「東京都が場所を貸さないことで、IOCが開催できない状態に追い込まれる可能性はある」オリンピックの“開催都市契約”から読み解く今後のシナリオ
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 開会式まで50日を切った東京オリンピック。7日の参院決算委員会で菅総理大臣は「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、世界から選手が安心して参加できるようにするとともに国民の命と健康を守っていく。これが開催の前提であるというふうに考える」と答弁。

 一方、水岡俊一参院議員(立憲)の「総理はやむなく中止をする、という選択肢をとることができるのか」との問いには、「私自身は主催者ではない。これは東京都・組織委員会・JOC・JPC・IOCの中で最終決定をすると思う」と答えた。

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■「開催の判断をするのはIOC。中止する可能性はほとんどないと思う」

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 政府でさえも簡単には中止させられない理由。その一つが、IOC=国際オリンピック委員会とJOC=日本オリンピック委員会、そして東京都の間で結ばれた「開催都市契約」(2013年9月7日締結)にある。「開催・中止の判断はIOCが行う」と明記されており、JOCや東京都、日本政府には決定権が無いからだ。

 ただ、「契約締結日に予見できなかった不当な困難が生じた場合、組織委は合理的な変更を考慮するようIOCに要求できる」(第71条)との条項もある。世界的なコロナ禍は、まさに“予測できない、または不当な困難”ではないのだろうか。スポーツ分野の国際的な契約に詳しい、弁護士で立教大学教授の早川吉尚氏は次のように説明する。

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ものが開催都市契約だ。したがって中止するかどうかを決めるのはIOCだし、現在の動きを見ている限り、中止する可能性はほとんどないと思う。

 また、第71条には続きがあり、“ただし、当該変更が、本大会または IOCの何れに対しても悪影響を与えず、さらに当該変更が、IOCの行使する裁量に委ねられることを条件とする。IOCは、当該変更につき考慮、同意または対応する義務を負わないことが理解され同意されている”となっている。つまり、コロナが理由であったとしても、IOCの意思に反して大会を開けないようにするということは“悪影響”を及ぼすことになってしまうので、この71条に基づいて大会を開かせないよう要求することはできない。

 加えてコロナ禍が不可抗力かどうかというポイントについてだが、開催都市契約には残念ながら“不可抗力条項”が入っていないため、免責を請求することはできない。プロ野球サッカーJリーグ、A代表とU-24の試合、体操の代表戦が行われ、それを国民が楽しんだり、盛り上がったりしている客観的な事実もある。果たしてそれで不可抗力だと言えるのか。そういうことも判断要素になってくる」。

■東京都が場所を貸さないことで、開催できない状態になる可能性はある

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 それでも5月のANN世論調査では、およそ8割が「中止」または「延期したほうが良い」と回答している。早川氏は「契約に違反することにはなるが、場所を貸さないことで、IOCが開催できないような状態に追い込まれると、いうことはあり得ると思う」と指摘する。

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 「会場を貸さないと言われたことで莫大な損害が生じた。当然、貸さないと言ったところに対して賠償金を請求されることになる。その覚悟はすべきだ。ただ、貸さなかった場合に何が起きるのかという客観的な事情についてきちんと理解した上で、東京都民、そしてそのリーダーが選択すべきことだと思う。法律家としては希望的観測だけを語るわけにはいかないが、確かにIOC側が慮って賠償金を請求しないということもあるかもしれない。しかしIOCとしてもたくさんの職員を抱え、テナント料の支払い等もある上に4年に1度しか収益がないということを考えれば、請求はせざるを得ないのではないか。

 賠償額の全体像については分からないが、放送されることを前提にテレビ局からお金をもらっている放映権料は損害賠償になるだろうし、開催されること前提に企業からもらっているスポンサー料も返さなくてはならない。5000億~1兆円になるのではないかという話もあるし、地方公共団体だけで面倒見きれないということになれば、国も何らかの形でサポートせざるを得ない。その意味では決めるべきは東京都でも、国としても関わらざるを得ない部分がある」。

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 スポーツライターとしても活動してきた作家の乙武洋匡氏は「不平等にも思えるような契約を、これまでの開催都市はよく飲んできたなと思った。“東京はこんな目に遭ったんだ”ということを国際社会が見れば、24年のパリ、28年のロス以降、手を挙げる国がなくなってしまうのではないかと思うし、長期的に見ればIOCのリスクになる契約ではないか」と感想を漏らした。

 早川氏は「契約そのものは立候補時点でも公開されているし、リオ大会やロンドン大会で使われてたものと同じフォーマットだ。不平等といえば確かにその通りだが、各都市はそのことも分かった上で手を挙げてきたということだ。一方で、“私たちも私たちも”ということで競技が増え、あまりに巨大なイベントとになってしまったことで、リオデジャネイロのような大都市でさえ十分な開催をするのが難しい状況になってしまった。そういうこともあり、最近では手を挙げる都市も減ってきていて、ロンドンや東京、ロサンゼルス、パリのような都市しか立候補できない状況になっている。ただ、国民や都市の住民が望んでいるかどうかは別として、手を挙げてくるような都市がある限りは、良くも悪くも開催都市が途絶えるということは無いのではないか」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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