今や将棋ソフト(AI)を使った研究など、近代的なイメージも持たれつつある将棋の世界。ただ、やはり今も昔も対人競技であることに変わりはなく、ソフトで研究を重ねたトップ棋士も、また対人での練習に戻るというケースも少なくない。当然、ソフトもないころは自分で棋譜を並べてみたり、とにかく仲間と対局したりで腕を磨くしかなかった。日本将棋連盟の常務理事を務める鈴木大介九段(46)も、先輩棋士に何度も挑戦して勉強した一人。プロ入り前には何十局と指しても勝てず泣き出してしまい、それでも手を緩めてもらえなかったというエピソードの持ち主だ。
鈴木九段がほろ苦い思い出を語ったのは、プロ将棋界唯一の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」のインタビューの時だ。対戦相手となった屋敷伸之九段(49)についての印象を聞かれた際、一息でその過去を話し切った。
鈴木九段 たぶん全棋士の中で自分が一番勝ってない棋士でもあると思いますし、苦手なんです。その理由が自分が(奨励会の)初段くらいの時にですね、屋敷先生が当時三段か四段だったと思うんですけど、将棋を教わったんです。朝から早指しでフィッシャールールと同じぐらいの「10分切れ負け」でやって、40~50連敗、1日でした記憶があるんですね。30連敗くらいから、私中学生くらいだったんですかね、盤の前で泣きながら指しているんですけど、それでも一向に緩めてくれなかったんです(苦笑)
相撲に例えれば、先輩力士が後輩に胸を貸して稽古をつけるようなものだが、将棋であれば若いころなら早指しで何十局と指すことも珍しくない。また、鈴木九段が話したようにいくらやっても一度も勝てないということも起こり得る。将棋の奨励会員になるレベルであれば、地元では大人相手でも敵なし、といった子どもも多い。それが1日で40~50連敗ともなればプライドもズタズタだろうが、そこで一切手を抜かないのもプロらしいところ。屋敷九段といえば、藤井聡太王位・棋聖(18)に抜かれるまで最年少でのタイトル獲得記録を保持していたほど、若いころから活躍した棋士。優しい性格の持ち主としても知られるが、後輩相手にも将棋では徹底して勝ち続けるあたりが、プロ入りからわずか1年10カ月でタイトルを獲得できた理由でもあるだろう。
このエピソードが明かされると、視聴者からは「それはトラウマw」「屋敷もまた鬼か」「プロすげえw」と驚きの声が多数寄せられていた。
◆第4回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名漏れした棋士がトーナメントを実施、上位3人が15チーム目を結成した。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)
この記事の画像一覧








