白泉社「メロディ」連載の斉木久美子氏のコミックスを原作とする、7月から放送中のTVアニメ「かげきしょうじょ!!」。未婚女性のみで構成される「紅華歌劇団」の人材を育成する「紅華歌劇音楽学校」を舞台に、歌劇少女たちが織りなすスポ根ストーリーが繰り広げられる。
本作の主人公・渡辺さらさを演じた千本木彩花、奈良田 愛役の花守ゆみり、杉本紗和役の上坂すみれに、声優としてキャラクターを演じる上で意識しているアニメならではの表現方法や、アフレコ時のエピソードを伺った。
舞台で登場人物を表現する作中のキャラクターたちと、そのキャラクターを声の演技で表現する声優。役者としての声優のアプローチに迫ってみる。
「この作品のこのシーンではこっちが正しかったけれど、それが一生続くわけではない」
――「かげきしょうじょ!!」では舞台ならではのお芝居の表現について描かれていますが、アニメ作品で声優として演技をする上で、皆さんはどういった意識を持っていらっしゃいますか?
千本木:すごく難しい質問ですが、私が気をつけているのは想像力ですね。実写であれば例えばロケをすることで学校や体育館という場所自体がそこに存在しますし、舞台でも擬似的にセットを作り込めます。声優の場合は、そういった存在がない中でマイクの前に向かってお芝居をするので、想像力というものがすごく大切になってくると思うんです。
――確かに、アフレコ時にはアニメ映像が未完成という場合も多いですよね。
千本木:アニメならではの映像表現をできる部分が、実写や舞台とは違った良さになるので(未完成の映像であっても)アニメの中でキャラクター同士が対面している距離感や空気感をしっかり想像して、いま自分の演じているキャラクターがどこにいるのだろうということを感じて演じていくことを大切にしています。
花守:私たちの仕事では、自分の体(声)では演じているものの、アニメの中でもそのキャラクターがお芝居しているので、そういう意味では体が2つあるんですよね。作品にのめり込んでキャラクターを自分にどこまで落とし込めるのかというアプローチをする作品もあれば、絵でお芝居を作ってくださっているから、どうやったら視聴者さんにより魅力的に見てもらえるのだろうと考える場合もあるんです。
声だけで作りすぎても頭でっかちならぬ声でっかちになってしまいますし、その割合というか掛け算を作品に合わせて変えているという意識がありますね。アフレコ現場の場合、その絵がどういう方向でお芝居をしたいのかなって考えながら作る時もあれば、逆にお芝居を任せていただいて、あとから絵を合わせていただくこともあるんです。
――作品や作り方によっても変わってくるのですね。
花守:お芝居を任せていただいた場合は、この子はこういう子なのかなって印象の深掘りをしていって、声の担うところをもっと大きくしようかと考えたり。逆にキャラクターはしっかりとでき上がっていて、この子を魅力的に見せる声を出してくださいというオーダーがあったときは、どれだけ声で夢を乗せてあげられるかを考えたりします。
単純なリアリティを出せばいいというわけでもないので、作品やキャラクターによって全然変わってくるんです。そういう掛け算の連続なのかなって思いながら、今も葛藤しております。
――アニメの映像ができている場合と未完成の場合でも変わってきそうですね。
花守:でき上がった映像を見て「こっちの演技だったんだ!」と思うときもありますし、ずっと考え続けていますね。もちろん自分のことだけでなく、客観的に全体を見ながら、何が一番いいのだろうと常に考えている感じなんです。
――上坂さんはいかがでしょうか?
上坂:声優になって面白いなって思ったことは、たとえば15歳のキャラですと言われてもいろいろな15歳がいるんだなぁってことなんです。限りなく大人に近い心を持った15歳の子もいるし、「~なのだぞ!」という語尾でしゃべるちょっと幼いメンタリティを持った子もいる。
千本木さんも花守さんもおっしゃるように1つの型にはめないで、そのキャラクターが「どういう子なのかな?どうやってしゃべるのかな?」と理解して、そのキャラと対話して仲良くなって考えていることが手に取るようにわかれば、あえて作ろうとしなくても自然に演じられるのかなって思うんです。
――もしディレクションで違う演技プランを求められたらどうされますか?
