数々の伝説を作り上げたレジェンドが、チームを救う一局に全力を捧げ、そして勝った。プロ将棋界唯一の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」予選Cリーグ第3試合、チーム羽生とチーム木村の対戦が6月5日に放送され、チーム羽生がスコア5-2で勝利した。Cリーグの3チームが同率で並び、チーム羽生は抽選で本戦出場を果たしたが、この状況を作り上げたのが、チームリーダーの羽生善治九段(50)。極限の集中力が必要とされる超早指し戦を3局連続で戦い、しかも3局目は負けた時点で予選敗退が決まる中、敗勢からの逆転勝ち。チームメイトやファンからは「感動しました」「本当にいいものを見た」など、絶賛の声が止まなかった。
絶対に負けられない一局を制した後、思わず頭を横に振った。熱くなるほどフル回転させた頭を落ち着けるためか、昂ぶった気持ちを押さえるためか。最近では公式戦でも見せないような仕草が出るほど、羽生九段が勝負に全身全霊をかけていた。
この試合で羽生九段が登場したのは第5局から。第1局から中村太地七段(33)が3連勝、第4局を佐藤紳哉七段(43)が落とし、スコアは3-1になっていた。第2試合でチーム豊島に2-5で敗れていたチーム羽生。本戦出場の可能性を残すためには5-2以上の勝利が必要だった。「そろそろ私も出ないと。5局目なので」と満を持しての登場となったが、佐々木勇気七段(26)によもやの完敗。スコアも3-2となり、もう1敗もできない局面に追い込まれてしまった。
この大ピンチに、タイトル99期・永世七冠など大記録を作ってきたスーパースターのギアがトップに入った。「続けて出るのは大変申し訳ない」と恐縮しながらも、チームリーダーとしての責務を果たそうと池永天志五段(28)と第6局で対戦。オーソドックスな相矢倉の出だしから着実にリードを奪うと、そのまま寄せ付けない貫禄勝ち。スコア4-2とし、次の第7局に望みをつないだ。
ここまで来たら、最後を締め括るのも羽生九段しかいなかった。「申し訳ありませんが、次も私が行かせていただきます」とさらに恐縮、何度も頭を下げてから向かった第7局の相手は、またも佐々木七段。「団体戦の大勝負なんで初めてなんで、勝手がわからない。最後の気力を振り絞って頑張ります」と盤に向かったが、角換わり腰掛け銀の一局ははっきりと劣勢になった。ただ、ここから諦めないのも長年、第一線で活躍してきたトップ棋士。勝負手を繰り出し、少しずつ形勢を盛り返すと、終盤にはついに逆転。決着の瞬間には、観戦していた中村七段が思わず「感動した!やっぱり羽生先生は違う」と叫ぶと、視聴者からも「これは凄い勝負だった」「やっぱり羽生さんは魅せるわぁ」「顔つきがマジで若い時みたい」と、同じく感動したというコメントが溢れた。
激戦続きの“3連投”を終えた羽生九段は「(第7局は)こちらがはっきり悪いと思っていたんで、ただただ最後まで粘り強く指そうと思っていました。誰がやっても『勝ったら続けてやろう』という話は事前にしていたので、中村さんが最初にいいスタートを切ってくれたので、その勢いに任せたら非常にいい結果につながりました」と、疲労感の中にも安堵の笑みを見せた。
チームメイトのもとに戻ってきた羽生九段に向けて、中村七段は「同じチームで、この場所で、これを生で見られた。将棋の指し手も感動的なものばっかりで恐ろしいものを見ている気がします」と素直な感想を述べた。ただ勝つだけではなく、見ているものの心に刻み込まれる名局を生み出すのが棋士の責務。それをどんな対局でも果たそうとするから、こんなドラマチックな展開を生まれてくる。これだからレジェンド羽生九段の将棋は、いつまでも人々の心を離さない。
◆第4回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名漏れした棋士がトーナメントを実施、上位3人が15チーム目を結成した。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)