この選手ほど、プロ麻雀リーグ「Mリーグ」にかける思いをはっきりと口にする選手はいない。数多くの個人タイトルを獲得し“最速最強”の異名で呼ばれる渋谷ABEMAS・多井隆晴。プロ団体「RMU」の代表を務めながら、トップ選手として活躍し、またTwitterやYouTubeなどでも様々なことを発信、活動の場を広げている。「僕は主人公というかラスボス。悪者の方だよね」と語っていた多井だが、2020シーズンは悲願の優勝をあと少しで逃し、控室で号泣した。ただこれは“ラスボス”が、さらに強くなって来期も登場する序章に過ぎない。

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 2018年からスタートしたMリーグにおいて、1年目の2018シーズンでは個人トップの+476.3。その後も2019シーズンに+211.4、2020シーズンは+234.4と、3年連続で+200オーバーを記録する、まさに最強雀士だ。毎年優勝候補に挙げられる渋谷ABEMASのリーダーであり、その実力は白鳥翔(連盟)、松本吉弘(協会)、日向藍子(最高位戦)という3人の後輩も認めるところ。松本においては「ぐうの音も出ない強さを持っている。味方でよかったと思うのと同時に悔しい」とまで言うほどだ。

 「1日10時間、1カ月打ち続けても何も強くならないことがある」麻雀だが、諦めずに研究を続けてきた。「麻雀が強くても稼げない」と、何回もプロとして続けていくことを諦めかけたが、放送対局が急増した時期と活躍の時期が重なり「このまま自分がダメになると思っていた。間に合ったなって感じ」と、Mリーグ創設時にプレイヤーでいられたことに感謝した。「Mリーグができていなかったら辞めていたかもしれない。もう二度とこれ以上のエンターテインメントはできないので、僕はMリーグがなくなったら引退する。他のところでは続けられない」と、その麻雀人生の集大成という思いは人一倍強い。

 そんな男が3年かかってもつかめなかったのがMリーグ優勝という栄冠だ。2020シーズンはチームメイトの調子もよく、レギュラーシーズンから首位を快走。シーズン半ばには多井本人の口から、全ステージ首位で突っ走る「完全優勝」宣言も飛び出した。実際、セミファイナルシリーズも首位通過。あとは、ファイナルシリーズできっちりと逃げ切り、悲願を達成するだけだった。ところが、ここからチームの調子は急降下。Mリーグのチェアマンも務める藤田晋監督が「あり得ないことが起きた」と言うほどの失速。ファイナルのラスト5試合は、多井に全てが託されたが1回のトップも取れないまま、チームは3位で全日程を終了。ショックに沈んだリーダーは、最終戦の後に控室で人目もはばからず号泣した。

 シーズン中に取材を受けた時のことだ。「僕は主人公っていうかラスボス、悪者の方だよね」と答えた。「僕より常に強くて、タイトルを何十個も取って、Mリーグの成績も残して、悪者の僕を倒してくれるのを待っている」。堂々と胸を張れる成績を残しているからこそ言える発言だが、結果だけ見れば優勝したEX風林火山の3人に“ラスボス”は倒された。だが関係者やファンの間では、これで終わりという雰囲気はまるでない。むしろRPGに度々出てくる“真のラスボス”がこれから登場するのでは、というイメージさえある。個人では頂点に登り詰めた男が、過去2シーズン以上に本気で悔しがり、来期においてはさらに強い思いで挑んでくる。そんな様子が想像されるからだ。

 麻雀において、いろいろな無駄も恐れず学んできた選手だ。「とりあえずやってみようと。無駄を無駄と思わずに。人生に無駄なもの、強くなるために無駄なものはない」と、あらゆるものを吸収しては、麻雀に活かして強くなってきた。偶発性が大きいこの競技において、この努力がプレーとなって報われる機会は、本当に少ない。ただし、その小さな確率の中で、学んだことがある場面に遭遇した時、多井からは見たこともないような選択が提示される。ラスボス・多井隆晴は、やはり来期も勇者を目指す全Mリーガーにとって最大の壁として、最後の舞台で待ち構える。

(ABEMA/麻雀チャンネルより)

多井隆晴、最終戦後の号泣
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