開幕を目前に控えたパラリンピック。様々な競技においてアスリートたちの足となるのが「車椅子」だ。障害者や高齢者の移動をサポートする福祉用具として時代とともに多様な進化を遂げてきた車椅子だが、今、日本発の次世代型電動車椅子として数多くの賞も受賞している「WHILL」が注目を集めている。
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WHILLの広報マネージャー新免那月氏は「テクノロジーとデザインを兼ね備えた新しい乗り物だ。全ての人が快適に楽しく移動できる、新しい近距離モビリティという定義を作ろうとしている」と話す。一体、どのような乗り物なのだろうか。
■「生活の選択肢の幅が広がった」
国内外の舞台で活躍、順調にキャリアを積んできたソプラノ歌手の坂井田真実子さんは2016年、国指定の難病「視神経脊髄炎」を発症した。「脇の下から全部動かなくなった。それから感覚障害と言って、つねっても感じなくなった。先生が母親に“一生介護の勉強してください”って言った」。
“一生車椅子かもしれません”、そう言われ、車椅子を探している時に出会ったのがWHILLだったという。デザインはもちろん、操作性に魅了された。「操作はスムーズで簡単、坂道もスイスイ登る。一つの場所でクルッと回転できるし、段差も結構行ける。スマートフォンのアプリで、自分のいるところまで持ってくることもできる」。
坂井田さんにとって行動の幅を広げてくれる、なくてはならない“相棒”になったWHILL。「家からリハビリ病院に行って戻ってくるだけの生活から、途中でどこかに行くことができるようになった。普通の人なら楽しめる、小さなことを諦めずに済むようになった」。
■「月額2700円程度で借りることも可能だ」
WHILL株式会社の取締役CTO・福岡宗明氏は、開発のきっかけについて次のように話す。
「大学の同級生が趣味で集まるサークルのような活動をする中、車椅子ユーザーの方とお話する機会があり、ほんのちょっとのところに出掛けるのをためらってしまうということを知った。掘り下げていくと、機能だけではなく、イメージの問題も根深いと思い、それらを解決するために、全くイメージが違うかっこいい車椅子を作ったらどうなるんだろうというところで始まった」。
ほとんど椅子のようにも見えるデザインや、誰でも座った瞬間に動かせる操作性については、「引き算というか、より椅子に近づけるように、限界まで絞った。そしてレバーを行きたい方向に倒せばいいだけなので初めてiPhoneを触った時のように、感覚的に使えると思う。伊勢神宮で貸し出している初代モデルは四輪駆動なので、砂利道もガンガンいける。色んなニーズに応えていきた」と説明。
また、簡単に分解することもできるので、乗用車などで持ち運ぶことも可能だ。「パーツ1個がだいたい15~18kg、トータルで52kgぐらいだ。1回の充電で約18km走れるので、1日なら問題ないかと思う。電動アシスト自転車と同じで、バッテリーを引き抜いて充電する。下のカゴに、予備バッテリーをかごに入れて乗っている方もいる」。
すでに世界23の国と地域で展開しており、日本での最高速度は道路交通法に基づき6kmに設定されているが、米国版ではそれ以上にスピードを上げることも可能だという。47万円という価格設定について福岡氏は「介護保険を使われる方も結構いらっしゃる。そうすると月額2700円程度で借りることも可能だ」と話した。
■乙武氏「みんなが乗るものだという考え方になればいい」
電動車椅子ユーザーで作家の乙武洋匡氏は「みなさん電動車椅子の相場感が全くわからないと思うが、私が乗っている電動車椅子は160万円だ。それからすると、47万円はめちゃくちゃ安い。そして基本的に大きくて重たいものなので、一般の乗用車には乗せるのが難しかったが、ここまで簡単に分解できれば積み込めるようになる。ラストワンマイルはこれでいい。移動が非常に楽になってくる」と絶賛。
「実は2017年にシリコンバレーを訪れた時に乗せていただいたことがあるが、やはりそれまでの日本の電動車椅子は、ユーザーが街の中をアクティブに動き回るというよりも、バリアフリーが整備されているところでの走行を想定していた。その点、WHILLさんは海外で使っていただくことも始めから視野に入れて開発されているので、ある意味でオフロードでも使える。そもそも電動車椅子というのはマーケットが小さすぎて研究開発費もかけられなかったので、私が子どもの頃からほとんど進化していない。しかしパーソナルモビリティと位置づけられてみんなが乗るものだという考え方にすれば、そこが進んでいくと思う。
障害者が“通勤するのは無理なのでリモートワークをしたい”とか、不登校の子が“リモート授業を受けたい”といくら言っても進んでこなかったものが、コロナ禍でマジョリティが困難に直面したところ、物事が一気に動いた。それと同じように、電動車椅子が“障害者の乗り物”と定義されている間はバリアフリーもなかなか進まない。そうではなく、みんなでこのような“パーソナルモビリティ”に乗ればいいじゃん、となってくると、一気にバリアフリー社会になっていくと思う」と期待を示した。
■羽田空港で自動運転システム搭載型も運用
今後について福岡氏は「自動車や自転車について、“まだ乗らない“という表現は使わないと思う。WHILLについても、“まだ乗らないよ”と言われないようになりたいと思っている。乗り物自体を進化させる方向と、もう一つ別の軸として、先ほどムービーにあったが、自動運転でサービスとして提供するということを今やっている。スマホと繋がってリモートコントロールで動かすことができる」と語る。
実際、WHILLでは去年から羽田空港で自動運転システムを搭載、乗るだけで搭乗口まで移動することができるサービスもスタートさせている。前出の新免氏は「タッチパネルで行きたいゲートを押すだけで自動運転が始まる。降りたらそれを検知し、元の場所に自動運転で帰ってくる。老若男女、無料で誰でも使える」と話す。
モビリティジャーナリストの楠田悦子氏は「やはり日本の場合、障害がある方とない方を分けて考えてしまうような国民性がある。車椅子は障害のある方が施設の中で乗ったりするもの、シニアカーについても触りたくないという意識のバリアを持ったお年寄りも少なくない。そういう中でWHILLさんは“これでお出掛けできるんだ”“これで日常生活が送れるんだ”と思える希望の星だ。
コロナ禍によって在宅で仕事をするスタイルが広がり、ほぼ2km圏内で暮らしている方も増えてきていると思う。こうした生活が定着し、自転車や徒歩、あるいはこういったパーソナルモビリティで暮らせる程度の街ができていけばいいと思う。そうすれば若いうちパーソナルモビリティで暮らすライフスタイルも生まれると思うし、車の免許返納といった不安も払拭されると思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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