「バ美肉」&アニメ好きと事件を紐づける報道に批判、撤回…推測・憶測に基づく“人となり報道”のリスク
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 墨田区の女子高校生の遺体を山梨県内の小屋に遺棄した疑いで逮捕された小森章平容疑者と妻の和美容疑者について、『AERA dot.』は1日、『「バ美肉」アニメ好きの20代新婚夫婦が女子高生を「殺害」した仰天の動機』と題する記事を配信した。

・【映像】バ美肉やアニメと犯行動機をなぜ紐づける?憶測混じる人となり報道は必要か?

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 記事では夫婦が「バ美肉」といわれる美少女バーチャルキャラクターやアニメを好んでいたと紹介、『Yahoo!ニュース』でもアクセスランキング入りしたものの、「煽りすぎ。動機とアニメ関係ないし」などの疑問の声が上がり、“「バ美肉」アニメ好きの20代新婚夫婦”は一時Twitterトレンドにも掲載された。

 批判を受けた『AERA dot.』は2日夜、「記事は重大事件の容疑者の人となりに迫ろうとしたものであり、趣味と容疑とを関連づけるものではありません。しかし、読者に誤解を与えかねないとのご指摘を受け、見出しの「『バ美肉』、アニメ好きの」は削除しました。お詫びして訂正します。」として記事を修正している。

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 この記事に対し、クリエーター支援などを行うNPO法人『バーチャルライツ』は「記述はアニメ・バ美肉と犯罪に関連があるかのような印象を読者に与えるものであり」などとする緊急声明を発表した。

 理事長の国武悠人氏は「バ美肉」について、「“バーチャル美少女受肉”のに略で、いわゆるバーチャルYouTuberさんや、ゲーム内でアバターを使って美少女になりきるといった文化の総称で、2018年ごろからブームになっている」と説明。

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 その上で、「今回の記事はタイトルそのものが特定の趣味・嗜好への差別や偏見を助長するものだったと考える。記事を読んでみると、アニメやバ美肉が犯行に影響を及ぼしたという明確な根拠などは書かれていない。つまり関係が無いにも関わらず関係があるかのような、誤解を招くタイトルで、非常に憤りを感じた。報道には自由もあるし、センセーショナルな見出しで閲覧数を稼ぎたいという思惑もあるのだろうが、それで性の多様性を侵害する、差別を煽動するものだと思う。この記事については修正が加えられ謝罪も行われたが、今後も同様の報道が出てきた場合、それによって差別的な言動を受ける人たちがいるかもしれないということを報道の人にはご理解いただければと思う」と怒りを露わにした。

■このままでは“見出し合戦”になってしまう

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 1988年~89年にかけて発生した東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件で逮捕された宮崎勤元死刑囚をめぐる報道が“オタクバッシング”や偏見を生んだことはよく知られており、2016年に男が女子中学生を誘拐、2年間にわたり監禁していた事件でも、一部メディアが“アニメ好き”と報道したことに対し多くのアニメファンが反発、政治家も巻き込んだ議論になったことは記憶に新しい。

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 脳科学者の茂木健一郎氏は「この見出しでは関連付けていると読むのが普通だと思う。やはり人は分からないものが出てくると“何それ”と不安になり、そこに原因があるのではないかというバイアスが働いてしまいがちだが、こういうことをやっているとアクセスは集まるかもしれないけど、信頼はどんどん落ちていくと思う。記事の見出しなので次の日には忘れられてしまうものなのかもしれないが、世界のバーチャルYouTuberの投げ銭ランキング上位には日本人がたくさん入っているし、そういう数少ない新しい文化、成長産業をこういう形で潰すというのはひどい」と指摘。

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 また、「虐待やネグレクトを受けた方が必ずそうなってしまうということではないが、成長してからの問題行動は生育環境、家庭環境と関係する傾向があるということが知られている。つまり再発防止の意味も込めて因果関係を報じるのであれば、容疑者が育つ中で辛いこと、苦しいことがなかったかということを考えるべきだが、なぜかそういう報道はあまり見かけない。また、容疑者にはお子さんがいらっしゃるということなので、そのケアもしなければならない」と訴えた。

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 フリーアナウンサーの柴田阿弥は「記事ではサバゲー(サバイバルゲーム)にも触れていて、これらの趣味・嗜好、文化が犯罪と関係あるかのような印象付けをしようとしていると捉えられかねないと思った。昔に比べれば減ったと思うが、今も“オタクバッシング”のようなものもあるし、こういうものを好む人=犯罪者予備軍というような偏見は非常に危険だと思う。とくに人が亡くなっている、社会への影響の大きい事件だし、メディアも慎重な取材と記事出しをしなければならないのではないか」、慶應義塾大学の若新雄純特任准教授も「分かりやすい肩書き、見出し、ストーリーの方が記事を読ませやすい、理解してもらいやすいとは思うが、危険性も孕む。一方で、分かりやすいものがなければ人々はなかなか読んでくれない。それでもきちんと読んでもらえるような仕掛けを作る努力をしなければ、コンテンツのクオリティは下がるばかりだし、いずれ“見出し合戦”になって自爆してしまう」と苦言を呈する。

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 議論を受け、テレビ朝日平石直之アナウンサーは「例えば事件取材をする中では、犯罪行為がエスカレートしていく前兆として、小動物を殺傷していたというような話が出てくることがある。本当に事件との関連があることだとすれば、周りが気付くことで違う結果になっていたかもしれないし、そこは報道する意味があるのかもしれないと思う。今回の『バ美肉』は全く違うよねと私も思ったが、そこを報じるかどうかの線引きはとても難しい」と語っていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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