[キリンチャレンジカップ]日本 4-1 パラグアイ/6月2日/札幌ドーム

 前回のロシア・ワールドカップにコーチとして参加した森保一監督は「日本の特長を出していかないと世界では戦えない」と感じたそうである。

 その大前提が変わっていなければ、今回のカタール大会ではドイツやスペインが相手だとしても堅守を軸にした腰の引けた戦いは想定していないはず。そして指揮官がW杯の本番で日本の攻撃的な特性を引き出すビジョンを描いていることを考えれば、パラグアイ戦は非常に示唆に富んだ実験になったはずだ。

 まず攻撃的な特長を引き出すには、自陣にこもるばかりではなくコンパクトな陣形を高めに設定する必要がある。またいくら日本代表の平均身長が180センチを超え、世界に伍して戦える高さを備えつつあるとはいえ、GKのロングキックから始まるスタイルが有効だとは思えない。

 せっかくマイボールで始まるリスタートなら、最後尾からしっかりと繋いで運びたい。そう考えたときに、今までシュミット・ダニエルを起用してこなかった理由が見当たらない。
 
 確かに森保監督が第一選択肢として使い続けてきた権田修一も「以前なら蹴ってしまっていたボールを繋げるようになった」と自己評価している通り、総合的にも成長の跡は見て取れる。だがパラグアイ戦でも証明したシュミットの冷静で安定感に満ちたパス回しの域には到達していない。

 一方でシュミットには、ハイボール処理の安定感もあり、前半2度脅かされたブラス・リベロスのミドルシュートと、オスカル・ロメロのFKにもしっかりと対応している。逆に日本のウイークポイントと言われてきたGKに、これだけの資質を備えた選手がいるのに、なぜ指揮官がチャンスを与えてこなかったのかが不思議で仕方がない。

 次にようやくチャンスが巡ってきた伊藤洋輝も、デビュー戦から前半はSB、後半はCBでフル出場させているから、指揮官の期待の高さが見て取れる。

 まず、ほかのSB候補と比べればミドルレンジ以上の位置からのキックの精度が傑出しており、ピッチの左半分でレフティがプレーするメリットを実感できる。もちろん失点に繋がるパスミスを初め、厳しい状況での判断など課題も見えたが、そこは経験値が解消してくれるはずで今後の日本代表の大きな伸びしろを提示してくれた。
 
 W杯最終予選を終えて最初の試合でスタメン起用したことを踏まえても、おそらくシュミットと伊藤は指揮官にとっても最も早く試したいピースだったはずだ。これまでは経験値優先の慎重采配に終始してきた森保監督だが、強豪相手に決まった組み合わせ抽選を機に大胆な舵取りへの転換を期待したい。またそうでなければ大番狂わせは起こらない。

 前線に目を向ければ、日本代表に復帰した鎌田大地にとっては、もはや物足りない強度の試合に過ぎず、相手との格の違いが浮き彫りになった。ただし、インサイドハーフは攻守のバランスを備えた田中碧と守田英正も捨て難い選択肢なので、今後は鎌田の最適解を探っていく必要がある。
 
 両翼の三笘薫と堂安律もほぼ実力と期待通りの働きを示し、もうひとりのインサイドハーフとして当落線上の原口元気はアグレッシブさと安定感、それに仕上げのパスの精度でアピールした。

 逆に評価が難しいのが最前線のスプリンターたちだ。浅野拓磨は先制ゴールを決めたが、十分にスペースがあるときでもボールを落ち着かせることができていなかった。また浅野に代わって途中出場した前田大然は、度重なる絶好機をことごとく外しまくり、彼の日ではなかった。

 しかし格上相手になるW杯本番では、序盤の主導権争いが大きなカギになる。フィニッシュの安定度に難があるとしても、最前線からのハイプレスを敢行するなら、これほどスプリントを繰り返し、相手守備陣に脅威を与えられる存在はいない。森保監督にとっては、最後の悩ましいテーマになるかもしれない。

取材・文●加部 究(スポーツライター)

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