27日、難民の支援を行う「全国難民弁護団連絡会議」は、東京オリンピック・パラリンピックで来日した選手や関係者が難民申請の意向を示した際に、その機会を保障することなどを盛り込んだ申し入れ書を大会組織委員会などに送ったと発表した。
【映像】“強制帰国”ウガンダ選手を乗せた飛行機(2分40秒ごろ~)
今月16日、ウガンダ選手団のウエイトリフティングの選手として来日していた20歳の男性が、事前合宿地の泉佐野市から失踪。滞在先のホテルには「経済的な理由から日本で働きたい」という旨の書き置きが残されていた。男性は20日に三重県・四日市で発見され、翌日東京の渋谷警察署へと身柄を移された。
今回の申し入れ書の作成に携わった児玉晃一弁護士は、男性が「難民申請の意向を示している」という報道を知り、渋谷警察署を訪れた。しかし、本人との面会は叶わなかったという。
「『本人が難民申請をしてない。それ以外のことは一切お答えできない』と言われた。渋谷警察署のエレベーターからウガンダ大使館の職員の方が降りて来たとき、その方が泉佐野市の職員のところに行って、ハイタッチ、今は(感染症対策で)手でやらないで、ひじでタッチをやっていた。笑顔で接していたので『みんなで説得したのかな』と思って見ていた」(児玉晃一弁護士・以下同)
その後、男性の身柄は大使館に引き渡され、ウガンダに帰国。ニューヨークタイムズなどによると、男性は帰国後、空港で拘束され、その後、数日間にわたって、拘留されていたと報じられている。
ウガンダは現在のムセベニ大統領の政権が35年続いている事実上の”独裁国家”ともいわれている。児玉弁護士は「まさに恐れていたことが起きてしまった。日本が迫害に手を貸してしまった」と苦悶の表情を浮かべる。
「難民申請の意向を示しているのに、大使館に会わせた。これはDVの被害者が警察に駆け込んだところ、加害者が警察に行って『会わせてくれ』と言っているようなもの。オリンピックという晴れ舞台で失踪して、ウガンダ政府の顔に泥を塗った、と考えるのは全くおかしくない。おそらくそうなるだろうなと思った。政治的な意図がないにしろ、反政府活動、反政府思想の持ち主だとみなされて、厳しい刑罰を科されるのは、よくあること。彼を大使館の人に会わせてしまった泉佐野市の職員たちには、おそらくそういう意識がなかったのだろう」
全国難民弁護団連絡会議が出した申し入れ書の中には、ウガンダに帰国した男性に関する追跡調査の依頼も盛り込まれている。難民認定制度は活用されないのだろうか。
「(帰国すると)迫害を受ける恐れなどの理由があれば、難民になる。本国の情勢で自分と同じような人が逮捕や投獄されたり、殺されたり、同じような状況で「自分も帰ったら同じ目に合うかもしれない」といった恐怖があれば、十分な理由になる。日本は、難民申請のハードルをものすごく高くしてしまっている。だから難民認定制度があっても(申請が通る件数が)かなり低い」
母国で迫害を受ける恐れがあり、他国に逃げた人を保護するために作られた難民認定制度。主要国の2019年における難民認定者数と認定率を見てみると、ドイツが5万3973人(25.9%)、アメリカが4万4614人(29.6%)、フランスが3万51人(18.5%)と一定の数字を保っているのに対し、日本は44人(0.4%)と他の主要国と比べて、極端に受け入れが少なくなっている。
この現状に児玉弁護士は東京オリンピック・パラリンピックの終了後、失踪を図ったウガンダの選手と同じように、難民申請の意向を示す選手が現れる可能性を示唆。そういった選手には「支援団体などに協力を仰いでほしい」とした上で、「日本人のひとりひとりがこの問題に耳を傾けてもらいたい」と話す。
「日本で暮らしている私たちからしたら、想像もつかないような出来事に見えるかもしれないが、本当に世界は広くて、いろいろなことがある。そういう中で恐怖を訴えている人の発言を、一概に自分たちだけの常識で排除しないでほしい。これは新しい話ではない。日本は国として難民条約に入っている。そこを再確認して、いろいろな人に難民問題を知っていただきたい」
(『ABEMAヒルズ』より)
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