東京都立高校の“入試合格ライン”に男女で大きな差が生じていることから、原因となっている「男女別定員制」の見直しを求める声が高まっている。
男子と女子に分けて受検生を募集するこの制度は、1950年代に導入され、様々な経緯で続いているものだが、『性別によって不利にならない入試をおこなってください!』とのネット署名の賛同者は3万人を超えており、弁護士でつくる団体は6月28日、東京都教育委員会に申し入れる「都立高校における男女別定員制のすみやかな撤廃と、個人の尊厳に基づいた公正な入試の実施を強く求める」との意見書を公表している。
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■戦後の教育改革が導入のきっかけ
千葉大学大学院の小野寺みさき特任助教(社会教育学)は「第二次大戦後にGHQの要請のもとで行われた教育改革では男女平等・男女共学が進められ、東京都でも全ての都立高を男女共学制とすることとなった。ただし当時の施設の問題や男女の学力差の問題から、募集を概ね男子3対女子1、旧女子校であれば女子1対男子3という枠組みにするなどし、昭和30~40年代くらいにかけて50%・50%になるよう、段階的に普及させていったという経緯がある。
やはり当初は女子の方が高校進学率も学力も低かったため、“女子の救済”という意味合いがあったが、中学生くらいの年齢では女子の発達が早い傾向があり、3年間のスパンでは内申点についても女子の方が高くなりやすい傾向にある。この内申点は各教科の5段階評価を換算したものだが、3年生くらいになると男子が追いついてくるのでペーパーテストについては差が付かなくなってくるものの、やはり定員が先に決められているため、合格者の得点順位を男女別に見るとこれだけの違いが出てきてしまっているということだ。
そもそも定員の差は中学校の卒業生の男女比に基づいて決められているものの、この状況を是正するために9割を男女別入学定員、残りの1割を“男女合同定員”として差を縮める努力をしてはいるが、このくらいの調整では追いつかないということが指摘されているところだ」と話す。
■公立と私立、それぞれに“大人の事情”も
萩生田文部科学大臣は6月28日、「性別等の属性に応じた取扱いの差異の設定などを行う場合は、募集要項等にその旨を記載するとともに、実施者がその合理的な理由を説明できることが必要であると考えている」と指摘している。ただ、都立高の校長を対象とした都のアンケート調査では、男女別定員制は8割が「必要」と回答している。小野寺氏は、この制度を廃止した場合の影響について次のように説明する。
「女子の比率がすごく高い都立高が多く出てくる可能性はある。男女共学制の枠を設けなかった埼玉県や千葉県では、一部の学校で女子校に逆戻りしている学校も出てきていて、“男子がのびのびとできないのではないか”と考えている人もいる。東京都の場合、旧男子校、旧女子校の校風に戻ろうとしないように、ということでやってきた側面もある。しかし、LGBTの問題もあるし、“男女で分ける”という仕組み自体も持たなくなってくる。公立である以上、誰にでも開かれたものである原則からも少しずれてしまっている。
一方で、私立高にも影響が出る。ベビーブームの時代に生まれた生徒たちのことをカバーしようということで私立が頑張ったが、後に生徒を都立に取られてしまったことで潰れてしまったところもある。そういう経緯から、私学の間には都立には男女別入学定員を続けて欲しいという考え方があることも確かだ。特に戦前からの伝統がある高校は別学が基本だったので、卒業したたち人の感情も乗っかってくる。納得をしてもらって共学に舵を切るためにはものすごく時間もかかる。やはりこの問題に手を入れずに今日まで来てしまったのには、やはり“大人の事情”もあったと思う。
しかし私自身はちゃんと勉強をした人が合格できる、というのが正しいと思うし、加えて公立と私立では学費の負担も4~5倍ほど違う。公立に入れるのであれば公立に行きたいと考える生徒、保護者の気持ちを大事にし、競争原理に則った形で学校が淘汰されていったり、共学化の道を選択したりするのが正しいと思う。段階的に“合同定員制”を進めていくべきだろう」。
■「慣れないとしょうがない」
福井県の公立高を卒業している慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「東京以外の道府県では男女別定員を既に無くしているが、やはり東京には私立が多く、しかも女子校が男子校の2倍もある。だから公立には男子の受け皿をある程度確保しておく必要があるのだろうし、逆に女子の受け皿が私立になってしまっている面がある以上、どこから手を入れていいのか、という問題になると思う。僕の地元の場合も私立の進学校はほとんどなく、影響も受けないので男女別定員枠をとっくに廃止している。ただ、結果として公立の進学校に女子が増えたことに衝撃を受けている年配の人はいた。でも、それに慣れないとしょうがない」とコメント。
都内の公立中高一貫校出身の「ウツワ」代表・ハヤカワ五味氏は「歴史的な経緯があること、定員が中学校の卒業生の比率で決められていること、さらに女子の内申点が高くなりやすいといったことから、結果的に男女の“格差”が生まれてしまっているということがわかった。女子の点数を減らしたり傾斜をつけたりしているわけではないので、“差別”の問題ではないのではないか。私が卒業したような公立の中高一貫校は数が限られているので、倍率が高くなって入りづらくなっている。そういう選択肢を増やすという考え方もあると思う」と指摘した。
さらに都立高出身のKADOKAWA社長・夏野剛氏は「そもそも大学生だって新入社員だって女子の方が優秀だ。僕の時代には都立高の学力の格差を無くすため、2~3校ごとにグループ分けされた“群”を受検し、その中で入学する高校が決まるという“学校群制度”というのがあった。その結果、入学した高校で同級生になった爆笑問題の田中と一緒に3年間、大いに遊んで、全く勉強しなかった(笑)。都立高には色んなレベルの学校があるわけだし、有名な大学に入ることを競う必要はないと思う。公立に関しては男女別定員を無くすべきだ。
高校入試なんて暗記中心だ。うちの娘も中学校2年生だが、こんなこと勉強していて意味あるのかみたいなことをやっている。アメリカの名門私立の入試では、成績だけでなく、行動を観たり、ディスカッションをさせてみたりして、多角的な評価をする。ペーパーテストで人を判断するという日本の仕組みが終わってる」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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