いよいよ開会式を迎えた東京オリンピック。国を代表して競技に臨むアスリートたちが出場の喜びと共に語るのが“日の丸を背負う責任”だ。
日本中の視線が集まる重圧の中、人生を狂わされた一人が、埼玉西武ライオンズなどで活躍し、北京オリンピックに日本代表として出場した元プロ野球選手のG.G.佐藤氏だ。
・【映像】“戦犯と呼ばれた男”が語る「日の丸」を背負う責任と北京エラーの裏側
■痛恨のミス…星野監督の期待にも応えられなかった
2008年の北京オリンピック、初めて日本代表として選出された晴れの舞台。しかし準決勝の韓国戦、「今までに感じたことがないプレッシャーだった。スタメンで名前を呼ばれた瞬間に足の先から手の先まで、本当にゾワゾワと鳥肌が立ったのを覚えている」と振り返る緊張感の中、痛恨の落球をしてしまった。日本はこの時に失った1点がダメ押しとなり、韓国代表に敗北、金メダルの夢も潰えた。
「稲葉(現)監督も一緒にプレーしていたが、試合前は手を組んでうつむいている状態だった。あれだけすごい選手が緊張している。それを見たら、余計に緊張してしまった」。
この試合で2つのエラーを記録したG.G.佐藤氏は翌日のアメリカとの3位決定戦でもエラーを記録、試合にも敗れてしまったことで、“金メダルを逃した戦犯”としてメディアや国民からのすさまじいバッシングに晒されることになる。「“彼の野球人生をダメにしたくない”と、星野(仙一)監督は翌日も僕を使ってくれた、それに応えられなかったのも悔しい」。
■「悔しかったし、情けなかったし、涙も流れた」
当時のネット掲示板には「G.G.じゃなくてエラーのEE佐藤に変えろ!」「何がキモティーだ、なめてんのか!二度というな」「日本へ帰ってくるな!」といった激しい言葉も投稿された。
「卵が飛んできたり、水をかけられたりするかもしれないから守ってあげようって、仲間が囲ってくれた。悔しかったし、情けなかったし、涙も流れたし、死にたいと思った。帰国後、例えばコンビニに行くと、他のお客さんに“何やってんだおまえ”と思われているのではないかとか、ホームランバーを買うと“ホームラン打ってこいよ”と思われているのではないかとか、被害妄想も出てきた。Uber Eatsがあれば助かったと思う(笑)」。
あれから13年。測量や地盤調査を行う会社の副社長として働くG.G.佐藤氏は、エラーを“話のネタ”にすることはあっても、今も過去を克服できたわけではないと明かす。「VTRがテレビで流れると、娘に“パパ。このフライいつ捕るの?”と言われる。“VTRだから捕らないよ”と。だから今でも悔しい。できるものなら、もう1回出て、やり返したい気持ちもある。唯一よかったと思えるのは、新大久保の韓国料理屋さんに入るとすごくサービスされること(笑)」。
■生島淳氏「この20年ぐらい、より重圧がかかるようになった」
問題の韓国戦について、「不思議な緊張感があった」と述懐するのが、スポーツジャーナリストの生島淳氏だ。「打球が上がって、佐藤さんの追い方がおかしかったのは覚えている。でも、佐藤さんだけ緊張していたわけではなかったと思うし、隣のアナウンサーに“何か起きそうなぐらい日本が緊張している”と言ったことも覚えている。韓国側も、日本に勝てば決勝進出、選手たちは徴兵免除ということがあり、両軍が異常な緊張感で固かった。
大河ドラマの『いだてん』の通り、国民の期待というのは戦前からあった。しかしこの20年ぐらい、より重圧がかかるようになったと思う。テレビの盛り上げ方も盛んになってきて、雰囲気の醸成が分厚くなってきた。それを選手たちが敏感に感じとってしまって、例えば吉田沙保里が負けた時に“とんでもないことをしてしまった”ということを言ってしまったのだと思う。そんなことを思う必要はないのに」。
■「思い切って、楽しくプレーしてほしい」
「実家に帰って、封印していた着ていたものを持ってきた。終わった直後は見たくもなかったし、思い出したくもなかった。時が経って、やっと笑えるようになった感じはある」と、あの韓国戦のときに着ていた日本代表ユニフォームを背に出演してくれたG.G.佐藤氏。
「選手としては、出場する以上は金メダルが欲しい。分かりやすく目に見えるものだし、メダルの数で測られるのはしょうがない部分もある。その意味では、“金メダル至上主義”もしょうがないのかなと思っている。逆に、メダルをとったことで人生が変わっている選手もたくさんいる。マイナースポーツから一夜にしてスターになったり、選手生活を続けられる可能性が生まれたりする人もいる。
やっぱりオリンピックに出ることはすばらしいことだし、オリンピアンと呼ばれるのは夢のあることだ。いいことがあっても悪いことがあっても、本当にいい思い出になるし、いい経験になると思う。思い切って、楽しくプレーしてほしいと思う。ただ、僕より派手なエラーだけはやめてほしい。やっと僕がこの位置をキープできたので、上書きはやめてほしい(笑)」と冗談を交えてエールを送った。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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