「今回のカタール・ワールドカップ(W杯)は、9月の活動が実質、直前合宿のようなものになる。6月が最後のアピールの場になるんじゃないかと思ってます」

 日本代表のキャプテン・吉田麻也(サンプドリア)がこう語ったように、6月のインターナショナルマッチデー(IMD)に4試合が組まれた今シリーズのラストとなる14日のチュニジア戦は最終サバイバルの場。11日に全体練習に復帰した冨安健洋(アーセナル)含め、ここまで十分にパフォーマンスを発揮しきれていない面々にとっては、結果と内容の両方が求められる重要な一戦だ。

 ここまでの全3試合に先発し、6日のブラジル戦(0-1)はフル出場、2日のパラグアイ戦(4-1)と10日のガーナ戦(4-1)でそれぞれ45分プレーした吉田自身も、確固たる手応えを掴んだ状態で今回の活動を終えたいところ。

 というのも、彼は2020年1月から2年半プレーしたサンプドリアとの契約が今月末に満了となるため、新天地を見出さなければならないからだ。

「(IMDの)2週間で動きがあるのかどうかはエージェントに任せてますし、まあ、なるようになるでしょう。むしろ何か良い案があれば、教えていただけませんか?」と、5月31日のオンライン取材で吉田は冗談交じりに語っていた。欧州で出番を得られる新たな環境を見出せるか否かは、自身3度目となるW杯の成否を大きく左右する。
 
 2014年ブラジル大会、2018年ロシア大会をともに戦った長友佑都(FC東京)、酒井宏樹(浦和)、大迫勇也(神戸)が昨年相次いでJリーグ復帰を決断。それぞれの場で奮闘しているが、長友が今季開幕から控えに甘んじたり、酒井と大迫が怪我を繰り返すなど、彼らの状況は必ずしも芳しいとは言えない。Jリーグのレベルが年々上がっているとはいえ、世界基準の強度や激しさ、迫力にはまだ遠いと言わざるを得ないところもある。

 カタール本大会でドイツのティモ・ヴェルナー(チェルシー)、スペインのアルバロ・モラタ(ユベントス)のようなトップFWと対峙することを考えると、吉田にとって国内復帰は不利。やはり何としても欧州残留を果たすことが肝要だ。

 代表での守備陣の競争を考えても、アーセナルのレギュラーである冨安が長期離脱から復帰。板倉滉もシャルケからハイレベルのクラブへの移籍が濃厚だ。CBをこなせる長身レフティ・伊藤洋輝(シュツットガルト)も一気に存在感を高めるなど、CBの人材は何人かいる。W杯過去2回出場、国際Aマッチ117試合という高度な実績を持つ吉田といえども、うかうかしてはいられない部分があるのは確かだろう。

 とはいえ、ご存じの通り、彼には類まれなリーダーシップや発信力、人間的な器など、今の代表に不可欠な要素が複数ある。ちょうど4年前のロシアW杯で8年間キャプテンを務めた長谷部誠(フランクフルト)が代表引退を決断した際、「自分がどうあがいても長谷部誠にはなれない」と号泣。その涙は我々報道陣の心を揺さぶった。
 
 先輩たちが築いてきたものを重く受け止めた吉田が、その後の4年間、必死に守り、日本のレベルアップに最大限の努力を払った事実は誰もが認めるところ。その影響力の大きさは凄まじいものがある。

 実際、今回の最終予選では序盤3戦で2敗という絶体絶命のピンチに陥った時も、「万が一、予選敗退でこのチームの活動が終わるなら、そんな不甲斐ない結果になってしまったら、スッパリ辞めようと思います」とまで発言。潔く責任を取る覚悟を示した。

 キャプテンにそこまで言わせた森保一監督も選手も奮起しないわけにはいかない。直後のオーストラリア戦から奇跡の復活を遂げられたのも、吉田麻也という人間の気迫と危機感をチーム全体がしっかりと共有したからに違いない。

 そんな大黒柱を外すという選択肢は、今のところ指揮官にはないだろう。今回も3試合連続で先発させ、14日のチュニジア戦でもスタメンで送り出すはずだ。

 ただ、どんな選手にも怪我はあるし、コンディション不良はつきもの。吉田自身も今年1月の怪我で最終予選の中国・サウジアラビアとの2連戦を棒に振ったばかりでなく、サンプドリアでの出場機会も失った。ここから5か月間も未知数なところがあるため、目の前の1試合1試合を大事にするしかない。「自分自身の価値を示さなければいけない」と本人も語気を強めていただけに、守備陣のリーダーに相応しいパフォーマンスを求めたいものである。
 
 世界ランクトップのブラジルとの一戦を振り返ってみると、日本の守備陣はそこまで大崩れすることはなかった。ただ、吉田自身はネイマール(パリSG)やルーカス・パケタ(リヨン)といった強烈アタッカー陣に揺さぶられ、ギャップを作られるシーンも散見された。ネイマールのシュートブロックなど好プレーを連発した板倉に比べると、やや見劣りした印象も拭い切れなかったが、誰よりも賢い吉田なら、自分自身の現在地をよく理解しているはずだ。

 サンプドリアで今季終盤はほとんど出番を得られず、守備の感覚を磨く機会が減ったことも多少の影響はあるだろう。が、今回の6月シリーズで継続的にピッチに立ち、本来の鋭さや読み、戦術眼を取り戻すきっかけは掴んだはず。それをチュニジア戦で遺憾なく発揮し、カタールに大きく前進すること。吉田はそこにフォーカスすべきである。

 W杯で悲願のベスト8進出を果たすためにも、大ベテランにはもう一段階、飛躍してもらわなければ困る。長谷部が30代半ばからグッと成長したように、8月に34歳になる吉田も偉大な先輩の系譜を踏襲してほしい。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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