「岸田文雄と申します。本籍地は広島県広島市であります。今9期目、広島の選挙区から選出され、28年間にわたって国会議員を務めている。原点は小学校の時。1960年代のアメリカで、小学校に通いながら人種差別を受けた。あの理不尽さが政治の原点だと思っています。やはり世の中において理屈が通らないこと、おかしいことに対しては、しっかりと物を言っていかなければいけないといった正義感を持ちたいというのが原点だと思っています。
広島カープが大好きです。広島、日本酒が大好きです(笑)。それ以外には、いくつか趣味はあるが大したことはない。他にあまり能力はないが、政治の道を志した以上は徹底的にこの道を極め尽くしたいと思っています」。
・【映像】岸田文雄緊急生出演!人柄は?総裁になったらどうする?
17日告示、29日に投開票が行われる自民党総裁選への出馬を早くから表明していた岸田文雄・前政調会長が『ABEMA Prime』(6日の)に生出演した。石破元幹事長が立候補を見送り、河野行革担当大臣を支援する方向で検討していることが報じられる中での出演。
冒頭の自己紹介に、元経産官僚の宇佐美典也氏は「響いた。私は小さい頃に住んでいたイタリアで結構いじめられた」とした上で、「現役官僚たちに聴いてみると、岸田さんと河野さん、2人ともレク(説明)に行くのが怖いという。河野さんが怖いのは怒られるかもしれないからで、岸田さんが怖いのは“聞く力”と言うとおり、他の政治家が受け流すところを、本当に質問してくるからだと言っていた。2人が合わされば良い政治家なのにということだ(笑)」と話す。
国民への説明、国民とのコミュニケーション不足が度々指摘されてきた菅政権。岸田氏は「今回の総裁選挙は、今の世の中にどんなリーダーシップが合うのか、ということがポイントとしてあると思う。みんな心が疲れている時に“頑張れ、頑張れ”というリーダーがふさわしいのか。それよりも心に寄り添って対話をし、協力を引き出すリーダーが求められるのか。私は後者だし、そういうリーダーが求められると思って、この選挙に挑戦している。
特にコロナとの戦いは我々政治家が旗を振るだけではなく、国民の皆さんに協力してもらわなければならない。そこで納得感、政治に対する信頼、気持ちの通じ合いがなければ、“なんで協力するんだ”ということになりかねない。私は“納得感につながる丁寧な説明”と言ってきたが、結果をしっかり説明することも当然大事だし、必要性や、決定に至るプロセスや背景を説明することによって理解が深まるということもある」とした。
■森友問題の“説明”、安倍前総理との“仲”は…?
総理・総裁の説明不足が指摘されていたのは、安倍前政権時代からのことでもある。政治ジャーナリストの石橋文登氏は、“岸田氏が2日に出演したテレビ番組で森友問題への説明不足を指摘したことに安倍前総理が怒り、高市早苗氏支持に回った”と話している。
ここで前出の宇佐美氏が「元国家公務員として、森友学園に関する財務省の文書改ざんで自殺した近畿財務局の元職員・赤木俊夫さんのことがずっと心に引っかかっている。調査報告書については納得のいく内容だったが、政治家は赤木さんの妻・雅子さんとちゃんと向き合ってこなかった。それが裁判につながって、今なおくすぶっている原因だと思う。司法の結論が出たときには、政治家として雅子さんと向き合う覚悟があるのか」と切り込んだ。
まず岸田氏は安倍前総理について「ついこの間まで、しかも長い期間、総理大臣であられた。やっぱり人脈と、大きな影響力・発言力を持っている、これは間違いないと思う。私にとっては平成5年に初当選した同期の間柄だ。自民党では安倍さんが31代目の青年局長、私が32代目と、同じような道を歩いてきてもいる。人間的には心安い、安心できる存在だ」とした上で、森友問題について次のような認識を示し、繰り返し“説明する”と強調した。
