「“多様性”から取り残されているんじゃないかな」…100人に1人の割合なのに理解されず、“隠さざるを得ない”吃音症の当事者たち
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 スムーズに言葉を発することができず、“どもり”とも呼ばれる吃音症。およそ20人に1人の割合で主に幼児期に発症するが、多くは2、3年ほどで自然になくなる。大人になっても症状が残っているのはおよそ100人に1人。原因は現在も研究中で確立された治療法はない。

・【映像】コロナ禍で新たな困難に直面...吃音症当事者に聞く苦悩と社会に求める理解とは

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 主な特徴として、“こ、こ、こ、こんにちは”と、最初の音を何度も言ってしまう「連発型」、“こーーーんにちは”と最初の音を引き延ばしてしまう「伸発型」、そして、話そうとしても一言目が出てこない「難発型」がある。

 番組には「子どもが吃音なんだけど、新学期が明日からなので泣いてた。親として辛い」というコメントも寄せられた。8月31日の『ABEMA Prime』では、改めて吃音症の当事者に話を聞いた。

■「“多様性”から取り残されているんじゃないかな」

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 「コミュニケーション、人と話すことって、どこでも使う大事なスキルだ。それが欠けたままこの社会で生活するというのは苦労する場面が多い」。

 2018年、言葉に詰まる悩みを抱えながらも就活生として日々を送っていた本多駿さんは『ABEMA Prime』に出演、吃音について多くの人に知ってほしいと訴えていた。

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 あれから3年。番組を見たという奥村安莉沙さんから届いた手紙には「私自身も周りからの無理解ゆえのからかいに絶望の日々だった。社会的に多様性が叫ばれる今でも、残念ながら吃音は置き去りのままだ」と、今も周囲の理解や支援から漏れてしまう当事者の思いが綴られていた。

 吃音症に関心を持ってほしいと啓発活動を行っている奥村さんは23歳のとき、バイクを運転中にトラックの下に体ごと滑り込むという事故に遭った。通りかかった人の足を掴むことができたために惨事は免れたが、吃音症のため、“助けて”の一言が出なかったという。

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 奥村さんたちが1日限定で開催したイベント“注文に時間がかかるカフェ”。接客スタッフは全員が吃音症の当事者で、参加した高校生は「言葉がうまく出ませんが、一生懸命喋っているので、話し方をからかわないでください。他の人と同じように接してもらえると嬉しい」。

 奥村さんは「吃音でいじめられて苦しいという声はたくさん来る。私に価値はないから死にたいとか、本当に切羽詰まったようなメッセージも来る。“多様性”ってよく言われているけれど、吃音の当事者としては、その“多様性”から取り残されているんじゃないかなって感じざるを得ない」と訴えた。

■「誤魔化して、自分に嘘をついてしまうこともある」

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 「学校で九九や音読が始まった頃から。周囲に変な目で見られたり、真似されるようになった。20年くらい経つが、誰もいない夕方の校舎で、泣きながら先生と九九の練習をしたことを鮮明に覚えている」。

 5歳ごろから吃音の症状があるというあかしさん(27)の場合、第一声目が詰まりやすい「難発型」だ。

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 「障害とは思えず、吃音という言葉を知ったのも20歳ごろだ、僕の場合、母音が言いづらい。例えば“ありがとう”とか“いただきます”とか“お疲れ様です”とか、言い替えがきかないような言葉が特に苦手だ。自分の名前も“あ”から始まるし、これは換えが利かないのですごく苦しい。頭の中では言いたいことが用意されているのに、その一言目が喋れなくて間が空いてしまうし、頑張って言おうとして顔が真っ赤になったり、我慢して我慢して出すのですごく大きな、強い感じの声になったりしてしまう」。

  普段は自動車メーカーで開発に携わっており、日常の会話で吃音が出ることは少ないというが、初対面など、自己紹介や発表、面接など、緊張する場面の他、お酒を飲んで喋りたい、といった場面でも言葉に詰まることがあり、時に心ない言葉が投げかけられることもある。

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 「発表のシーンに吃音が出ると、聞いている人は緊張しているからだと捉えられる事が多い。そもそも吃音のことを知らないか、知っていたとしても、まさか僕が当事者だとは思っていない人が多く、逆に流暢に喋れる場合もあるので、笑いながら“なんで言えてないの?”“今の何?冗談でやっているの?”みたいな言葉をかけられることもある。そういう時には笑って“そうだよね、ごめんごめん。わざとなんだよ”みたいに誤魔化して、自分に嘘をついてしまうこともある」。

 本当は喋ることが好きで、自分には接客や営業が向いていると思っていたあかしさん。しかし今はかかってくる電話を取るのもためらわれるという。「あまり取りたくないので、あえて切って、誰からかかってきたのかを調べて、誰かからの電話かを知った上でこちらから掛け直す。そうすれば第一声は向こうからということが多いので、流れで喋ることができる。こういう小さいことでも苦労する。最近ではコロナ禍によってマスク生活になったおかげで、声を大きく出さないといけなくなった。吃音の人は、二声目に同じことが言えないことがよくあるので、聞き返されて困っている人も多いと思う」。

■「悪いことでもないし、劣っているわけでもない」

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 学校で「しゃべり方が変」「何を言っているか聞き取れない」と言われ、悲しい思いをしてきた。「言い返しても詰まっちゃう。悔しい」。

