ここは東京・日野市にある集合住宅「多摩トキワソウ団地」。部屋に住んでいるのは、なんと全員“漫画家”だ。
【映像】オシャレすぎない…? 「多摩トキワソウ団地」物件の中を見てみる
元々団地だったこの住宅。今月1日に発表してから、翌日には全29室中28室が埋まったという。建物内にはワーキングスペースがあり、グループで漫画制作も可能。キッチンやランドリー、シャワーブースといった共用設備は専門スタッフが週5日清掃してくれるため、家事の手間も大幅に軽減されている。まさに、漫画を集中して描くために充実した環境が整っている。
まるで、手塚治虫や赤塚不二夫、藤子不二雄など、漫画界の巨匠たちが切磋琢磨しながら若き日々を過ごした伝説のアパート「トキワ荘」のような集合住宅。それにしても、なぜ漫画家に特化した住宅を作ろうと考えたのだろうか。
運営会社のNPO法人・NEWVERYの小崎和隆さんは「漫画家はどうしても一人で仕事に向き合う職業。一人で住んでいると、そこで煮詰まってしまう。多くの人と触れ合ったり、自分たちと違う経験をしている人と出会えることで、自分の煮詰まってしまった考えを解きほぐして、新しい表現に変えていってほしい」と語る。若者を支援するNPO法人・NEWVERYは漫画家の育成も行っていて、家賃も周辺の相場より安く部屋を貸し出しているという。
実際にこの住宅に住む漫画家志望・佐藤さん(23歳)の元へ行くと、担当に出すネームを描いていた。小さい頃から漫画家の夢をもちつつ、会社員として福島で働いていた佐藤さん。しかし、この「トキワソウ団地」の存在を知り、思い切って漫画家を目指すために、5月に上京した。
「今まで一人で漫画を描いてきて、同じ夢に向かって漫画を描いている人と交流したことがなかった。トキワ荘に入っていろいろな人に刺激をもらいたいと思った。(入居してみて)いい刺激になるというか、いい意味で焦るというか。自分が納得いく作品を作って、見てくれた人が心に残る漫画を描きたい」(佐藤さん)
■ 安価な賃料と環境づくりがポイント? 赤松健氏「新人の頃はみんな貧乏」
この多摩トキワソウ団地に『ラブひな』や『魔法先生ネギま!』の原作者である漫画家・赤松健氏は「昔はデジタルじゃなかったから、スクリーントーンがないときに『誰かトーンの51番持ってない?』と聞いて回れたらすごく助かっただろうなと思った」と感想をコメント。一人で漫画を描いていた頃、煮詰まったときは「悶々とするしかなかった」と当時を振り返った。
「ネームやペン入れは、1人でやりたい人もいる。個室が用意されているのは、そういった部分の配慮があるのだろう。新人の頃はみんな貧乏だから、賃料の安さも大切だ。最近はネットで描いている様子を公開して、オープンに活動する漫画家さんも増えている。今後も閉じこもらないオープンな漫画家が増えていくと思う」
今のデジタル画に欠かせない「液晶タブレット」も10~20万円ほどかかるため、漫画家の育成には「資金面と環境づくりの両方が欠かせない」とした赤松氏。「ちばてつや先生が大怪我をしたときは、トキワ荘にいたグループで(漫画を代筆して)仕上げてしまったという伝説もある。このトキワソウ団地から、そういった伝説が今後生まれるかもしれない」と期待を寄せた。
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側