「安倍さんがどう判断されているかは分からないが、行政において調査が行われ、報告が行われた。やるべきことは行われた。再調査するとか、行政や司法の対応についてどうこうということは全く言っていない。今、司法において裁判が行われていて、これから判決が下されることになるが、これらがしっかり出た段階で、必要であれば説明するということを再三申し上げてきた。これもやはり対話、丁寧な説明を大事にするという姿勢から、行政の結論、司法の結論、これを踏まえ、求められたら説明するということだ。それ以上でもなければそれ以下でもない」。
テレビ朝日政治部の今野忍記者は「岸田さんと安倍さんの仲が良いのは確かだ。しかし実質的に安倍さんの派閥になっている細田派(清和政策研究会)と、岸田さんの宏池会(岸田派)が仲がいいか、近いかと言えば、必ずしもそうではない。そもそも自民党(自由民主党)は1955年、吉田茂元首相が作った自由党と、鳩山一郎元首相が作った日本民主党が一緒になってできた党(保守合同)だ。
そして吉田さんの愛弟子・池田勇人元首相が作ったのが岸田さんのいる宏池会だし、日本民主党にいた安倍さんの祖父・岸信介元首相が今の清和会に繋がっている。宏池会が憲法を守り、軽武装・経済外交でやっていこうという“ハト派”なのに対し、鳩山一郎さんら日本民主党の人たちはアメリカに押し付けられた憲法は改正しなければならない、というスタンスだ。安倍さんが高市さんの支援に回るのも、やはり岸田さんよりも高市さんの方が思想信条を一緒にする政治家だからだ」との見方を示した。
■核廃絶への思い、しっかり訴えるのが日本の役割
では、岸田氏の経済・外交政策はどのようなものなのだろうか。ジャーナリストの堀潤氏は「広島の選出ということもあり、政治信条の中には非核化・核廃絶もあるということだが、安倍さん、菅さんの路線とはまた違った形での言葉を発信していくのか」と質問。
岸田氏は「核軍縮に関しては、もっと踏み込んで行動しなければいけない。世界最大の核保有国であるアメリカとの同盟国である一方、バイデン大統領は“核兵器のない世界を目指す”と言っている。ここはぜひ、核のない世界に向けた対話を重ね、協力をする、前進をする。その道筋を作っていく。日本としては、そうした役割を果たすことが唯一の戦争被爆国としての責任であり役割だ。この思いはしっかり訴える」と回答。
さらに堀氏が自衛隊法や日米地位協定の問題について重ねて質すと、「かつて外務大臣として平和安全法制を担当し、1~9月まで国会で二百数十時間、野党の質問に耐え続けた立場からすると、その法体系の中で自衛隊法をどう考えるのか、ということだ。今回アフガニスタンにおいて500名近い日本大使館の現地職員とその家族が取り残された救出のためには様々な法律が関係してくるが、現実を見たときに、国民から見て少しおかしいところはないだろうか、もう一度点検する必要がある。ただし、自衛隊法はいわゆる平和安全法制を始めとした法体系の一部なので、触ろうとすると他にも影響が出てくる。ここは全体を見ながら考えていかなければいけない課題だ。
また、日米地位協定が他の国との比較において、決して日本にとって不利な条件が強すぎるものではないと思う。ただし、絶えず見直していかなければいけないものだ。こちらも巨大な法体系なので、触るのはなかなか大変なことだ。それでも環境問題など、元々の協定に含まれていなかった課題については補足協定という形で少しずつ変えていく作業もしてきた。世界の趨勢、現実の中で、絶えず見ていかなければいけない」との認識を示した。
■コロナ禍で要るものは国債で借金してでもしっかりと出す
岸田氏は先月29日、若手経営者らとのオンライン面談の場で、「30兆円程度の経済対策が必要」との認識を示している。「高市さんは“サナエノミクス”として、かなり振り切った財政出動、そしてプライマリーバランスの黒字化の先送りについて言及している。海外のマーケットも非常に注目されているが、どのようなお考えなのか」と堀氏。
