の中で“嫁”というのはOKだと思う。ただし、公共の場である放送において一番前で矢面に立つ職業としては、“知りませんでした”では許されない。色々な立場の人の気持ち、言葉の背景を常に考え、アップデートし続けなければならない」、お笑い芸人のパックンは「アメリカでも他の国でも“PC(ポリティカル・コレクトネス) police”は嫌われがちだ。でも、言い続ける人がいたおかげで、社会が少しずつ良い方に変わっていったことも確かだと思う。僕が日本で芸能活動を始めた頃に芸人たちが口にしていた言葉で、今は放送禁止用語になっている言葉はたくさんある。それもうるさく注意してきた人たちがいたからだ」と話した。

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 慶應義塾大学の若新雄純・特任准教授は「日本人の多くは、社会に合わせて言葉をアップデートしていくことが下手だと思う。まだ変わっていない企業や人のことを“肌色とは何事だ。嫁とは何事だ”と責めたり、減点したりするのではなく、“肌色”という表現を使わなくなった企業、“妻”という表現がいいと思っているのでそう呼んでいますという人に対して、“変えていけばいいんだ。変えている人ってすばらしいな”とポジティブに歓迎すればいい。次世代を担う子どもたちに広げていくためにも、そういう見せ方をしなければならないと思う」と訴える。

 「例えば制限速度をオーバーしたとき、“知らなかった“といっても警察は見過ごしてはくれない。それは国家権力が警察が取り締まることを認めているからだ。でも“すみません。この表現は良くないということを知りませんでした”という人を取り締まる権限は誰にもない。“PC Police”ではなく、“PC Teacher”になって、“実はこういう表現をした方がいいですよ”と丁寧に教え、なぜそうなのか、どんな配慮をすべきだったのか、納得してもらえるように伝えていければいいと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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