日程の半分を終えた東京パラリンピック。連日、メダルを獲得したパラリンピアンたちが喜びを語る中、日本車いすバスケットボール連盟の公式Twitterアカウントが、「NHKさま、お願いがあります」「選手の障害について、都度ご紹介いただいていますが、(中略)叶うならば、いちスポーツマン、ひとりのアスリートとしてのストロングポイントを、よりご紹介いただきたいです。」と投稿したことが注目を集めている。
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障害の度合いによって細かなルールが設定されているパラスポーツ。観戦する上で、そうした情報はどこまで必要なのだろうか。30日の『ABEMA Prime』では、パラリンピックの報じ方、さらに大会そのもののありかたについて議論した。
まず、パラアイスホッケー選手として3大会に出場、2010バンクーバー大会では銀メダルを獲得した上原大祐氏は「NHKさんに頼っている状況があるので、民放やスポーツチャンネルも含めてもっと放送があると本当は嬉しい。それでも私が参加していた大会よりも報道の量は圧倒的に増えたし、いろんな選手が注目されてもいる。日本で開催されるということで、数年前から教育にも力を入れてもらっているので、子どもたちも見たいと思ってくれている。一気に広がるのは難しいと思うが、今回の大会でワンステップ、ツーステップ進んだのではないか」とした上で、次のように指摘する。
「確かにパラリンピックにはクラス分けなどがあるので、語らなくてはいけないところが必ずあると思う。私としては、NHKさんのナレーションには障害を持った子どもたちに“僕もこんな状態だけれども、このスポーツではあんなに強くなれるんだ”と夢を届けられるような実況だと思っている」。
テレビ朝日の平石直之アナウンサーが「NHKの中継で陸上400mのT20という競技を見ていたが、選手紹介でも特に説明がなかったので、しばらく見ていても何の障害があるのかがわからず、ネットで調べて知的障害のある選手のクラスだということが分かった」と振り返ると、NPO『パラフォト』のメンバーとして取材を続けるジャーナリストの堀潤氏は「例えば義足エンジニアの遠藤謙さんに聞いた話で非常に面白 かったのは、乳酸が溜まる割合が少ない分、走る距離が長くなるほど片足が義足の選手よりも、両足が義足の選手の方が有利だと言う。一方で、両足が義足の選手は、片足が義足の選手に比べてスタートダッシュが難しく、遅れてしまいがちだという。そういう解説を聞くことによって、選手のパーソナリティが見えてくるし、見る時のモチベーションも変わってくると思う。ツイートは、そういうところもNHKに求めたのだろう」との見方を示した。
カンニング竹山は「いずれにしろ、我々が“ふーん”と受け止めて見られるようなパラリンピックでないといけないと思う。車いすラグビーをずっと見ていた感想は、“こんなスポーツよくやるな、絶対やりたくない”ということ(笑)。あんな屈強な男たちが、ガーンとぶつかっていくわけだから。でも、それでいいと思う。アスリートだからできるんだ、ということだから」とコメントした。
■消えてしまった東京オリンピック・東京パラリンピックの同時開催の議論
慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「僕は大学生時代、障害者の就職支援の仕事をやっていたし、母親と妹が特別支援学級の教員なので、障害を持った人たちと話す機会が多かった。仲良くなってくると、健常者のときと同じような会話をするようになった。そもそも選手の皆さんが障害者であるかどうかをフィーチャーしてほしいかどうかだと思うし、おそらく“混ぜて欲しい”という気持ちがあると思う」と指摘する。
「オリンピックとは別に、パラリンピックとして扱うことによって確かに注目は集まるかもしれないけれど、僕はオリンピックの1日の競技の中に男子、女子、障害男子、障害女子…当たり前のように入っていてもいいと思う。そして過去や障害について“そういうことなのか”というのは後から付いてくればいいと思うし、障害を乗り越えたといった話よりも、むしろ嬉しい、悔しいといった、今の感情が当たり前のようにフィーチャーされていていいと思う」。
実際、アメリカのオリンピック委員会ではオリ・パラが分かれおらず、各地のスポーツバーではパラスポーツの中継も流れているという。一方、日本では未だパラスポーツは“リハビリ”と“スポーツ”の中間のような位置づけだ。
上原氏は「私がホッケーをしていた10年前から、すでに海外ではオリンピック選手とパラリンピック選手が同じ会場で同じタイミングで合宿をしていた。アメリカで圧倒的にスピードが速い健常者の方と一緒に練習をしたことが、最終的に銀メダルを取れたことに繋がっている、やはり一緒にやるということはすごく重要だと思う」と振り返る。
「ところが、日本は残念ながら未だにオリンピック委員会とパラリンピック委員会に分かれているし、残念ながら健常者側のアイスホッケーにぶら下げてもらえない、ということもあった。そこはやはり“分けたがり屋ジャパン”のところがある。かつてはオリンピックが文科省、パラリンピックが厚労省と管轄も違ったし、ナショナルトレーニングセンターもパラリンピック選手は使えなかった。しかしスポーツ庁ができたことでようやく“スポーツ”に混ぜてもらえるようになり、新聞でも社会面での“福祉”、あるいは“障害を乗り越えた人のストーリー”といった扱いから、スポーツ面で取り上げてもらえるようにはなった。ただ、苦労の話が多く、それはオリンピック選手だって変わらないと思うこともある」。
これに堀氏は「実際、選手の中にはオリンピック・パラリンピックに横断して出場する選手もいる」、カンニング竹山は「知的障害があったとしても、記録さえ良ければ、じゃあオリンピックも出なよとなってもいいと思う」と賛同。
若新氏と車いすバスケをした経験のある上原氏も「アスリートとしては絶対に勝ちたいし、勝った時はメチャクチャ嬉しいし、負けた時はメチャクチャ悔しい。それはオリンピックの選手もパラリンピックの選手も同じだと思う」と賛同。その上で、「パラリンピックのクラス分けは難しく、実は自分自身も、バスケットボールだとどこのポインターになるかも分かっていないくらいだ」と話した。
クラス分けの問題について堀氏は「競泳の久保大樹選手の場合、欠損ではなく麻痺だ。直前の海外大会でもう一度クラス分け判定をしたところ、今のクラスには該当しないということになり、コロナで開催が1年遅れ、受けられなかったテストがあったことなどから、代表を外されてしまった。本人はすごく悔しい思いをしたが、今大会では一生懸命、解説をしている。そういう舞台裏とかを聞くと、パラリンピックがいかに厳密にクラス分けされて、その中で選手が様々な障害と向き合いながら戦っているということが見えてくる。その意味では、指摘を受けたNHKのアナウンサーも、スキルが足りなかった、あるいはもっと時間があればと、悔しかったと思う」。
さらに「東京2020の誘致が成功した頃、オリ・パラは融合できるという議論もあった。結局、従来型になってしまったのは残念だが、融合するためのアプローチが、この数年間の間でもっとできたのではないか。それでもパラリンピックについてこれだけ時間を割いて議論できるようになった。もっと普段からオリンピック並みに語られるようになれば、より理解も深まると思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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