上坂:もちろんそういうときもありますけれど、それは決して悪いことではなくて、正解がない世界なんだと思います。この作品のこのシーンではこっちが正しかったけれど、それが一生続くわけではないといいますか。一応自分の中でも組み立てていくんですけれど、現場でプランがすごく変わることを念頭においていくと楽しくできますし、より掛け合いが瑞々しくなるんだなということは実際にやってみて思ったことですね。
あと、私はけっこうなりきり型だと思うんです。「かげきしょうじょ!!」の杉本さんだったらピシっと姿勢を正しくして台本を読んでみたり、お姉さんキャラを演じている時は、いい女の角度に見えるようにちょっと傾いてみたり(笑)。
(上坂、実際に傾いていい女の角度を表現する)
――そういったことを考え続けていくというのが大事なんですね。
上坂:私のように形から入るタイプもいれば、人によって本当にいろいろな考え方があるので、それぞれで答えの違う質問だなと思いますね。
「相手のキャラクターのことを理解していないと、自分がどこに立っているのかわからなくなっちゃう」
――お話を聞いていて、アフレコ時の役者同士の距離感も演じる上で重要だと感じたのですが、「かげきしょうじょ!!」はどのような現場だったのでしょうか。
花守:なるべくさらさ役のぼんちゃん(千本木)と一緒に録っていただける形だったんですけれど、基本はみんなバラバラに収録していたんです。
千本木:そうですね。(学校の)先生たちともほとんど一緒に録れなかったので、すごく想像力が必要な現場でした。
――昨今の情勢的に少人数での収録だったということですね。
花守:本当に作り方が情勢でだいぶ変わってきて、その手探りをしている時期に収録させていただいた作品だったんです。だからこそ、「どのくらいの距離感がいいですか?」と何度も質問してみたりと、音響監督さんや監督さんたちの力もお借りして進めていました。それでも、自分たちの収録の時には杉本さんの声が入っている状態で演じられたので、それに合わせて作っていく側としてそこまで悩まずにできた現場でした。
――1話ごとに順番に収録して、その演技が合わさったものを見て次の話数を順番に収録していったんですね。
花守:そういう意味では自分のキャラクターだけと向き合うだけでなく、(話す)相手のキャラクターのことを理解していないと、自分がどこに立っているのかわからなくなっちゃうなって思いました。
逆に何もないゼロの状態で声を当てられている杉本さんたちは、さらさと愛がいない状態で悩まれたところが多かったのではないかなと……どうでしたか?
上坂:杉本さんと星野さんと山田さんで一緒に収録することが多かったんですけれど、たしかに最初の方はどんな感じになるのかと考える時間がかかっていましたね。でも、何話か演じていくうちに「こう来る」ということが想像でわかってきました。
――星野(薫)役の大地 葉さんや山田(彩子)役の佐々木李子さんの演技はいかがでしたか?
上坂:3人のバランスが絶妙でみんな違うなぁって思いましたね。山田さんもめちゃくちゃ大好きなんですけれど、そんなに頑張らなくていいよって背中をさすってあげたくなっちゃうような演技で。あのガラスのように鋭いけど脆い星野さんを表現した大地葉さんのお芝居もたまらないですし。
花守:その3人はスタイルこそ違いますけれど、プレッシャーと戦っている3人ですよね。
上坂:そうなんですよ。周りからのプレッシャーがあって。
千本木:私はそれで言うと、杉本さんは先頭に立ってすごく努力していて成績もいいけれど、自分では何かわからないものに対して悔しい思いをしてしまっているので、応援したくなりました。自分がやってきたことが自分を強くしてくれるし、そこを信じてやっていかないとダメだよなって感じられたので。
上坂:たしかに杉本さんは真面目さゆえに損していることがけっこう多いので、そういうところで応援したくなりますね。
花守: 100期生の子たちは強い自分を持っている子が多いですけれど、自分ってなんだろうって悩み続けている山田ちゃんって、見ている視聴者さんとしても重なる部分が多いんじゃないかなって思うんです。ちゃんと才能を持っているのに、自分ではなかなか認められずに先生に言われたことに悩んだり、年相応の体重の増加に苦しんでしまったり。
お芝居のお話でもあるのですが、そういう少女の危うさが詰まっている山田ちゃんに重なる部分が自分にもあるんです。先生たちもまわりの100期生の子もちゃんと彼女の強みに気づいて言ってあげているので、そういう意味では応援したい目線で彼女のことをずっと見ちゃうなと思いますね。
TVアニメ「かげきしょうじょ!!」概要
【CAST】
渡辺さらさ:千本木彩花
奈良田 愛:花守ゆみり
杉本紗和:上坂すみれ
星野 薫:大地 葉
山田彩子:佐々木李子
沢田千夏:松田利冴
沢田千秋:松田颯水
野島 聖:花澤香菜
中山リサ:小松未可子
竹井朋美:寺崎裕香
安道 守:諏訪部順一
奈良田太一:野島健児
里美 星:七海ひろき
白川暁也:高梨謙吾
白川煌三郎:子安武人
【STAFF】
原作:「かげきしょうじょ!!」 斉木久美子(白泉社『メロディ』連載)
監督:米田和弘
シリーズ構成:森下 直
キャラクターデザイン:岸田隆宏
サブキャラクターデザイン:飯田恵理子、高田 晃、牧 孝雄
プロップデザイン:古賀美裕紀
総作画監督:今岡 大、高田 晃、福永智子、牧 孝雄
美術設定/美術監督:谷川広倫
色彩設計:坂上康治
撮影監督:浅黄康裕
編集:今井大介
音響監督:長崎行男
音楽:斉藤恒芳
音楽制作:キングレコード
制作:PINE JAM
※高田 晃の「高」は、正式にははしごだかの字
【公式HP】https://kageki-anime.com/
【Twitter】https://twitter.com/kageki_anime
【Instagram】https://www.instagram.com/kageki_anime/
(C)斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
取材・写真・テキスト/miraitone.inc