逆転のきっかけを与えない将棋の藤井聡太棋聖(王位、18)の会心譜を、ファンは「藤井曲線」と呼んでいる。6月6日に行われたヒューリック杯棋聖戦五番勝負の第1局で、藤井棋聖は“現役最強”とも呼ばれる渡辺明名人(棋王、王将、37)を迎え撃つ一局に臨んだが、互角の序盤を経てから中盤以降はじりじりとリードを広げ続ける一本道。中継していたABEMAの将棋ソフト「SHOGI AI」では、勝率グラフが確実に藤井棋聖の勝利を告げる、緩やかな曲線が描かれた。
最年少でのタイトル防衛に、最年少九段昇段という2つの記録更新に注目が集まるこのシリーズだが、藤井棋聖が直前の対局で珍しく敗戦が2度あったことで、一部では「不調説」も出ていた。5月6日に行われた王座戦挑戦者決定トーナメントでは、ベテラン深浦康市九段(49)に終盤で逆転負け。6月3日の順位戦B級1組では稲葉陽八段(32)に深夜の熱戦になりながらも、終盤のねじり合いで競り負けた。どちらも得意であるはずの終盤で星を落としたことで、勝率8割を超える藤井棋聖にもスランプが訪れたのではと言われ、5日に行われた記者会見でも苦戦続きであることに質問が飛ぶと、「客観的に状態がいいというわけではないんでしょう」とコメントしていた。
ところが、いざ最強の挑戦者・渡辺名人を迎えての対局となれば、またも周囲が謎に包まれるほどの強さが蘇っていた。序盤は渡辺名人の作戦により相掛かりの最新形から進行。研究、対策を練っていなければいきなり敗勢まで持っていかれそうな内容だったが、序盤をうまく対応。超急戦の将棋が中盤から力勝負に入ると、先にリードを奪ってからはそのまま勝率99%まで緩やかな一本道。逆転を危ぶまれるところは一つもないまま押し切った。
双方の強さをよく知る棋士からも、この結果に驚かずにはいられない。ABEMAの中継で解説を務めた飯島栄治八段(41)が「藤井棋聖の指し手が素晴らしい。すごくないですか?」と語れば、広瀬章人八段(34)も「こんな会心譜になるとは思いませんでした。藤井棋聖が渡辺名人の研究を上回ったのか、対応したのか。正確に指したのが藤井棋聖でした」と、その精度に脱帽した。
藤井棋聖にもスランプがなかったわけではない。一時は「手が見えない」と師匠・杉本昌隆八段(52)に相談したこともある。ただし、その後の活躍によりタイトルを2つ獲得、年度MVPの最優秀棋士賞などで多くの将棋ファンが知るところ。1つの負けを大きな成長につなげるところは、この夏に19歳を迎えることになってもまるで変わらず、むしろさらに進化しているようだ。
第2局は18日、兵庫県洲本市の「ホテルニューアワジ」で行われる。将棋界最高クラスの棋士2人による戦いで、藤井棋聖は次にどんな輝きを放つだろうか。
(ABEMA/将棋チャンネルより)


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