岸田氏は「今はコロナとの戦いだから、要るものは要る。これは国債で借金してでもしっかりと出す。そして、コロナとの共存、“ウィズ・コロナ”として、平時に近い生活を取り戻すための努力をしているわけだが、そこから先は、まず経済を成長させなければいけない。私は“新しい資本主義”を掲げ、コロナ禍で格差が広がってしまった後、経済成長の果実を意識的に分配するためのシステムを考えている。ただ財政の方については、それが軌道に乗った先だ。まずは経済を回し始めてから財政のプライマリーバランス等についてしっかり考える。その時期がどこまでずれ込むのか。一方的に線を切って、ずれ込んでもこれを死守するというものではない」との認識を示した。
エネルギー業界に携わる宇佐美氏は「経済との絡みで伺いたいのは、原発をどうするのか、ということだ。今年の冬も電力が足りなくなる可能性が非常に高いと言われているが、去年の年末には、電力卸売市場の値段が普段は8円ぐらいのところ、250円ぐらいまで上がってしまった。河野さんは原発に関してはかなりネガティブだが、岸田さんはどうなのか。六ケ所村の核燃料の再処理工場の稼働が迫っているが、そこはどう思うか」。
岸田氏は「すぐに廃止する云々は現実的ではないと思っている。環境との関係が大変重要だが、やはり生活を支えるコストのバランスが大事だ。再生エネルギーについては技術革新が進んでいるのでブレイクスルーが起こるかもしれないが、その目処が立つまでは原発は必要だ。なおかつ、原子力の技術は医療をはじめ様々な分野でも重要な役割を果たしている。日本としてはこの技術の部分は国の大切な要素として守り続けていかなければいけない。安全性とともに、使用済み核燃料の問題をどうするのかという問題もある。その辺の兼ね合いも考えながら、走りながら考えるというのが現実的ではないか。またこの2つがまだ解決されていない課題だと思う」とした。
■「人の絆の暖かさを感じられる社会」
前回は自著『岸田ビジョン 分断から協調へ』でこうした自らの政治信条、政策を訴えていた岸田氏だが、自身の短所・課題として“発信力”を挙げてもいる。今回は「岸田BOX」として、質問や要望を募る試みも始めている。
「菅総理はこの1年間、大変な努力をされた。通信料金を下げ、デジタル庁もスタートするなど、いろんな成果を上げられたわけだが、それにもかかわらず国民が“どうも自分たちの声が届いてないんじゃないか”と感じてしまっているところが、今の世の中の雰囲気だ。私もこの1年間、ずっと話を聞いてきた中でそれを感じたし、今回の総裁選挙の原点の一つだと思っている。
私に発信力がないと指摘されていること、これはたえず反省し続けているが、喋り方とか声とか外見とか身振り手振り以上に大切なのは中身だし、発信する仕方、言葉だというふうに思う。まずは言葉を磨いた上で、発信の仕方、外見的な要素をしっかり工夫し、どうやったらより効果的に伝わるのか。これを少しずつ試行錯誤してきた。少し変わってきたと最近言われてはいるが、引き続きもっと努力を続けなければいけない」。
フリップに手書きで記したのは「人の絆の暖かさを感じられる社会」。
「去年の総裁選挙で負けたのは私の力不足だが、負けた途端、“もう岸田は終わった”という厳しい声もいっぱいもらった。それからの1年間、いろんなことがあった。やはりうまくいかなかったことの方が多かったように思う。広島の参議院の再選挙では、広島の県連会長として負けた。そういうことがあるたびに、随分批判された。何回も“終わった。終わった”と言われた。その中で、まだ自分にはやることがあると思い直して、なんとか歯を食いしばって、さっき言った努力を繰り返してきた。その経験の中で、少しずつ変化は生じたんじゃないかと思うし、いや、まだ諦めるわけにはいかないという感じだ。
国民の一体感が無ければ、経済だけじゃなく社会、あるいは政治の安定を損なう。やっぱり人間は一人では生きていけない。もちろん“自助”は大切だが、やはり今回、コロナ禍の中で改めて家族や仲間、地域の絆、こういったものの大切さを我々は感じたわけだから、ぜひこうした絆、心の温かさを大事にできる社会にしてみたいものだと思っている」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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