トランスジェンダーの建築家・サリー楓が考えるSNSでの誹謗中傷の原因「社会がそう言わせてしまっている」

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▶︎映像:当事者が周りにいない人に観てほしい…「息子のままで、女子になる」映画で伝えるトランスジェンダーの実情

 トランスジェンダーである自身の経験やLGBTの啓蒙をSNSで発信している、建築家のサリー楓(畑島楓)さん。自らを被写体としたドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』が6月19日より全国公開される。ビューティーコンテストへの出場を皮切りに、わだかまりのある父親との対話などを通して、一人の人間として未来に向かって歩むさんの今を見つめる。

 楓さんは約3年前に大手建築会社に就職し、8歳の頃からの夢だった建築業界での仕事に邁進中だ。だが内定が決まった当初、ネット上には「オカマ建築家、誕生」などという誹謗中傷が書き込まれた。楓さんはSNSに書き込まれる誹謗中傷について「ないに越したことはない」とする一方で、怒りや反撃よりもまずは、書き込んだ相手の立場を想像する必要性があると訴える。その理由を尋ねると「満員電車と同じ原理だから」との答えが返ってきた。その真意とは?

心に引っかかった「オカマ建築家、誕生」 なぜ書き込まざるを得なかったのか?

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 自身に浴びせられる顔の見えない心無い言葉に対して楓さんは「誹謗中傷をするということは、少なくともその対象や物事に対して興味を持っているからだと思うんです。応援メッセージも誹謗中傷も、興味があるという根本の部分では実は一緒。興味があるという前提があり、その上で同じ方向を向けるか向けないかだけの違いだと思うんです」と捉えている。

 中でも先に挙げた「オカマ建築家、誕生」という書き込みは、なぜか心に引っかかった。自分が傷つけられた痛み以上に、書き込んだ相手が抱える悲しみをのぞき込んでしまったかのような気持ちになったからだ。「これは私の勝手な想像でしかないのですが、書き込んだ方は私とは違った時代や環境に生きているトランスジェンダー当事者の方なのではないかと思ったんです。私はたまたま時代や環境に恵まれて普通に就活をして普通に夢を叶えることができている。でもその方には、トランスジェンダーであることを理由に夢を諦めざるを得なかった過去があるのかもしれない。そう考えると、単なるネットの誹謗中傷だと切り捨てることはできません。どうして赤の他人である私に対して書き込まざるを得なかったのか?その原因を知ることで共感できる部分もあるのではないか?」と想像する。

 実際にLGBT当事者であることを理由に親からの仕送りをストップされた大学生の話や、カミングアウトしたことで企業から内定を取り消されたという事例を、いまだに耳にすることがあるという。「もちろん誹謗中傷に対して『うるさい!』と言い返したくなる気持ちもあります。でもその書き込んだ人が誰かを責めざるを得ないくらい切羽詰まっていたとしたら?満員電車と同じ原理で、相手は私にぶつかってきているけれど、相手も誰かにぶつかられている。もし私が押し返したら、その人は前と後とで板挟みになる。それではあまりにも可哀想。誹謗中傷は書き込んだ人が言っているのではなく、社会がそう言わせてしまっているという側面もあるはずです」と個人だけの問題ではないと指摘する。

「本当の意味での多様性を論じることはできない」繋がりたい人とだけ繋がるSNS

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 SNSの広がりにより、アナログ時代に比べてLGBT当事者同士での繋がりやコミュニティの形成も容易になった。しかし多様性を論じようとするとき、SNS特有の壁を感じることもあるという。「SNSはテレビや新聞とは違って選択制のメディアです。繋がりたい人とは繋がれるけれど、繋がりたくない人のことは簡単にシャットアウトできてしまう。そうなると同じ意見を持つ人たちとの濃い関係性しか生まれず、そこで賛同されるとまるで世界が自分に賛同してくれているような錯覚に陥ります。多様性とは言葉の通り、様々な人がいて様々な意見があるということ。その中には当然反対意見も含まれます。SNSの世界だけだと、本当の意味での多様性を論じることはできないと思うんです」とジレンマを打ち明ける。

 それだけに今回のドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』には期待をしている。「映画という開かれた媒体なので、色々な方に気軽に観てもらえる。子供からLGBT当事者であることをカミングアウトされても、それに反対する親だったら私のSNSは見ないでしょう。けれども映画だったら目に触れる確率は上がる。作品を通して私を知ってもらい、大学や就職を経験した当事者がいる!それって特別なことじゃないんだ、という気付きを与えることができたら嬉しい」と願う。

映画を通して向き合えた父親の本音とカミングアウト

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 かくいう楓さん自身も、本作を通して新たな視点を得ることができた。自らの性別に関する話題を避けてきた父親と、カメラの前で初めて腹を割って対話したことがそれだ。「親へのカミングアウトはLGBT当事者にとってはセンシティブなトピックです。でも間違ったことをしていないのに後ろめたい気持ちを抱くのは悲しい。父はカメラの前でも偽ることなく自分のオピニオンを淡々と語ってくれました。その内容は私としては嬉しいものではなかったけれど、本音で語ってくれたのは凄いこと。その覚悟を目にしたときに、この話題を避けていたのは、親ではなくて私自身だったと気付いたんです」と晴れやかな表情。その一方で「父には畏敬の念を抱いているので、撮影中は緊張で汗ダラダラ。自分としてはあまりにも怖くて『今日が命日だ…』と思ったほど。すでに映画を観た方からも『対話場面はサスペンス!』と言われました」と苦笑いだ。

 本作は日本公開を前に多数の海外映画祭に出品。好意的な評価を得ており、ある意味で凱旋公開という形。公開規模拡大のための資金を募るクラウドファンディングでも150万円を超える賛同を集めている。LGBT当事者だけではなく、現代社会に生きづらさを感じる人にこそ観てほしいドキュメンタリー映画が完成した。

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取材・文・写真:石井隼人

2021年6月19日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

(C) 2021「息子のままで、女子になる」

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