 小学2年生の前田優くん(7)の場合、幼い頃は近所の人に大声であいさつをしていたものの、症状の出始めとともにそれもしなくなったという。吃音症の診断を受けた4歳ごろの映像には、言葉に詰まり、苦しそうな優くんの姿が収められていた。

 「話したくても話せないもどかしさ、伝わらないもどかしさから、よくかんしゃくを起こしてしまう。そういうとき、どうしてあげたらいいのかわからないし、すごく戸惑ってしまう」(母・夏子さん)。

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 家では明るく少しやんちゃな優くんだが、言葉が出ない苦しみにもがいていた。夏子さんは半年前、優くんがポツリと漏らした言葉が忘れられないという。「“生きていても楽しくないんだ”と言われたときにすごく悲しかった。そういうことを言わせてしまったことも悲しかった」。

 「お友だちと話していて、私がその場にいたときは、“おかしいことじゃないんだよ。くせみたいなものだから、話が終わるまで待っていてもらえる?”という声掛けはするようにしている。でも、これから成長していくにあたって壁にぶつかるのではないか、話すこと自体に苦手意識を持ってしまうのではないかとの不安もある。吃音は悪いことでもないし、劣っているわけでもない。そういった当たり前の意識がもっと広がって、誰もがありのままでいられるような、一人ひとりの個性が認められるような社会になってほしい」。

■「無理解によって重くなり、心理的にも負荷がかかっていく」

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 自身も吃音の症状を抱える川崎医療福祉大助教で言語聴覚士の飯村大智さんは「吃音の原因は分かっていないところも多い。まずは自分を責めすぎない。ご両親も戸惑うとは思うが、まずは一番の理解者として子どもの気持ちに寄り添う。そして、早めに専門家に相談することも必要ではないかと思う」と話す。

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「吃音というのは、最初は言葉が出にくいだけだが、周りの無理解に遭ったりすることで重くなり、心理的にも負荷がかかっていくものだ。そして成人になってからは、社会的な問題になりやすい。どんどん進んでいくのを予防するためにできるだけ早い段階から対応していくことが大切だ。最近では不安に対してのアプローチが行われているし、もちろん訓練で改善することもある。つっかえても楽に話せたといった目標でもいい」。

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 また、周囲の対応については「小学校に上がる前ぐらいから、詰まるとか繰り返すことに子どもはすごく敏感だ。周りがタブー視して見ないふりをすると、“なぜ自分の状態に周りは触れないのか。これは触れてはいけないものだ”ということがどんどん強化されてしまう。“今、苦しかったね”というふうにねぎらうとか、そういう声掛けも安心につながると思う。学校に入ってからも、音読ができないときに、先生がけげんな感じになると教室がシーンとなってしまう。

 そうではなく、“ちょっとつっかえたけどよく言えたね”など、できたことをしっかり認めることが大切だと思う。また、他の児童から“なぜつっかえるの?”と聞かれた時には“100人に1人くらいいるものなので決して特別ではない”といったことを伝えられると良いと思う」と提言した。

■気楽に“自分は吃音症だと言えばいい”と言うことではない

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 東洋経済新報社・会社四季報センター長の山田俊浩氏は「重さにもいろいろあると思うし、全員を一緒くたにすることはできないが、昔はテレビを見ると、例えば作家の井上ひさしさんなど吃音の方が出ていることがあった。しかしよく考えてみると、最近のテレビにはそういう人は出てこない。もしかすると、“この人は話すのが下手だから出すのをやめよう”ということになっているのかもしれない。しかし『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)で小倉智昭さんが吃音を克服し、話すことが好きになったと言っていたように、克服ということもあるんだろうと思う」との見方を示す。

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「吃音のある東京工業大学の伊藤亜紗教授が書かれた『どもる体』という本があるが、そこでは普通に話せるほうが奇跡なのだという逆転の発想で書かれている。むしろ詰まってしまうほうが自然で、フランス語のようにものすごく複雑な発音ができることの方が奇跡だと。そこにちょっとした故障が起きたり、命令系統が誤作動を起こしたりするということなのであって、実際、伊藤教授は堂々と講義や研究会で発言されている」。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「100人に1人ということは、単純計算で日本には100万人ぐらいの当事者がいるわけだ。そのくらい多いのに、社会にあまり問題として浮上してこないのには理由がある。あえて言い切ってしまうが、“恥ずかしい障害”と見られてしまうということだ」と指摘する。

 「僕は指定難病の潰瘍性大腸炎の当事者だが、この病気は腸から出血するので、お尻から血が出る。だから難病だと知らない人にはすごくバカにされる。僕自身も、酒の飲みすぎなのではないか、などと笑いものにされた。安倍前総理も同じ病気で、Twitterで“下痢ピー”などの酷い言葉を投げつけられていたが、安倍さんが公表して社会に認知されたおかげで、ようやく表に出せるようになった。吃音についても要するに同じような理由でみんな隠さざるを得ないということだと思う。

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 一方で、一生懸命練習して克服しようとすることで、かえって吃音であることを暴露してはいけないという抑圧にもつながり、それが辛いということもあると思う。障害や病気というのは、笑われるのは嫌だが、かと言って弱者というレッテルを貼られて気を遣われるのもつらいという面がある。じゃあどうしたらいいんだと怒られるかもしれないが、そういう、非常に微妙な気持ちがあることは理解してあげなければいけないということだ。気楽に“自分は吃音症だと言えばいい”と言うかもしれないが、それはLGBTと同じで、当事者本人の気持ち次第だ。そこを踏まえた上で、普通とは何なのか、多様性とは何なのかを考える必要があると思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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